第6話 恐ろしい「罰」
「それに引っ張られる形で、地球も『罰』を受ける……つまり、消滅することになっちゃったの」
と、険しい表情でそう話したアマテラス。そんな彼女の言葉が理解出来なかったのか、春風はポカンと口を開けた状態で固まっていたが、すぐにハッとなって、
「ちょ、ちょっと待ってください! どうしてそうなるんですか!? ルールを無視したのはその『エルード』って世界の住人なんですよね!? それで、どうして地球まで巻き込まれなきゃならないんですか!?」
と、アマテラスに向かって掴み掛かる勢いでそう問い詰めたが、逆にアマテラスは落ち着いた表情でスッと右手を上げると、
「春風君、気持ちはわかるけど今は落ち着いて。こっちも順を追って説明するから」
と、春風に向かって穏やかな口調でそう言った。
それを聞いた春風は再びハッとなると、アマテラスから2、3歩離れて、
「す、すみませんでした」
と、アマテラス達に向かって深々と頭を下げながら謝罪したので、それを見たアマテラスは「気にしないで」と笑顔でそう言った後、早速説明に入ろうとしたが、
「ちょっと待てアマテラス。ここから先は俺らにも説明させろ」
と、ゼウスがそう口を開き、それに続くようにオーディンも「うんうん」と頷いたので、それを見たアマテラスは「むっ!?」と不満そうな表情になったが、すぐに表情を変えて、
「……わかった。じゃあ、後はお願いね」
と言うと、春風の前から離れて、彼女と入れ替わるようにゼウスがその位置に立った。
「んじゃ、ここからは俺が説明するぜ」
と、ゼウスがニヤリと笑いながらそう言うと、
「お、お願いします」
と、春風は真剣な表情でそう返事した。
そして、アマテラスとオーディンが見守る中、ゼウスは説明を始める、
「いいか春風。まずは『世界』と『異世界召喚』の関係についてだがな、実は様々な次元に存在する様々な『世界』と『世界』の間には、『次元の壁』っつう目には見えないデケェ壁があるんだ」
「次元の……壁?」
「おうよ。で、今アマテラスが説明した『ルール』を守ったうえで『異世界召喚』を行うってのはな、この『次元の壁』に扉を作って、そこから召喚の対象になったものを召喚者側の世界に送り出すっつう訳よ」
と、そう説明し終えたゼウスの言葉に、
「そ、そうだったんですか!」
と、大きく目を見開きながら驚く春風。
すると、
「ところがだ!」
と、ゼウスも大きく目を見開きながらそう言ったので、春風は「な、何事!?」とギョッとなっていると、
「今回、その守るべき『ルール』が無視された。ルール違反して強引に『異世界召喚』をするっつうことは、即ち『次元の壁』に無理矢理デケェ穴を開けて、そこから無差別に人をさらうってことになるのさ」
と、ゼウスはそんな春風に向かってそう説明したので、
「そ、そうなんですか」
と、春風はタラリと汗を流しながら返事した。
ゼウスは更に説明を続ける。
「で、穴を開けられた『次元の壁』はどうなっちまうのかいうとな、その穴を塞ぐ為にルール違反した『世界』を修復の為の材料として取り込んじまうんだ」
その説明を聞いて、
「と、取り込むって、そのルール違反をした世界そのものをってことですか?」
と、春風が恐る恐るそう尋ねると、
「そうさ。その世界に存在するあらゆるもの、海、山、植物、動物、そして……人間さえも、な」
と、ゼウスがそう答えたので、
「と……取り込まれた人間は……どうなってしまうのですか?」
と、春風が再び恐る恐るそう尋ねると、
「取り込まれたら最後、笑うことも、泣くことも、怒ることも、そして……死ぬことも出来なくなっちまって、永遠に『次元の壁』の一部になっちまうのさ」
と、ゼウスは険しい表情でそう答えたので、
「そ……それが、恐ろしい『罰』なのですか?」
と、春風が更にそう尋ねると、ゼウスは無言でコクリと頷いた。
それを見た春風は、「そんな!」とショックで倒れそうになったが、どうにか踏ん張ると、
「そんな恐ろしい罰を、何で地球まで受けなきゃならないんですか!?」
と、ゼウスに向かって掴み掛かる勢いでそう尋ねた。
その質問にゼウスが「それは……」と答えようとすると、
「それについては、僕から説明しよう」
と、オーディンがそう口を開いてきたので、春風はゼウスから1、2歩ほど下がると、
「お、お願いします」
と、オーディンに向かって深々と頭を下げた。
そんな春風の姿を見て、オーディンは説明を始める。
「実は、君を助け出してから僕達も色々と調べてたんだけど、今回『ルールを無視した異世界召喚』をやらかした『エルード』って世界、どうも生命力が弱くなってきてるんだ」
「え、世界にも『生命力』ってあるんですか?」
と、オーディンの説明を聞いた春風がそう尋ねると、
「ああ。今話した『エルード』や、君の住んでいる『地球』、そして多くの世界にも『生命力』はあるんだ。で、話を戻すけど、その『エルード』の生命力が、どういうわけか500年前からどんどん弱くなってて、今かなり危険な状態になっているんだ」
「ご、500年前!? どうしてそんな事に……!?」
「それは僕達にもわからない。それを知る為に向こうの世界の神々に連絡を取ろうとしたんだけど、全然返事してくれなくて僕らも困った状態なんだ」
(『連絡』って、電話でもしてるのかな?)
「で、再び話を戻すけど、そんな危険な状態で今回の『ルールを無視した異世界召喚』が実行されて、更には24人……いや、君を含めると25人だな。まぁとにかく、一度に20を超えた数の人間達がさらわれてしまったのだから、『次元の壁』に開けられた穴は相当大きなものになってしまい、修復する為には『エルード』という世界だけは足りなくなってしまったんだ。なら、足りない部分は何処から調達すると思う?」
と、オーディンは説明の最後にそう尋ねてきたので、
「え、何処からって……」
と、春風が考える仕草をしながらそう答えようとした、次の瞬間、
「まさか!」
と、何かに気付いたかのようにハッとなり、顔を真っ青にした。
何故なら、オーディンの説明と質問を聞いて、どういうことだろうと考えた結果、春風はある恐ろしい結論に至ってしまったからだ。
そして、その結論に至った春風は、内心では「答えたくない!」と思ってはいるが、一方ではそうも言ってられないと考えて、
「まさか……穴の向こう側……ですか?」
と、オーディンに向かって恐る恐るそう尋ねると、オーディンはコクリと頷いて、
「そうだ。『次元の壁』は、地球も材料として取り込む気なんだ」
と、春風に向かって真剣な表情でそう答えた。
その答えを聞いて、
「も、もしも……その『次元の壁』に取り込まれてしまったら、助け出すことは……?」
と、春風はそう尋ねたが、それに対してオーディンは首を横に振りながら、
「不可能だ」
と、答えた。
その答えを聞いた瞬間、春風は「光」達が言っていた言葉を思い出す。
ーー今、君の故郷が……「地球」が大変なことになってしまっている。
ーーそうよ。そしてこのままだと、あなたはまた、「大切なもの」を失ってしまうの。
春風はその言葉を思い出して、
「そ……そんな」
と呟くと、その場に膝から崩れ落ちてしまった。