第71話 勇者・桜庭水音の「現状」
翌日、勇者達の本格的な訓練が始まった。
といっても、流れとしては昨日と同じように、午前は座学、午後が戦闘技術の訓練となっている。
そんな感じで、まずは午前の座学だが、主な内容は自分達……というよりも、この世界の人間が持つ「職能」、「ステータス」、そして「スキル」についての基本的な知識を身につけるというもので、これには教師の爽子をはじめ、水音ら生徒達も真剣に聞いていた。まぁ、自分達の命もかかっているのだから、当然といえば当然なのだろう。
ただ、やはり教官役の神官には、皆、警戒している様子なのだが。
そして、午後は訓練場で戦闘技術を磨く訓練になるのだが、最初は全員で基礎体力を上げる為に訓練場内の走り込みや簡単な筋トレをした後、それぞれの職能に応じた担当の教官役の騎士達の指導のもとで、使用する武器の使い方や心構えなどを教わっていった。
そして、その日の訓練が全て終わると、昨日と同じように大浴場で汗を洗い流した後、食堂で夕食、それが終わると全員それぞれの部屋へと帰った。
その夜、爽子やクラスメイト達と自室に戻った水音はというと、ベッドに座り込んだ自身のステータスを見ていた。
因みに、現在の水音のステータスはこんな感じである。
名前:桜庭水音
種族:人間
年齢:16歳
性別:男
職能:神聖戦士
レベル:1
所持スキル:「※※※※」「神器召喚」「体術」「剣術」「斧術」「槍術」「聖闘気」
称号:「異世界人」「※※※※※※」「職能保持者」「選ばれし勇者」「アムニスの加護を受けし者」
「やっぱり、何度見てもこの部分だけが見れない……か」
と、水音がそう呟いたように、現在、自身のステータスは「スキル」と「称号」の項目で1つだけ文字化けしていて見れない状態になっている。
ただ、その文字化けしている部分の正体については、実は水音は既に知っていた。
何故なら、それは水音自身が既に身につけていたものだからだ。
それについての説明は、後にとある形で語るので、そこについては今は伏せておくが、とにかく、その「既に身につけていたもの」は今、ステータス上では記されることが出来ない状態である。
何故、このようなことになっているのか?
(……いや、心当たりはあるんだよなぁ)
と、水音がそう考えるように、自身のステータスがこのようなことになってる原因について、1つだけ心当たりがあった。
そう、原因はただ1つ、「勇者召喚」の光に飲み込まれた後の出来事だ。
気がつくと見知らね場所で寝かされていて、そこに現れた5人の男女の1人が、水音に手を伸ばして何かをした。
その時は「恐怖」で何が何だかわからなかったが、謁見の間でウィルフレッド達から話を聞かされた時、水音は自身に何をされたのか理解出来た。
(もしも、あの話が本当なら、あの時僕が出会ったのは、この世界の人達が崇める『神様』で、僕に何かをしたあの女の人が、『水の女神アムニス』なんだろうな)
と、その時のことを思い出して、水音は辛そうな表情になりながら心の中でそう呟くと、スッとベッドから立ち上がり、自身の胸を掴んだ。
そして、スッと目を閉じて、
「……いるんだろ? 僕の中の『鬼』」
と、ボソリとそう呟いた、次の瞬間……。
「……グルルゥ」
「っ!」
水音の耳に、何やら苦しそうな呻き声が聞こえたので、水音はハッと目を開けた。
そして、
「う、嘘だろ? ということは……」
と、水音はタラリと汗を流しながらそう呟くと、スッと右腕を前に出して、再び目を閉じた。
次の瞬間、水音の右腕が、ボッと青い炎に包まれた。
音を立てて燃え続ける自身の右腕を見て、
(良かった、『力』自体は出すことが出来るみたいだ……)
と、水音はホッと胸を撫で下ろしたが、
(でも……弱すぎる)
その後すぐに、水音は表情を曇らせた。
そして、
「もっと……もっと『力』を……!」
と、水音がまた目を閉じた次の瞬間……。
ーーギュルルル!
「え!?」
なんと、水音の全身を、青い鎖の形をしたエネルギーが巻き付いてきたのだ。
しかもよく見ると、その青いエネルギーは水音の胸の辺りから出てきたようで、
「な、何だよこれ!?」
と、驚いた水音はすぐに右腕の青い炎を消して、胸から出てきた青いエネルギーを何とかしようとそれを掴んだが……。
ーーギュルルルルル!
「うぐぅ!」
青いエネルギーは水音の全身を締め上げるように更に巻き付く力を強くしてきたので、水音は苦しさのあまりバランスを崩してベッドの上に倒れた。
その後、
「く、苦しい……た、助けて……」
と、水音が苦しそうにそう言うと、その声に応えたのか、青いエネルギーは水音の中へと戻るように消えた。
「はぁ……はぁ……。た、助かった」
と、青いエネルギーから解放されて自由になった水音が、苦しそうに息を切らしながらそう言うと、
「これが……こんなのが『神』の加護だって?」
と、自室の天井を見ながら、ギリッと歯軋りした。
その時、水音の脳裏に、とある人影が浮かび上がった。
それは、水音の体に何かをした、あの女性。
自身の「称号」と、ウィルフレッド達の話を照らし合わせたら、恐らく……否、間違いなく、その女性こそが「水の女神アムニス」だろう。
そして、彼女の人影と共に水音の脳裏に浮かんだのは、
「おやすみなさい、私の……」
彼女が水音に言った、あのセリフだ。
あの時は何を言われたのか理解出来なかったが、今ならわかる。
あの時、彼女はこう言ったのだ。
「おやすみなさい、私の可愛い『勇者』」
そのセリフを思い出した瞬間、水音の体にゾワッと鳥肌が立った。
そして、
「勇者……か」
と、水音がボソリとそう呟くと、再びギリッと歯軋りをして、
(今ならわかる……あの女……いや、あいつらは、『神様』なんかじゃない!)
と、激しい「怒り」に満ちた表情を浮かべた。




