第68話 もう1人の「残された者」と、「傍観者」達
お待たせしました、今章最終話です。
そして、いつもより短めの話になります。
さて、国王ウィルフレッドの部屋で「王族」と「勇者達」、そして「ストザイア帝国の皇帝と皇妃」が話し合っていた丁度その頃。
ルーセンティア王国王都、その中心である王城から少し離れた位置に、1つの大きな建物がある。
そこは、この国……否、この世界の宗教組織である「五神教会」の本部で、その本部内の奥に位置する部屋では現在、
「……そうですか。あの2人の情報は入ってきませんか」
「申し訳ございません、教主様」
その五神教会の現・教主ジェフリー・クラークが、教会の幹部からの報告を受けていた。
その報告を聞いて、ジェフリーは「はぁ」と溜め息を吐くと、
「ご苦労様でした。下がって構いません」
と、幹部にそう命令し、その命令を受けた幹部は、
「は! 失礼します!」
と返事すると、ジェフリーを残して部屋を出て行った。
その後、残されたジェフリーはというと、
「はぁあああああ」
と、今度は深く溜め息を吐くと、目の前の机をダンッと殴り付けて、
「く! おのれ、雪村春風ぁ! そして、レナ・ヒューズゥ!」
と、とても教主どころか聖職者とも思えないほどの「怒り」に満ちた表情でそう怒鳴った。
そして、そんなジェフリーの口から出たのは、昼間に王城で行われた『勇者召喚』の儀式によってこの世界に召喚された身でありながら、「自分は勇者ではなく『巻き込まれた者』だ」と言って救いの申し出を断っただけでなく騎士達を相手に暴れた後に謁見の間から出て行った1人の少年と、その少年を連れ出したという「ハンター」の少女の名前だった。
あの時、ジェフリー自身はウィルフレッドによって気絶させられて、目を覚ました時はすっかり夜になっていたので、ジェフリーはすぐに気絶させられた後に起きたことを国王ウィルフレッドや王城の騎士達などから聞いて、またすぐに春風とレナの行方を探すよう教会の幹部達に命令したが、返ってきたのは既に2人とも王都を出た後で、その後の行方は誰も知らないという報告だけだった。
それが、ジェフリーの中の「怒り」や「憎しみ」を更に大きくしていたようで、
「許さん! 許さんぞぉ! 『勇者召喚』で召喚された身でありながら、『勇者』の称号を持たないはみ出し者めぇ! たかが『ハンター』風情めぇ!」
と、ジェフリーは更に机をダンッダンッと殴りつけながら、何処にいるかもわからない春風とレナをそう罵り、
「そして、そんな奴らを野放しすることを許したウィルフレッドめぇ!」
と、最後に国王であるウィルフレッドに怒りをあらわにした。
それから暫くすると、ジェフリーは漸く怒りがおさまったのか、「ふぅ」とひと息入れると、
「まぁ、いいでしょう。以下に奴が強い力を持っていようが、この危険に満ち溢れた世界で生き残れる筈もない。きっと近い将来、何処かでのたれ死んでることでしょう」
と、とても聖職者とは思えないほど醜い笑みを浮かべて「くっくっく……」と笑いながら言った。
その時、キュウッとジェフリーのお腹からそんな音がしたので、
「おっと、そういえばずっと気を失ってたからまだ何も食べてませんでした」
と、ジェフリーは顔を真っ赤にしながらそう言うと、何か食べようと思って部屋を出て行った。
ところ変わって、見渡す限りの真っ暗な闇の中。
その闇の中で、今、5人の男女が目の前で映し出された幾つものモニターを見ていた。
多くの人々や異形の生物が映し出されたそのモニターを見て、
「チッ! これだけ探してもあいつが映ってるものはねぇのかよ!」
と、男女の1人、赤いオーラのようなものを纏っ若いた男性がそう怒鳴ると、
「ちょっと、落ち着きなさいよ」
と、隣に立つ青いオーラのようなものを纏った若い女性がそう注意してきた。
すると、
「で、でも、気持ちはわかるよ。僕だって、あいつには凄くムカついたから……」
と、今度は緑色のオーラのようなものを纏った少年が、赤いオーラのようなものを纏った男性を庇うようにそう言い、
「そうですねぇ。私もあの子、『雪村春風』にはムカついてますよぉ。でも、あれから何処に行ったのかわからないなんてぇ、どうなってるのかしらぁ?」
と、オレンジ色のオーラのようなものを纏った女性が、のんびりとした口調でそう言ったので、
「ちくしょうが! 忌々しいったらねぇぜ! あの『雪村春風』って女顔が!」
と、それを聞いた赤いオーラのようなものを纏った男性が、話に出てきた人物……春風をそう罵った。
その時だ。
「よせ。ここで怒ったところで、状況が変わるわけでもないだろう」
と、最後の1人、白いオーラのようなものを纏った男性がそう口を開いたので、
「で、でもよう……!」
と、赤いオーラのようなものを纏った男性が何か言おうとしたが、
「1番に優先すべきは我々の生存だ。その為の『勇者』達なのだから」
と、白いオーラのようなものを纏った男性が、目の前のモニターに映し出された1人の女性と20数人の少年少女達を見ながらそう言ってきたので、その言葉に他の4人は無言になった後、
「……チッ! わかったよ! なら、今は『勇者』共を観察することに専念するわ」
と、赤いオーラのようなものを纏った男性は、目の前のモニターに視線を向けながらそう言った。
そして、5人がモニターを見つめる中、
(そうだ、優先するべきは我々の生存のみ)
と、白いオーラのようなものを纏った男性が心の中でそう呟くと、
(いざとなれば、エルードの住人達や『勇者』達には、我々の為に犠牲になってもらおう)
と、小さくニヤリと笑った。
本日はもう1本あります。




