第78話 「皇帝陛下」が来る?
「ストロザイア帝国皇帝、ヴィンセント・リアム・ストロザイア。彼がルーセンティア王国に来る」
と、水音達に向かってそう言ったウィルフレッド。
その言葉を聞いて、水音達はポカンとなったが、
「え!? ヴィンセント皇帝陛下が、ここに来るんですか!?」
と、すぐにハッと我に返った爽子が、驚いた口調でそう尋ねてきたので、
「うむ。驚くのも無理はないが、真の話だ」
と、ウィルフレッドは真剣な表情でコクリと頷きながらそう答えた。
その答えに爽子が「なんてこった!」と言わんばかりショックを受けている中、
(ま、まさか、ヴィンセント皇帝陛下がここに来るなんて!)
と、水音も爽子と同じような表情になっていた。
そして、水音がふと周りを見回すと、どうやら爽子だけでなく、歩夢、美羽、純輝、煌良、優も、水音と同じ表情していた。
するとその時、
「あのぉ……」
と、祭が恐る恐る手を上げながらそう口を開いたので、
「ん? ど、どうした出雲?」
と、それを見た爽子がそう反応すると、
「先生……というか、桜庭君や海神さんもなんだけど、その『ヴィンセント皇帝陛下』って人のこと知ってるんですか?」
と、祭が未だに恐る恐るといった感じでそう尋ねてきた。
その質問に対して「え?」と声をもらした爽子が周囲を見回すと、祭だけじゃなく祈、絆、進に耕、そして他のクラスメイト達までもが、爽子を見て「どういうこと?」と言わんばかりに首を傾げていたので、
(あ、そうだよ! ヴィンセント陛下のことを知ってるのは僕と先生、海神さんに天上さん、正中君、力石君、小日向さんだけだった!)
と、水音は今になって思い出したかのようにハッとなった。
そして、それは爽子も同様で、「あー……」と気まずそうな表情を浮かべると、
「その話をする為に、まずは確認したいんだけど、みんなは『ストロザイア帝国』自体については座学で習ったよな?」
と、周りのクラスメイト達を見回しながらそう尋ねた。
その質問に対して、祭は「え?」と首傾げた後、
「えっと……確か、このルーセンティア王国に並ぶ大きな国で、『魔導具』っていう魔力を秘めた武器や道具を作る技術力が高い……でしたよね?」
と、祈が少し自信なさそうにそう答えたので、
「うん、正解だ」
と、爽子が笑顔でコクリと頷くと、
「で、ウィルフレッド陛下の自室には、そのストロザイア帝国で作られた、『鏡型通信魔導具』っていうのが置かれているんだ」
と、祈だけでなく他のクラスメイト達に向かってそう言った。
その言葉に祈が、
「そ、そうなんですか!?」
と、驚きながらそう尋ねると、
「そうだ。あれは使う人間が魔力を流すことによって、遠くにいる人間と話をする為の魔導具なのだ。勿論、普通の鏡としても使えるぞ」
と、爽子の傍に立っていたウィルフレッドが、爽子の代わりにそう答えたので、
『おおっ!』
と、祈をはじめとした水音、歩夢、美羽、純輝、煌良、優の6人を除いたクラスメイト達がそう声をあげた。
それを見て、爽子は「あはは」と苦笑いすると、
「……で、この世界に召喚された日の夜、私と桜庭、海神、天上、正中、力石、小日向は、ちょっとしたキッカケでウィルフレッド陛下の部屋に入ることになって、陛下達と話をしている時にその鏡の魔導具が光って、そこからヴィンセント陛下と、その妻であるキャロライン皇妃様と話をする流れになったんだ」
と、再び周りのクラスメイト達を見回しながら、その時のことを話した。
それを聞いて、
「そ、そうだったんですか」
と、祈が納得したかのような表情を浮かべていると、
「そ、それで、そのヴィンセント皇帝陛下っていう人が来るっていうのは、どういうことなんですか?」
と、すぐに「おや?」と言わんばかりの表情でそう尋ねてきたので、
「うむ。実は先程、ヴィンセント皇帝から連絡があってな、『仕事がひと段落したから、準備が出来次第そっちに行くからな。楽しみに待ってろよ』だそうだ」
と、ウィルフレッドは1歩前に出ながらそう答えた。
その答えを聞いて、
「は、はぁ、そうでしたか……」
と、水音はそう納得した後、
「あの、それでヴィンセント陛下は、何をしにこちらに来るのですか?」
と、ウィルフレッドに向かってそう尋ねると、
「勿論、其方達『勇者』への挨拶と、『春風』殿について詳しい話を聞く為だ。前はその話をする前にちょっとした騒ぎになってしまったがな」
と、ウィルフレッドは「ははは」と苦笑いしながらそう答えたので、その答えを聞いて、
(ああ、そういえばそうだったなぁ)
と、水音はその時のことを思い出して、ウィルフレッドと同じように「ははは」と苦笑いした。
その後、水音は気持ちを切り替えて、
「それで、その方はいつ頃こちらに来るのでしょうか?」
と、ウィルフレッドに向かってそう尋ねた。
その質問に対して、ウィルフレッドは「む?」と反応すると、
「うむ、早くても明日か、明後日になるとのことだ」
と、水音に向かってそう答えたので、
「え!? 『明日』か『明後日』って、幾らなんでも早すぎませんか!? 座学では、こことストロザイア帝国の首都『帝都』はかなりの距離があると習いましたが!」
と、水音はその答えに目を大きく見開きつつ、ウィルフレッドに向かって「どういうことだ!?」と尋ねると、ウィルフレッドは「うむ」と頷いて、
「其方達も知ってるように、ストロザイア帝国は魔導具の作成技術がかなり高い。で、その技術を利用した強力な『移動手段』が出来上がって、それを使ってこちらに来るそうだ」
と、水音達に向かってそう説明したので、
『そ、そうだったんですか』
と、爽子だけでなく歩夢らクラスメイト達までもが、皆「あはは」と苦笑いを浮かべながらそう納得した。
一方、水音はというと、
(うーん。『皇帝陛下』がここに来る……か)
と、心の中でそう呟くと、
(あれ? ちょっと待てよ? 僕、春風のこと何処まで話をしていいんだ!?)
という疑問に至り、
(うわぁ! ど、どうしよう!)
と、頭を抱えるのだった。




