第66話 登場、「皇帝」と「皇妃」
ルーセンティア王国王都より、遙か西に位置するとある大都市。
そこは、現在夜であるにも関わらず、数多くの立派な建物には灯りがついていて、通りは多くの人々で賑わっていた。
そんな煌びやかで活気に満ちている大都市の中央に、これまた大きくて立派な建物があって、その建物内のとある一室では、
「うぅ……」
と、1人の男性が目の前の机に並べられた山のような書類の束と格闘しながら、
「遅い! 遅すぎる!」
と、かなり不機嫌になっていた。
そんな男性を見て、
「はぁ。もう、またですかぁ陛下」
と、部屋に備え付けられたソファーに座っている、1人のノホホンとした雰囲気を持つ女性が、男性をそう呼びながら溜め息を吐いていると、
「だぁってよキャリー。外見てみろよ、もうこんな夜なんだぜ? 幾らなんでも遅すぎるだろ。こんなんじゃ仕事も捗らねぇよ」
と、「陛下」と呼ばれた男性が親指で窓の外を指差しながらそう文句を言ったが、
「仕事が捗らないのはいつものことでしょう? 全く、『ストロザイア帝国の皇帝陛下』だというのに、とうの本人は仕事をサボってばかりなんて……」
と、「キャリー」と呼ばれた女性は呆れ顔で再び「はぁ」と溜め息を吐いたので、それに「陛下」と呼ばれた男性はわざとらしく口笛を吹きながらそっぽを向いた。どうやらこの男、偉い立場であるにも関わらず仕事をサボることが多いようだ。
それから少しすると、
「だぁあああああ! もう我慢出来ねぇ!」
と、「男性は座っていた椅子から立ち上がりながらそう叫ぶと、
「ちょっとぉ、何する気ぃ?」
と、尋ねてきた女性を無視して、男性はとある場所へと歩き出した。
といっても、今いる部屋を出るわけじゃなく、男性が立ち止まったのは、机近くの壁際に置かれた大鏡の前だった。
その大鏡を前に、
「決まってんだろ、こっちから声かけんだよ!」
と、男性はそう言うと、「やれやれ……」と呆れ顔で呟く女性を無視して、その大鏡についている青い宝石に触れた。
それを見て、女性がスッと座っていたソファーから立ち上がった次の瞬間、鏡が眩い光を放ち、そこに別の男性の姿が映り出すと、
「おーい、ウィールフー?」
「ウィルフちゃーん? こーんばーんはー」
と、その男性に向かって2人はそう声をかけた。
そして現在、ルーセンティア王国王城内の、国王ウィルフレッドの自室にて、
「勇者殿達よ、これがストロザイア帝国の『皇帝』とその妻である『皇妃』殿だ」
と、ウィルフレッドが鏡に映った男女を親指で指差しながら、「勇者達」こと爽子、歩夢、美羽、水音、純輝、煌良、優の7人に向かってその男女をそう紹介した。
それを聞いて、爽子達が「は、はぁ」と若干「ホントですかぁ?」と言わんばかりの「疑い」に満ちた表情でそう返事すると、
「おいおいウィルフー。『皇帝』にして『長年の親友』であるこの俺を『これ』呼ばわりかよぉ」
と、大鏡に映った男性が「む!」と頬を膨らませながら、ウィルフレッドをニックネームらしき呼び名で呼びながらそう言い、それに続くように、
「そうよぉウィルフちゃん酷い……」
と、女性も男性と同じように「む!」と頬を膨らませながらそう言ったが、ウィルフレッドの傍に立っているマーガレット、クラリッサ、イヴリーヌの姿を見ると、
「あら! よく見たらマギーちゃんとクラりんちゃんとイヴりんちゃんもいるじゃなぁい!」
と、彼女達をニックネームらしき呼び名でそう呼び、最後に「ヤッホー」と手を振りながらそう付け加えると、
「「「その呼び方やめてください!」」」
と、3人とも恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながらそう言った。
そんなウィルフレッド達のやり取りを見て、
(何なの? この人達……)
と、勇者達全員がそう思っていると、
「まぁ、それはさて置き、だ」
と、大鏡に映った男性がそう呟くと、
「お前さん達が、異世界から召喚された『勇者』でいいんだよな?」
と、爽子達に向かってそう尋ねてきたので、それに爽子達が「は、はい」と返事すると、
「はじめまして勇者諸君。俺はストロザイア帝国皇帝、ヴィンセント・リアム・ストロザイアだ」
「そして、その妻にして皇妃のキャロライン・ハンナ・ストロザイアよ。よろしくねー」
と、男性と女性は爽子達に向かって笑顔でそう自己紹介した。
その自己紹介を聞いて、爽子達が「は、はぁ、どうも」と戸惑いながら頭を下げると、
「で、ヴィンス。一体こんな時間に何の用だ? まぁ、理由はわかってはいるが……」
と、ウィルフレッドが男性ーーヴィンセントをニックネームらしき呼び名でそう呼びながら尋ねてきたので、それにヴィンセントがピクッと反応すると、
「『何の用』だぁ? お前がいつまで経っても報告してこないからこっちからかけたんだろうが!」
と、ウィルフレッドに向かって怒鳴りながらそう答え、それに続くように、
「そうよぉウィルフちゃん! おかげで陛下ったらさっきまでずっと不機嫌だったんだからね!」
と、女性ーーキャロラインもプンスカと怒りながらそう言ったので、その言葉にウィルフレッドは「うぐ!」と呻いた後、
「……それは……すまん」
と、気まずそうな感じでヴィンセント達に向かって謝罪した。
それを聞いて、ヴィンセントが「全く……」と呟くと、
「で、話は変わるが、『勇者』ってのはそいつらで全員か?」
と、チラッと爽子達を見ながらそう尋ねてきたので、
「ん? ああいや、召喚された勇者達は、彼女達を含めて25人だ」
と、ウィルフレッドもチラッと爽子達を見ながらそう答えた。
その答えを聞いて、
「あら! そんなに召喚されたの!? 誰が召喚したのかしら!?」
と、キャロラインがパァッと表情を明るくしながらそう尋ねると、
「わ、私と数人のサポート役の人達で……」
と、クラリッサが恐る恐る「はい」と手を上げながらそう答えたので、
「あらあらぁ、すごいじゃなぁい! 流石はクラりんちゃんね!」
と、それを聞いたキャロラインが更にパァッと表情を明るくしながらそう言うと、
「だから、その呼び方やめてくださいってば! 恥ずかしいです!」
と、クラリッサは再び恥ずかしそうに顔を真っ赤にした。
すると、
「はーなるほどなぁ。で、それで何で今まで報告してこなかったんだ?」
と、またヴィンセントがそう尋ねてきたので、
「うぅ。そ、それは……」
と、ウィルフレッドは気まずそうにタラリと汗を流しながらそう声をもらした。
それを見て、ヴィンセントは「ん?」と首を傾げたが、よく見るとマーガレット、クラリッサ、イヴリーヌ、そして爽子ら勇者達までもが「えっとぉ……」となんとも気まずそうな様子だったので、それを見たヴィンセントは何かを察したのか、
「ウィルフレッド、何が起きたのか、全て説明してもらおうか」
と、先ほどまでの態度とは違って威厳に満ちた態度で、ウィルフレッドを本名で呼びながらそう言い、それに続くように、
「そうね。マーガレット達も説明をお願いするわ」
と、キャロラインもヴィンセントと同じように威厳に満ちた態度でそう言ってきた。
そんな2人の雰囲気に、爽子ら勇者達は皆、タラリと汗を流す中、
「……ああ、わかったヴィンセント。今日起きた全ての出来事を説明するよ」
と、ウィルフレッドも「国王」に相応しい威厳に満ちた態度で、ヴィンセントとキャロラインに向かって今日起きたことを全て話し始めた。




