第77話 医務室にて・2
その後、水音は爽子と残りのクラスメイト達に、自身が資料保管庫で何をしていたかと、その理由ついて説明した。
勿論、本当の理由は伏せいる。
(だって、言える訳ないからね)
「……という訳で、先生やみんなに心配かけてしまい、すみませんでした」
と、ひと通り説明し終えた水音が最後にそう締め括ると、
「ぐす。そ、そうだったんだな。私こそ、みっともないところ見せて、ごめん」
と、未だに涙を流しつつも、しっかりと水音の話を聞き終えた爽子も、最後は水音に向かってそう謝罪した。
その謝罪を聞いて、
「そ、そんな、先生は悪くないですよ! こんな状況ですし、先生だってずっと僕達の為に頑張ってたんでしょ!?」
と、水音はオロオロしながらそう尋ねると、爽子は「それは……」と表情を暗くしたが、すぐハッとなって首をブンブンと横に振ると、
「そう……だな。『教師』だというのに、今の私に出来るのは、みんなで『力』の使い方を学ぶくらいだから、出来ることがあるのなら、私は全力で取り組むさ。ただ……」
『ん?』
「やはり、私はこの世界の為というよりも、桜庭達と、無事に日本に帰る為という理由の方が強いかな。『勇者』としては、許されない理由だけどな」
と、「はは」と苦笑いしながらそう言った爽子に、水音達は「せ、先生……」と泣きそうになった。
すると、爽子は「あ、でもな!」と再びハッとなって、
「勿論、雪村だって一緒だ! 『力』をつけて、強くなって、いつかこっちから雪村を迎えに行くというのも、私の目的の1つでもあるんだからな!」
と、水音達に向かってそう言った。
それに進らクラスメイト達が「おお!」と感心する中、水音はというと、
(『こっちから迎えに行く』……か)
と、1人、爽子の言葉について考えていた。
(確かに、今、春風は何処で何をしているのかわからない状態だ。いや、そもそも、春風はどういうつもりで僕達のもとを去ったんだろうか?)
と、水音は今この場にいない春風についてそう疑問に感じてはいたが、やがて「ふ……」と小さく笑うと、
「ま、春風なら、きっとどんなピンチだって……」
と、独り言のように小さくそう呟いた。
その時だ。
『え?』
と、爽子とクラスメイト達が一斉に水音に視線を向けたので、それに水音が「ん?」と反応すると、
「桜庭君、雪村君のこと、何か知ってるの?」
と、耕が首を傾げながらそう尋ねてきたので、
「え? 何って……」
と、水音がそう返事しようとしたが、
「は!」
と、水音は思わず右手で自身の口を覆い、
(しまった! 声に出していた!)
と、先程自身が呟いた言葉が、心の中ではなく直接口に出していたことに気がつき、後悔のあまりダラダラと汗を流し始めた。
その後、水音はジーッと見つめてくる爽子達に、
「え、いや、なんでもないよ! なんでもない……!」
と、口を覆ったままそう言ったが、
「いやいやいや! そこまで言いかけておいて何でもない訳ないだろ!?」
と、進にそう詰め寄られてしまい、水音は「それは……」と更に汗をダラダラと流すと、
「おい、桜庭」
と、爽子のすぐ傍で、それまで黙っていた煌良がそう口を開いたので、
「な、何、力石君……」
と、水音がそう返事すると、
「いや、桜庭だけじゃないな……」
と、煌良は「ふ……」と不敵に笑いながら、
「海神。そして天上」
と、歩夢と美羽にも視線を向けたので、それに2人がビクッと反応すると、
「お前ら3人、雪村とどういう関係なんだ? もうこの際だから、教えてくれたっていいんじゃないのか?」
と、煌良は、水音、歩夢、美羽の順に視線を移しながら、3人に向かってそう尋ねた。
その質問に対して
「「「いやぁ、そのぉ……」」」
と、水音だけでなく、歩夢と美羽までもがダラダラと汗を流し始めた。
その時だ。
「その質問の答え、少し待ってはくれないだろうか?」
『っ!』
という声がしたので、水音達は思わずその声がした方へと振り向くと、
「あ、ウィルフレッド陛下!」
「やぁ」
そこには国王であるウィルフレッドがいた。勿論、その傍には妻のマーガレットと、2人の娘であるクラリッサとイヴリーヌの姿もあった。
その姿を見て、
「ウィルフレッド陛下、いつからそこに?」
と、爽子がそう尋ねると、ウィルフレッドは気まずそうに、
「あーいや、最初からいたのだがな。爽子殿達がここに入った瞬間から……」
と、そう答えたので、その答えを聞いた瞬間、水音達は先程までの会話が全部聞かれていたことに気がつき、
「あ、あぅ……」
と、爽子は恥ずかしそうに顔を真っ赤にし、そんな爽子を他所に、
「ウィルフレッド陛下、ご心配おかけして申し訳ありませんでした」
と、水音はウィルフレッドに向かってそう謝罪した。
その謝罪を聞いて、
「いやいや、其方が気にすることはない」
と、ウィルフレッドは「はっはっは」と笑いながらそう言うと、
「祈殿。危うく怪我しそうになったと聞いたが、大丈夫だったか?」
と、祈の方へと向きながらそう尋ねたので、
「ふえ!? あ、はい。わ、私は、だ、大丈夫です!」
と、祈はビクッとしながらも、ウィルフレッドに向かってそう答えた。
その答えを聞いて、ウィルフレッドが「おお、そうか」と笑顔で言うと、すぐに真面目な表情になって、
「水音殿、歩夢殿、美羽殿」
と、水音、歩夢、美羽にそう声をかけてきたので、それに3人が「は、はい!」と返事すると、
「先程も言ったように、煌良殿の質問についてだが、答えるのはもう少し待ってはもらえないだろうか?」
と、ウィルフレッドは再びそう尋ねた。
その質問を聞いて、
「えっと……それは、どうしてでしょうか?」
と、水音がそう尋ね返すと、
「その答えを聞きたい人物がもう1人いるのだ」
と、ウィルフレッドが真面目な表情のままそう答えたので、
「え? それは、一体……?」
と、爽子が「どちら様ですか?」と尋ねようとすると、
「ストロザイア帝国皇帝、ヴィンセント・リアム・ストロザイア。彼がルーセンティア王国に来る」
と、ウィルフレッドは真剣な表情でそう答えた。




