第67話 皇帝と皇妃、「何が起きたか」を知って
「へぇ、なるほどねぇ。そんなことがあったとはなぁ」
と、ウィルフレッド達から「勇者召喚」を行った時に起きた出来事を聞いて、ヴィンセントがそう呟くと、
「……って、おいウィルフ、お前なぁ!」
と、ウィルフレッドに向かって怒鳴ってきたので、
「ど、どうしたんだヴィンス?」
と、ウィルフレッドが恐る恐る首を傾げながらそう尋ねると、
「『どうしたんだヴィンス?』じゃねぇよ! お前、そちらの勇者さん達に、きちんと『無事に元の世界に帰す』って言ってねぇじゃねぇか!」
と、ヴィンセントはチラリと爽子ら勇者達を見ながらそう答えたので、
『……あ!』
と、爽子達は「そういえば言われてない!」と言わんばかりに大きく目を見開いた。
そして、それはウィルフレッドも同様で、ヴィンセント言葉にダラダラと滝のように汗を流すと、
「い、いや、勿論、皆元の世界に帰すが、どうせなら『世界を救ってきたんだ』と胸を張って帰った方がいいのではないかと……」
と、目を泳がせながら言い訳じみたセリフを言ったが、
「……いや、これはこちらの都合だな」
と、シュンとなりながらそう呟くと、
「勇者殿達、改めて、我々の都合に其方達を巻き込んで、本当すまなかった」
と、爽子達に向かって深々と頭を下げて謝罪すると、
「たとえこの世界が最悪の結末を迎えることになったとしても、其方達は絶対に元の世界ーー故郷へと帰すことを約束する」
と、最後そう付け加えた。
その言葉を聞いて、
「あぁウィルフレッド陛下! どうか頭を上げてください!」
と、爽子が歩夢達と共にウィルフレッドに向かって「顔を上げてほしい」と頼み込むと、歩夢達も大慌てで爽子に続いた。
そんな爽子達を見て、ヴィンセントが「やれやれ……」と呆れ顔でそう呟くと、
「しっかし、その『春風』って奴、本当に『勇者』じゃねぇのか?」
と、首を傾げながらそう尋ねてきたので、その質問にウィルフレッドが「む?」と反応すると、
「あ、ああ。彼はあの時、自身の『称号』を我々に見せてくれたんだ。そこには確かに『選ばれし勇者』の称号はなく、代わりに『巻き込まれた者』と記されていたが……」
と、ヴィンセントに向かってそう言ったが、
「えー? それ、本物の称号なの? なんか話を聞いてみるとぉ、只者じゃないって思うんだけどぉ?」
と、ヴィンセントではなくキャロラインがそう返事したので、
「あ、あの。それは、どういう意味でしょうか?」
と、爽子が恐る恐るそう尋ねると、
「だぁって、その子ウィルフちゃんとマギーちゃんでさえも気付かなかったクラりんちゃんの状態に、真っ先に気付いたんでしょう? そんなことが出来る人間が、『勇者』の称号を持ってないなんて、どう考えてもおかしいと思うんだけどぉ?」
と、キャロラインはそう理由を説明したので、その説明を聞いて、
「「あ……」」
と、ウィルフレッドとマーガレットが、クラリッサを見てそう声をもらし、
「あー。確かに、そう……ですね」
と、クラリッサは「そういえばそうでした」と言わんばかりにピクピクと頬を引き攣らせた。
そして、理由を説明したキャロラインに続くように、
「だよなぁ。そんなことが出来るってことは、そいつには何か解析系のスキルを持っているってことになるんじゃねぇのか?」
と、ヴィンセントもそう疑問を口にした。
その疑問を聞いて、ウィルフレッドらルーセンティア王国の王族は勿論、爽子ら勇者達も「一体、どういうことだ?」と言わんばかりに顔を見合わせながらそう疑問に感じた。
そんな彼らを前に、
「それに、その『春風』って子だけじゃないわ。その子を連れ出した、レナって『ハンター』の女の子なんだけどぉ……」
と、キャロラインがそう口を開いたので、その言葉を聞いたその場にいる全員が「え?」とキャロラインに視線を向けると、
「何でその女の子、その時謁見の間にいたの?」
と、キャロラインが首を傾げながらそう尋ねたので、
「え、何でって……?」
と、歩夢がそう口を開くと、
「「「「あ!」」」」
と、ウィルフレッド、マーガレット、クラリッサ、イヴリーヌが同時に驚きの声をあげたので、
「え、ど、どうしたんですか!?」
と、驚いた美羽がそう尋ねると、
「そ、そういえばそうでした。『勇者召喚』を行う為に、今日は一般の方達が王城に入るのを禁止にしていました」
と、クラリッサが顔を真っ青にしながらそう答えたので、
『え、そうだったんですか!?』
と、爽子ら勇者達はウィルフレッドに向かって一斉にそう尋ねたが、
「へ、陛下?」
と、ウィルフレッドが何も答えようとしなかったので、気になった爽子がウィルフレッドの様子を見ると、
「陛下!?」
と、驚く爽子を他所に、ウィルフレッドは今にも顔から飛び出してくるんじゃないかと思われるくらい大きく目を見開いた状態で顔を真っ青にしつつ、先ほど以上にダラダラ滝のように汗を流していた。
そして、爽子の声に気付いたのか、ウィルフレッドはゆっくりと爽子に視線を向けると、
「……す、すまない、爽子殿」
と、表情を変えずにそう謝罪してきたので、
『へ、陛下ぁ!?』
と、爽子ではなく残りの勇者達がそう驚きに満ちた声をあげると、
「あーあ、ウィルフゥ……」
と、ヴィンセントが呆れ顔でそう口を開いた後、
「お前……やっちまったな」
と、ウィルフレッドに向かってそう言ってきたので、
『陛下ぁあああああっ!』
「いやぁあああああああ! フーちゃあああああああん!」
「春風くぅうううううううん!」
「は、春風ぁあああああああ!」
と、爽子を除いた勇者達はそう悲鳴(のようなもの?)をあげた。
そして、爽子はというと、
「そ、そんな……それじゃあ、雪村……は?」
と、全身をガタガタと震わせながらそう呟くと、
「うーん」
と、声をもらしながら、後ろにバタンと倒れ込んだ。
しかも、口からブクブクと泡を吐きながら、だ。
そんな爽子を見て、
「ああ、先生!? せんせぇえええええええ!?」
「きゅ、救急車……か?」
「ここ異世界だから!」
「ふ、フーちゃん! フーちゃあああああああん!」
「お、お、落ち着いてください! 落ち着いてくださいいいいいいい!」
と、その場にいる者達全員が慌てふためいたので、
「うわぁ、滅茶苦茶混沌としてるなぁ」
「うふふ、そうですねぇ」
と、ヴィンセントとキャロラインは「ははは」と笑いながらそう言った。
次回で今章最終話(予定)です。




