第72話 水音、動く
(あいつらは、『神様』なんかじゃない!)
と、ウィルフレッド達が崇める「5柱の神々」に、「怒り」をあらわにする水音。
その後、
「と、取り敢えず、今日はもう休もう」
と、水音はそう呟くと、その日はもう眠ることにした。
そして翌日、今日の勇者としての訓練が終わり、爽子ら他の勇者達との夕食を済ませると、水音は1人、自室には戻らず、何かを探すかのように廊下を歩いていた。
暫く歩いていると、
「あ、いた!」
と、前方に1人の男性騎士がいたので、水音はその男性騎士に近づくと、
「あの、すみません」
と、声をかけた。
その声に反応したのか、
「あ、これは勇者殿、どうかなさいましたか?」
と、男性騎士がそう返事すると、
「ちょっとお尋ねしたいのですが、この城に『資料室』みたいなところはありますか?」
と、水音は恐る恐るといった感じでそう尋ねた。
その質問に対して、
「ああ、それでしたら『資料保管庫』がありますが……」
と、男性騎士が首を傾げながら答えると、
「どうかしたのか?」
と、男性騎士の背後で声がしたので、その声に水音と男性騎士が「ん?」と反応し、声がした方へと視線を向けると、
(あ、ウィルフレッド陛下!)
そこには国王ウィルフレッドが立っていたので、その姿を見て思わず水音は頭を下げ、男性騎士はその場に跪いていると、
「ああ、そんなにかしこまらないでほしい。それで、一体どうしたのだ?」
と、ウィルフレッドがそう尋ねてきたので、
(うう。まさかここでウィルフレッド陛下が来るとは……)
と、水音は顔を下に向けながら「やっべぇ……」と言わんばかりの表情になったが、
(……いや、もしかしたらラッキーかも!)
という考えに至ったので、水音は「失礼します」と言うと、ゆっくりと顔を上げて、
「あの、ウィルフレッド陛下。無礼を承知で、お願いしたいことがあります」
と、真っ直ぐウィルフレッドを見てそう言った。
その言葉にウィルフレッドは一瞬「む?」と警戒する表情になったが、すぐにその表情を変えて、
「私にかね? 一体何だろうか?」
と、真面目な表情でそう尋ねると、
「『資料保管庫』に行きたいのですが、行ってもよろしいでしょうか?」
と、水音は真っ直ぐウィルフレッドを見つめたままそう尋ね返した。
それ聞いて、まさか質問を返されるとは思わなかったウィルフレッドは「何?」と大きく目を見開くと、
「……そのような場所に、どうして行きたいのだ?」
と、警戒心を剥き出しにしたかのような表情で更に尋ね返してきたので、
「勿論、『世界』を救う為に、もっと『知識』が欲しいのです」
と、水音は何処か強気な態度でそう答えた。
ただ、その内心はというと、
(た、頼むぅ! これで納得してくれぇ!)
と、かなりビビりまくっていた。
一方、そんな水音の心境を知らないウィルフレッドはというと、水音の答えに「ふむ……」と考え込んだ後、
「わかった、許可しよう。案内するので、ついてきてくれ」
と、水音に向かって「OK」を出したので、
「ありがとうございます」
と、水音は深々と頭を下げてお礼を言った。
ただ、内心はというと、
(いよっしゃあああああああ、許可ゲットぉおおおおお! ありがとうございますウィルフレッド陛下ぁ! そしてすみませんんんんんんん!)
と、ガッツポーズをとりながら狂喜乱舞しつつ、最後にウィルフレッドに向かって謝罪していた。
まぁそれはさておき、こうしてウィルフレッドから「資料保管庫」に入る許可を貰った水音は、そのウィルフレッド本人に案内される形でそこに向かった。当然、
「へ、陛下! 案内でしたら私が……!」
と、男性騎士がそう名乗り出たが、
「いや、ここは私に任せて、其方は引き続き見回りをよろしく頼む」
と、ウィルフレッドにそう命令されてしまったので、
「わ、わかりました」
と、男性騎士はそう引き下がった。
それから暫くの間、2人が王城内の廊下を歩いていると、2人の兵士が立っている大きな扉が見えたので、
「さぁ、ここだ」
と、ウィルフレッドが大きな扉の前で止まりながらそう言った。
その言葉に水音が「ここが……」と少し緊張した様子でそう言うと、ウィルフレッドは2人の兵士の片方に命令してギィッと扉を開けさせた。
扉の向こうはかなり真っ暗だったので、それを見た水音は「本当にここですか?」と言わんばかりの疑いに満ちた表情を浮かべていると、先に入っていたウィルフレッドが壁に取り付けられている明かりが灯ってないランプ手を触れた。
次の瞬間、何もついてないランプが光り出し、それをキッカケに他のランプも光り出した。
突然の光に水音が「うわ!」と驚いて腕で顔を覆ったが、少ししてゆっくりと腕を顔をから離すと、
「す、凄い!」
と、水音がそう感心したように、その部屋は広く、中に数多く配置された本棚には、何百……いや、もしかすると何千冊くらいあるのでなないかと思われるくらいの本が並んでいた。
そんな数多くの本を見て、
(凄いや! これなら、僕が調べたいことが書かれたやつとかあるかも!)
と、水音が更にそう感心していると、
「どうやら、気に入ったみたいだな?」
と、ウィルフレッドがそう尋ねてきたので、
「はい! ありがとうございます!」
と、水音は頭を下げて、元気よくそうお礼を言った。
その言葉にウィルフレッドが「そうかそうか……」と笑顔になったが、
「ただ、残念なことなのだが、ここにある本……というか資料なのだが、我が国にとって大切な財産の1つでもあるのでな、この部屋からの持ち出しは禁止しているのだ」
と、ウィルフレッドは真面目な表情でそうい言うと、最後に「申し訳ない」と謝罪したので、
「そんな、気にしないでください。ここに入る許可を出してくれただけで十分ですので」
と、水音がそういうと、
「そうか……」
と、ウィルフレッドは顔を上げてそう言うと、最後に「ふふ」と笑った。
その後、
「それでは、私はこの後用事があるので、ここで失礼する。何かあったら、ここにいる兵士達に言ってくれ。それと明日も訓練があるから、あまり遅くならないように」
と、ウィルフレッドはそう言うと、その場に水音と2人の兵士を残してその場から歩き出した。
一方、残された水音はというと、
「それじゃあ、ちょっと失礼しますね」
と、扉の傍に立つ2人の兵士達にそう言って、資料保管庫の扉を閉めた後、本棚に並べられた大量の本を見て、
「よーし、やるぞぉ!」
と、小さな声でそう言うと、その中の1冊を手に取り、室内に備え付けられた椅子に腰を下ろしながら、
「どれどれぇ……」
と、手に取った本を開いた。




