第8話 そして、少年は決意した
「お前には、『エルード』に行ってもらう!」
と、春風に向かってそう言ったゼウス。
「はぁ……はい?」
その言葉を聞いて、
「あのぉ。ぜ、ゼウス様、あなた一体何を言って……?」
と、春風は自分が何を言われてるのか理解出来なかったが、
「……あ」
真っ直ぐ自分を見つめるゼウスの表情を見て、
(うん。これ冗談じゃなさそうだな)
という結論に至ると、すぐに真面目な表情になって、
「詳しく教えてください」
と、真っ直ぐゼウスを見ながらそう言った。
そんな春風の言葉を聞いて、ゼウスが「わかった」と返事すると、
「さっきも言ったが、俺達『地球の神々』は『エルードの神々』に何かが起きたんじゃないかと考えている。それを知る為には直接本人達に会わなきゃならねぇが、どういう訳かアイツら『エルード』の中、それも俺ら『神』でも干渉できない領域の中にいるもんだから、全然見つけることが出来ねぇんだ。『神』の主な仕事は各々が担当している『世界』の管理で、特別な事情がない限り『世界』に介入することは禁止になっている。こいつは他の世界でも同様で、アイツらが自分達の『世界』の中に引き篭もってる以上、俺達でもどうすることも出来ねぇ。そこで……」
と、そう説明した後、最後にジッと春風を見つめてきたので、
「……俺の出番、という訳ですね?」
と、春風が恐る恐るそう尋ねると、
「そうだ。俺達じゃあいつらの『世界』に干渉出来ねぇ。出来るとしたら現状、不完全なものとはいえ『異世界召喚』の対象となった春風、お前だけっつうことになる。それなら、お前が向こうに行ってあいつらを見つけ出し、何が起きてるのか直接話を聞く。当然、その時は俺達も参加するぜ」
と、ゼウスは説明を続けるようにそう答えた。
その答えを聞いて、
「それが、地球を救う糸口になる……ということですね?」
と、春風が再びそう尋ねると、ゼウスは無言でコクリと頷いた。
いや、ゼウスだけでなく、アマテラスとオーディンも、無言でコクリと頷いた。
それを見た瞬間、春風の表情から「絶望」が消えたので、
「俺は……」
と、目の前の神々に向かって自分の『答え』を言おうとした、まさにその時、
「待って春風君」
と、それまで黙っていたアマテラスが口を開いたので、それに春風が「え?」と反応すると、アマテラスはソッと春風の肩に手を置いて、
「春風君。あなたは自分が何を言おうとしてるのか、本当にわかってる?」
と、春風に向かって何処か悲しそうな表情でそう尋ねた。
そんなアマテラスを見て、春風が「それは……」と答えようとすると、
「春風君。わかってるとは思うが、これは文字通り『世界の命運』がかかっている。失敗すれば二度と故郷には帰れない……いや、もしかしたら死ぬよりも残酷な結末を迎えるかもしれないだろう。そして、向こうの『神々』だって、もしかしたら僕達が思ってるよりも最悪なことになってるかもしれない。勿論、僕達は彼らが大丈夫だと信じているけどね」
と、オーディンもアマテラスと同じように何処か悲しそうな表情でそう言ってきたので、
「……」
と、春風は無言で顔を下に向けた。
確かに、アマテラスやオーディンが言うことにも一理あるし、実際に「エルード」という世界に行ったからといって、それが地球を救うことに繋がるかもわからない。
何より「神々」が本気で春風のことを心配してくれているのが言葉から伝わってきている。当然、それはゼウスに言えることで、「方法」を説明したとはいえ、彼の表情からは「春風を危険な目に合わせたくない」という想いも感じられた。
しかし、
「アマテラス様。ゼウス様。オーディン様」
そう口を開いた春風に、
「「「ん?」」」
と、アマテラス達が反応すると、春風はゆっくりと顔を上げて、
「俺、『エルード』という世界に行きます!」
と、真っ直ぐアマテラス達を見つめながらそう言った。
その言葉を聞いて、アマテラス達は「う……」と呻いたが、それでも何か言おうとジッと春風を見つめながら何か言おうとした。
しかし、
「申し訳ありませんが、俺はこの決断を変える気はありません」
アマテラス達が何かを言う前に、春風はハッキリとそう言い放った。
その時の春風の表情には、一切の迷いがなかった。
何故なら、実はゼウスから「たった1つの方法」を聞いた時に、真っ暗な闇の中で出会った男性の形をした「光」が最後に言った言葉が、春風の頭の中に浮かんだからだ。
ーー春風……。
(ああ、今ならわかる)
眩い光の中で、春風はその時、自分が「光」から何を言われたかを思い出す。
ーー春風、『世界』を……君の『大切なもの』を、守るんだ。大丈夫、君ならきっと出来る。
その言葉を思い出した瞬間、
(だったら、俺の『答え』はもう決まってる!)
と、それまで春風を襲っていた「絶望」が、一気に消え去ったのだ。
その後、春風はアマテラス達を前に正座をすると、
「アマテラス様。ゼウス様。オーディン様。確かに、俺がやろうとしていることは、多くの危険が伴うことですし、一歩間違えたら死ぬことだってありえるでしょう。それに、今オーディン様が仰ったように、向こうの世界の神様達についての不安は俺にもあります」
と、改めて真っ直ぐ3柱の神々を見ながらそう言った。
その言葉に、アマテラス達は「当然だな」と言わんばかりに表情を曇らせていると、
「ですが、だからといってこのまま何もしないなんて俺は嫌ですし、地球には大切な家族や、大切な人達もいます。そして、地球にはまだ、やりたいことだって沢山あるんです。だから地球には無くなってほしくないですし、俺の大切なものを守る為に出来ることがあるのなら、俺は、やります!」
と、春風は真っ直ぐアマテラス達を見つめながらそう話しを続け、
「ですから、もう一度言います」
と、アマテラス達に向かってそう言うと、
「お願いします! 俺を、『エルード』という世界に行かせてください!」
と、最後は額を真っ白な地面につけながら、土下座するようにそう言った。
いや、最早、土下座していると言った方がいいだろう。
そんな春風の言葉にアマテラスとオーディンは、
「「うぅ。は、春風君」」
と、今にも泣きそうになる中、ゼウスはニヤリと笑うと、
「よっしゃあ! わかったぜ春風! お前の『決意』、しかと聞いた! それなら、早速準備に取り掛かろうじゃねぇか!」
と、ガシッと春風の両肩を掴みながら言った。
その言葉を聞いて、
「え? じゅ、『準備』って何をするんですか?」
と、春風が恐る恐るそう尋ねると、
「決まってんだろ! お前の体を改造するんだよ!」
と、ゼウスはハッキリとそう答えたので、
「……へぇ?」
と、春風はそう声をもらしながら、タラリと汗を流した。