第81話 エレンvs「勇者」爽子
今回は、いつもより少し短めの話になります。
ルーセンティア王国、王城内にある訓練場。
その訓練場内で、今、「勇者」の1人にして水音達の担任教師である爽子と、自身を「エレン」と名乗った少女の戦いが始まろうとしていた。
それぞれ訓練用の木剣を構えながら、爽子とエレンは睨み合う。
そんな彼女達を、水音ら勇者達と、無傷の状態の兵士数人が見守っている。
そして、兵士の1人の汗が、ポタンと地面に落ちた時、
「「っ」」
爽子とエレンは同時に飛びかかり、持っている木剣をぶつけた。
木剣同士の鍔迫り合い。
その場から1歩も動けずにいる爽子とエレンなのだが、
「く……」
(ああ、先生が押されてる!)
と、水音が大きく目を見開いたように、爽子の方が少しずつエレンに押されている状態だ。
そんな状態の中、
「は! 流石は神々に選ばれた『勇者』だ、他の人間にはない強い『力』を感じる……!」
と、エレンは口元を歪めながらそう言うと、
「だが!」
と、木剣を握る力を強くして、
「実際の強さなら、私の方が上だ!」
と叫びながら、爽子を木剣諸共後ろに押し出した。
「あ……!」
押し出されたことによってバランスを崩しそうになった爽子だったが、
「くぅ!」
と、咄嗟に木剣を地面に突き立てたので、どうにか踏ん張ることが出来た。
しかし、
「はぁ!」
「っ!」
そこへエレンが素早く近づいてきて、爽子に向かって木剣を振り下ろした。
『せ、先生!』
と、悲鳴をあげた水音達を他所に、爽子がとった行動は……。
「負ける……かぁ!」
ーーガッ!
なんと、前方に向かって飛び出し、エレンにタックルをかました。
「がは!」
思わぬ反撃をくらい、エレンは持っていた木剣を落としそうになった。
(今だ!)
と、そう思った爽子は、エレンの木剣に向かって手を伸ばす。
それを見て、
「う、上手いです先生!」
「これで、あいつの武器を奪えれば……!」
と、水音達は表情を明るくした、まさにその時、
「なんのぉ!」
と、エレンはそう叫ぶと、落としかけた木剣をグッと握り締めて、爽子に奪われるのを阻止した。
そして、エレンは自身の体を回転させると、その勢いをのせた木剣による攻撃を爽子にお見舞いした。
「うぐ!」
強烈な痛みに、爽子は苦しそうに呻き声をあげる。
しかし、そんな爽子に構わず、
「はぁあああああ!」
と、エレンは今度は木剣による連続攻撃をお見舞いした。
当然、これを爽子は木剣で防御していたが、やはり先程のダメージが大きかったのか、その攻撃を全て防ぐことは出来なかった。
「はぁ……はぁ……」
エレンからの怒涛の攻撃を受けて、その場に片膝をつく爽子。その表情はとても苦しそうで、
「ま、まだだ……!」
と、木剣を杖代わりにしてなんとか立ち上がろうとしたが、
(だ、駄目だ。力が入らない)
と、攻撃を受けすぎた所為で全身に力が入らず、その場から動けずにいた。
『あぁ! 先生ぇ!』
と、再び悲鳴をあげた水音達。
そんな水音達を無視するかのように、
「全く、今のは流石に危なかったな……」
と、エレンはグッと木剣を握り締めながら、ゆっくりと爽子に近づいた。
そして、
「これで……トドメだ!」
と、エレンが木剣を振り上げ、それを爽子に向かって振り下ろそうとした、まさにその時、
『させるかぁ!』
「何!?」
なんと、それまで爽子とエレンの戦いを見守っていた水音達が一斉に飛び出して、2人の間に割って入ったのだ。
そう、まさに爽子を守ろうとして、だ。
「お、おぉ?」
水音達……否、自身と同じ年頃くらいの20数人の少年少女達に睨まれて、エレンはビビったのか木剣をもったまま後ろに下がる。
そんなエレンを、水音をはじめとした数人の男子クラスメイト達が睨み、その後ろでは、
『先生、大丈夫!?』
と、歩夢や祈ら女子クラスメイト達が、爽子に向かって声をかけていた。
その声が届いたのか、
「み、みんな……」
と、爽子は弱々しい声でそう返事したので、それに女子達だけでなく男子達もホッと胸を撫で下ろす中、
「……ごめん。カッコ悪いとこ、見せちゃったかな」
と、爽子は震えた声でそう謝罪してきた。
それを聞いて……。
ーーブチン!
と、水音の中で、何かが切れた音がした。
そんな状況の中、
「どうするよ? このままみんなで、あいつ叩きのめすか?」
と、進がエレンを睨みつけながらそう尋ねると、
「いや、僕達全員だと、なんか弱いものいじめになっちゃうんじゃないかな?」
と、進の隣で耕がそう尋ね返した。
その質問を聞いて、
「ははは、それは『勇者』としてはどうかと思うよ」
と、今度は純輝が苦笑いしながらそう言い、
「なら、俺が奴と戦おうか……」
と、煌良がそう提案した、まさにその時、
「……いや。僕が行くから、みんなは先生をお願い」
と、水音が何やら恐ろしく低い声でそう言ったので、
「……桜庭。お前、いけるのか?」
と、煌良がそう尋ねると、
「ああ」
と、水音そう返事した後、
「僕は今……もの凄く機嫌が悪いんだ!」
と、水音は目の前のエレンを睨みつけながら、怒鳴るようにそう言った。
その言葉にを聞いた瞬間、煌良や純輝、更には女子達や爽子だけでなく、目の前のエレンや、周囲の兵士達までもが、まるで何かにビビったかのように体を硬直させた。
その後、
「……わかった。ただし、条件がある」
と、煌良がそう口を開いたので、それに水音が「ん?」と反応すると、
「俺達のぶんまで、奴をぶちのめしてこい」
と、煌良はチラッとエレンを見ながらそう言った。
そんな煌良の言葉を聞いて、水音は意外なものを見るかのように大きく目を見開いたが、すぐにその目を細めながら「ふふ」と小さく笑うと、
「ああ。言われなくても、そのつもりだ!」
と、エレンを見て不敵な笑みを浮かべながらそう言った。
今回は、「かなり本格的な戦闘」をイメージしました。
表現や文章がおかしかったらすみません。




