第76話 医務室にて
(う、うーん。あれ? 目の前が真っ白だ……)
と、目を開けた瞬間、本当に目の前が真っ白だったので、水音は心の中でそう呟いた。
(何だろう? 何で、何も見えないんだ?)
と、「おかしいな」と感じた水音がそう疑問に思ったその時、
「あ、桜庭君!」
「桜庭!」
「大丈夫!?」
と、自分の名前を呼ぶ声が聞こえたので、
「……え?」
と、水音の口からそう声がもれた瞬間、意識がハッキリしてきたのか、
「……あ、時雨さん。それに、近道君に遠畑君、出雲さんに晴山さんも」
と、自身の周りにクラスメイトである祈、進、耕、祭、絆がいるのに気が付いた。
そしてそれと同時に、
「あれ? ここ、ベッドの上? ていうか、ここ医務室?」
と、自身が王城内にある医務室のベッドの上で寝かされているのがわかって、水音は何故自身がここにいるのだろうと首を傾げつつ、ゆっくりと上半身を起こした。
しかし、そんな水音を他所に、
『よ、よかったぁ』
と、祈達は水音が目を覚ましたことに安心したのか、皆、ホッと胸を撫で下ろしていたので、
「え、みんなどうしたの?」
と、水音が首を傾げながらそう尋ねると、全員ギロリと水音を睨みつけて、
「ど、『どうしたの?』じゃないです!」
「そうだ! お前、何があったのか覚えてないのかよ!?」
と、祈と進が怒鳴ってきたので、水音はその怒声に「え?」と反応した瞬間、
(……あ!)
と、水音は自身の身に何が起きたのかを思い出した。
そう、あの時、資料保管庫にて、落ちてきた本から祈を助けようとして、水音は咄嗟に「力」を使った。
そして、祈を助けることに成功した途端、水音の体から青い鎖状のエネルギーが現れて、それが水音の全身に巻き付き、水音を苦しめた。
(ぐああ。ちくしょう、こんな時に!)
と、水音が青い鎖状のエネルギーを忌々しそうに見ていると、
「桜庭君!」
と、祈が水音に近づこうとしてきたので、
「だ、駄目だ、時雨さん……」
と、祈に「来るな」と言おうとしたが、青い鎖状のエネルギーが巻き付く力を強くしたので、それが苦しかったのか、水音は「うぐ!」と呻いて、それ以上何も言えなかった。
そして、
「桜庭君!」
と、祈が水音に巻き付いている青い鎖状のエネルギーに触れた、次の瞬間、
(……え?)
なんと、祈の手が白く光り出して、その光に反応したのか、青い鎖状のエネルギーはまるで逃げるかのように水音の中へと戻った。
そんな突然の出来事に、
(ど……どうして?)
と、水音は疑問に思ったが、それを口に出すよりも早く、水音は気を失ってしまった。
そして現在、
「……で、その後気を失ったお前を、見張りの兵士さん達がこの医務室に運んでくれたってわけ」
「後でちゃんとお礼言った方がいいよ」
と、水音はその時のことを思い出しつつ、その後のことを進達から聞かされたので、
「そうだったんだ。うん、わかったよ、後でお礼を言うね」
と、水音は納得しながらそう言った。
それを見て「うんうん」進達が頷くと、医務室の扉の向こうから、タッタッタという足音が幾つも聞こえて、
「桜庭ぁ!」
と、扉がバァンと乱暴に開かれたと同時に、担任教師である爽子が入ってきた。よく見ると、歩夢や美羽をはじめとした、他のクラスメイト達も一緒だった。
その存在を確認して、
「あ、先生……」
と、水音がポカンとした表情でそう口を開くと、爽子は水音の傍まで駆け寄って、
「桜庭、大丈夫か!? なんかお前が倒れたって聞いて……!」
と、ガシッと水音の両肩を掴むと、ユッサユッサと揺すりながら言った。
そんな爽子に向かって、
「お、お、落ち着いて、ください、先生……!」
と、水音が揺さぶられた状態でそう口を開くと、それまで爽子達の登場に呆然としていた祈達はハッと我に返って、
『せ、先生、落ち着いてください!』
と、全員で爽子を水音から引き剥がした。
その途端、爽子もハッと我に返って、
「さ、桜庭、本当に大丈夫なのか? 体の方は、平気なのか?」
と、どうにか気持ちを落ち着かせながら、水音に向かってそう尋ねると、
「は、はい、僕なら大丈夫です、この通り……」
と、水音は弱々しくニコッと笑いながらそう答えたので、
「よ、よかったぁ」
と、その答えを聞いた爽子は、ヘナヘナとその場に膝から崩れ落ちた。
それを見て、
「わ、先生! 大丈夫ですか……!?」
と、進がそう尋ねると、爽子は「う……」と呻いて、
「うううううぅ……」
と、目から大粒の涙を流した。それも大量に、だ。
それを見て、
「ちょ、先生! どうしたんですか!?」
と、驚いた水音がそう尋ねると、
「だ、だって、ただでさえ雪村がいなくなってしまったっていうのに、どうなってしまったのかさえわからない状況なのに、桜庭まで何かあったらって思ったら、私は……私は……!」
と、爽子はとても教師とは思えないくらい、まるで幼い子供のように泣きじゃくりながらそう答えた。
その答えを聞いて、
『あ……』
と、水音だけでなく祈達までもがそう声をもらした。
そして、
(……僕は、何をやってるんだろう?)
と、水音はそう疑問に思ったのと同時に、
(僕はなんて……なんてことをしてしまったんだ!?)
と、目の前で泣いている爽子を見て、罪悪感に駆られた。
当然だろう。ただでさえこの世界に召喚されて日も浅い故に、まだ何処か気持ちが安定してないかもしれないという時に、自分のことばかり考えて、勝手な行動をとって、その結果、今、こうして人を心配させて、更には涙まで流させてしまったのだから。
そう考えた時、
(こんなつもりじゃなかったのに!)
と、そう思った水音は、ゆっくりとベッドから降りて、
「先生……」
と、爽子に近づくと、
「心配をかけてしまって、ごめんなさい」
と、深々と頭を下げながら謝罪した。
そして、そんな水音を見て、
『先生、ごめんなさい』
と、祈達も爽子に向かって、深々と頭を下げながら謝罪した。
謝罪)
大変申し訳ありません。誠に勝手ながら、前回と前々回の話を、少し加筆修正させてもらいました。
本当にすみません。




