第70話 それぞれの異世界生活・2
時は少し前に遡る。
ルーセンティア王国による「勇者召喚」こと「ルールを無視した異世界召喚」の翌日。
召喚された「勇者」達こと教師の爽子と23人の少年少女達の、「勇者」としての生活が始まった。
朝起きて朝食が終わると、爽子達の為に用意された「教室」で座学が行われた。といっても始まったばかりなので、主な内容は「エルード」という世界の基本的な常識(一般常識とも言う)を学ぶというものである。
そして当然だが、「教師」である爽子も、今は少年少女達と同じ学ぶ側の人間なので、彼らの中に混じって座学を受けるという状況に、爽子は複雑な表情浮かべた。
座学が終わると、爽子達は教室を出て、食堂で昼食。それが終わると、今度は王城内にある兵士や騎士達の為の訓練場で、「勇者」としての本格的な訓練をする為の、各々の基礎能力の測定が行われた。
爽子達は「勇者」なのだが、ひと言で「勇者」といっても授かった「職能」によって1人1人能力が異なっているのだ。
簡単に大きく分けるなら、前衛に立って攻撃を行う者、同じく前衛に立って仲間を守る「盾」として立ち回る者、機動力を活かして敵を翻弄する者、離れた位置から弓で攻撃する者、そして、「魔術」を用いて攻撃又はサポートを行う者といった感じだ。
それらを調べ、より効率的な訓練を行わせる為に、まずは全員の基本的な身体能力を測ることになったのだ。
体力は勿論、各自が持っているという「魔力」の量や、筋力、耐久性、敏捷性、器用さなど、爽子達は様々な方法でそれら全てを測定していった。その結果、ある者は思った通りの能力の高さに喜んだが、ある者は自分の能力が思ったより低かったことに落胆していた。
ひと通り測定し終わった頃には訓練場の外は薄暗くなっていて、爽子達は夕食前に王城内の大浴場で汗を洗い流し、それが終わると夕食、それが終わると、彼女達はそれぞれの部屋へと戻った。
と、ここまで普通に語ったが、今日1日の中で、爽子達と騎士、兵士達の間には特に問題は起きなかった。
しかし、だからといって全く警戒してないという訳でもない。
座学と基礎能力測定を受けている間、爽子達は騎士や兵士、更には神官達を激しく警戒していた。特にこの世界の宗教組織である「五神教会」に至っては、警戒を通り越して最早「敵」とみなしてると言ってもいいだろう。
無理もない、皆、昨日のひと騒動が原因で、彼らを心から信じることが出来なくなってしまったのだから。
とはいえ、まだ異世界生活は始まったばかりだし、もしかしたら何かをキッカケに騎士達……もっと言えばこの世界の住人達に心を開くことがあるかもしれないだろう。
それに、あの時の騎士達は今、国王ウィルフレッドの命令により謹慎中なのだ。それ故、彼らに会うことがないという現状に、爽子達は少し安心していた。ただ、万が一ということもあり、あまり油断は出来ないのだが。
さて、そんな勇者達はというと、先程も語ったように特に問題なく今日1日を過ごしてはいた。
しかし、やはり昨日の出来事が尾を引いているのか、皆、その表情は何処か暗く、特に爽子と2人のクラスメイトの少女、歩夢と美羽は、時折悲しげな表情を見せているので、それを見た他の勇者達は心配そうな表情になった。
当然、
(先生。海神さん。天上さん)
勇者の1人、少年・水音もその1人だ。
特に水音と3人の少年少女は、爽子達がそうなった原因を知っているのだから、その心配は他の勇者達以上だった。
昨夜のウィルフレッドの自室でのひと騒動の後、その騒動を聞きつけた騎士達が、
『陛下、どうかなさいましたか!?』
と、一斉に部屋に雪崩れ込んできたが、
「も、問題はない! こちらは私達でなんとか出来るから、皆、持ち場に戻ってほしい!」
というウィルフレッドの命令を受けて、騎士達は「は、はぁそれでは……」と全員部屋を出て行った。
そして、騎士達がいなくなったのを確認すると、
「と、取り敢えず、皆、もう疲れただろう? 今夜は部屋に戻って、ゆっくりと休むといい」
というウィルフレッドの提案を受けて、水音達はウィルフレッドの部屋を出てそれぞれの自室に戻って眠ることになった。
その翌日、
『昨日はすみませんでした!』
と、水音達はウィルフレッドに全力で謝罪し、
「いや、こちらこそすまなかった」
と、ウィルフレッドも水音達に向かって深々と頭を下げて謝罪した。
まぁ、それはさておき、ウィルフレッドの自室での一件以降、悲しげな表情を見せる爽子、歩夢、美羽だったが、
「俺達があれこれ考えたところで、何かが出来る訳でもないだろう」
と、少年・煌良はクールな感じでそう言ったので、その言葉に水音は「む!」となったが、その後すぐに、煌良が僅かに悔しそうに口元を歪めていたのが見えたので、それを見た水音は安心したかのようにホッとなった。
だがしかし、
(でも、力石君の言う通り、僕が……いや、僕らが先生達に出来ることって、何もないんだよなぁ)
と、水音そう考えると、「はぁ」と溜め息を吐いた後、
「こんな時、春風ならどうするだろうなぁ……」
と、この場にいないもう1人のクラスメイトの少年を思い浮かべて、
「ホント……恨むよ春風」
と、ボソリとそう呟いた。
謝罪)
大変申し訳ありません。前回は短かったので、今回は長めに書きたかったのですが、思うように書けませんでした。
本当にすみません。




