第75話 アクシデント
ちょっとしたイベント(?)の末、クラスメイトの祈、祭、絆、進、耕を仲間(?)にした水音は、再び王城内の資料保管庫へと入った。
その中にある膨大な数の本を見て、
『おおーっ!』
と、絆達は歓声をあげ、そんな彼女達を、見張りの兵士達は暖かい目で見つめていた。
そんな状況の中、
「桜庭! お前ずるいぞ!」
「そうだよ! 僕達に内緒で1人で自主勉強なんて!」
「そうだそうだ!」
と、怒った進、耕、祭に文句を言われたので、
「あー、うん。ごめんなさい」
と、水音は頬を引き攣らせながらも、進達に向かって謝罪した。
その後、
「それで、どの本から読むつもりなんだ?」
と、絆に尋ねられたので、それに水音が「ん?」と反応すると、
「そうだな。昨日はこの世界の『歴史』についてだったから、今日は僕らが身につけてる『職能』とか『スキル』についてかな?」
と、少々悩みながらそう答えたので、
「オッケー! じゃあ、みんなで探してみようぜ!」
「うんうん! みんなで探せば、きっと早く見つかるよ!」
と、進達がそれぞれ別々の本棚へと向かうと、
「ちょ、ちょっと! 乱暴に扱ったりしないでよ! 『大事な資料』って、ウィルフレッド陛下が言ってたんだから!」
と、「しまった!」と言わんばかりにハッとなった水音は、すぐに進達に向かってそう言った。
その言葉を聞いて、
「わーかってるって!」
「大丈夫大丈夫!」
と、進達からそんな返事が来たので、それを聞いた水音は、
(だ、大丈夫かなぁ)
と、かなり不安になっていると、
「さ、桜庭君……」
と、水音の隣で、祈が水音の服を少し引っ張りながら声をかけてきたので、
「な、何? 時雨さん」
と、水音が少し緊張した様子でそう返事すると、
「一緒に、探しに行きませんか?」
と、祈が何故か上目遣いでそう言ってきたので、
「……は、はい」
と、水音は少し気まずそうな感じでそう答えて、その後は祈と共に自分も本を探し始めた。
それからどのくらい時が経ったのか、現在水音達が集まってる資料保管庫内に備え付けられた机には、それまで水音達が集めた本が山のように積まれていて、集めた本人である水音達はというと、
『だ、駄目だ、内容が難しすぎる……』
と、それぞれ手にしている本の内容の難しさにグッタリしていた。
幾ら称号「異世界人」の効果で文字が読めるようになったとしても、肝心の内容が理解出来なければなんの意味もなかったようで、それが、水音達を更にゲッソリとさせていた。
そんな状況の中、
「も、もう少し、探してみるね」
と、祈がヨロヨロと立ち上がりながらそう言ったので、
『いってらっしゃーい』
と、水音達は弱々しくそう返事した。
その後、祈が本棚の1つを前に、「次はどの本にしようかな?」と、考え込んでいると、
(うん、あれにしよう!)
と、とある1冊の本を見てそう決めたのだが、その本は祈の背丈よりも少し高い位置にあったので、祈はどうしようと考えたが、
(ちょっと高いけど、これくらいなら届くかも)
と、そう結論づけると、祈は背伸びしながらその本が並べられた棚に手を伸ばした。
そして、
(うん、届いた!)
と、その本を掴むと、祈は「うーん」と唸りながら、その本を引っ張り出そうとしたが、思ったよりも少し苦戦したので、
「うーん!」
と、祈は顔を赤くして唸ると、スポンと本を取り出すことに成功したので、
「や、やったぁ……!」
と、祈はそう声をあげながら喜んだが、
「あ、あれ? きゃあ!」
引き抜いた瞬間バランスを崩したのか、祈は本を手にしたままドスンと尻餅をついてしまった。
その音を聞いて、
「い、いのっち!?」
「祈、大丈夫か!?」
と、驚いた祭と絆が声をかけると、
「いたた。だ、大丈夫だよ、マーちゃんにキーちゃん……」
と、祈は痛そうにお尻を摩りつつ、弱々しい笑顔でそう答えたので、その言葉に祭と絆がホッと胸を撫で下ろした、次の瞬間……。
尻餅をついた衝撃の所為か、幾つかの他の本までもが棚から出てきて、それらが全て祈に向かって落ちて来たのだ。
それを見て、
「い、祈!」
「危ない!」
と、驚いた絆と耕がそう叫び、
「きゃああ!」
と、落ちてきた本を見て祈が悲鳴をあげた、次の瞬間、
「時雨さん!」
と、水音が叫ぶと同時に、水音の全身が青い炎に包まれたのだ。
それを見て、
「お、おい桜庭……!」
と、進はギョッと大きく目を見開きながら驚いたが、そんな彼構わず、水音は祈に向かってダッと駆け出した。それも、もの凄いスピードで、だ。
そんな水音を見て、
「え、は、速くない!?」
と、驚く祭だったが、
「間に合えええええええ!」
と、水音はそれに構わずダッシュで祈に駆け寄った。
そして、祈のすぐ傍まで近づくと、
「ごめん!」
「え? きゃあ!」
と、水音は祈を抱き抱えて、前方に向かって駆け出した。
そしてその後すぐに、落ちてきた本が次々と床に散らばった。
それからすぐに、進達が水音と祈のもとへと駆け出し、
『勇者様、どうかなさいましたでしょうか?』
と、見張り役の兵士達も、2人に向かって駆け出した。
一方、間一髪のところで落ちてきた本回避出来た水音と祈はというと、
「だ、大丈夫、時雨さん?」
と、青い炎に包まれた状態の水音がそう尋ねてきたので、
「う、うん。私は大丈夫、です…」
と、祈は顔を赤くしながらも、水音に向かって頷きながらそう返事した。
その時だ。
ーーギュルルル!
(し、しまった!)
と、水音大きく目を見開いたように、水音の胸の辺りから、以前と同じく青い鎖の形をしたエネルギーが現れて、それが水音の全身に巻き付いてきたのだ。
「ぐ、あ、あああああ!」
と、水音はそう悲鳴をあげたが、その青い鎖状のエネルギーは更に水音を締め付けてきたので、
「く、あああああああ!」
と、それが更に水音を苦しめた。
そして、そんな水音を見て、
「さ、桜庭君! 桜庭くーん!」
と、祈は悲鳴をあげた。




