第61話 残された者達・2
今回は少し短めの話になります。
「何やってんだよ。あの、馬鹿野郎!」
と、水音が1人、自室内でそう呟いていた、丁度その頃、王城内の別の部屋では、
「……」
少女・海神が1人、ベッドの上で両膝を抱えながら塞ぎ込んでいた。
「フーちゃん……」
と、抱えた膝に顔を埋めながらそう呟いていると、ガチャリと部屋の扉が開かれて、
「ユメちゃん、お茶持ってきたよ」
と、その向こうから少女・天上がヒョコッと顔を出しながらそう言ったので、
「あ、うん。ありがとう」
と、海神は顔を上げながらそうお礼を言った。
数時間前、爽子と水音が海神と天上のもとを訪れた後、頼んでいた2人の分の食事が運ばれた。
最初は「食べたくない」と思っていた海神だったが、食事が運ばれた途端、キュウッという可愛らしい音がお腹で鳴っていたので、その音を聞いた海神と天上は、
「「あ」」
と、お互い顔を見合わせた後、弱々しい笑みを浮かべて、その後は一緒に食事をすることにした。
それから2人だけの食事が終わると、
「じゃあ、ちょっと片付けてくるね。それと、ついでに食後のお茶を用意するから」
「うん、ありがとう」
と、天上と海神はそう話し合って、天上が食べた後の食器を持って部屋を出て行った。
その後暫くすると、天上がお茶を持って戻ってきて、現在に至るという訳だ。
とまぁそんな感じで、それから海神と天上は2人きりの食後のお茶を楽しんでいた。
持ってきたティカップ内のお茶を一口啜った後、
「どう、ユメちゃん。少しは落ち着いてきた?」
と、天上が海神にそう尋ねると、海神は「うん」と頷いて、
「ごめんね美羽ちゃん、心配かけちゃって」
と、海神は申し訳なさそうな表情でそう謝罪したので、
「ううん、気にしないでよ。私もユメちゃんと同じ心境だから」
と、天上は「あはは」と苦笑いしながらそう言った。
それから少しの間、2人が沈黙していると、
「……フーちゃん、今頃どうしてるかなぁ」
と、海神がそう口を開いたので、
「そう……だね。春風君、今、どの辺にいるんだろう?」
と、天上はそう疑問を口にした後、
「あのレナって女の子、大丈夫かなぁ?」
と、海神は今度は春風を連れ出した少女・レナについてそう疑問を口にしたので、
「う、うーん。どうだろう。春風君なら大丈夫とは思うけど……」
と、天上はそう口に出すと、
(だ、大丈夫……だよね?)
と、天上は不安そうな表情でそう考えて、それを見た海神も不安そうな表情になった。
その後、海神と天上が再び沈黙していると、トントンと部屋の扉が叩かれた音がしたので、2人は思わずビクッとなって扉を見つめた。その際、2人の脳裏にとあるイメージが浮かび上がったので、
「ど、どうしよう!?」
「お、落ち着いて! 私が見てくるから!」
と、海神と天上は小声でそう言い合うと、部屋の中をキョロキョロと見回したが、その後すぐに「はぁ」とガックリと肩を落とすと、
「こ、これを使うしかないか」
と、天上はそう言って、ベッドに置かれてた2つの枕の1つ手に取ると、ゆっくりと部屋の扉に近づいた。因みに、海神も念の為にと枕を手に持っていた。
そして、天上は警戒しながらゆっくりと扉を開けて、
「ど、どちら様ですか……?」
と、恐る恐る扉の向こうにいる者(?)に向かってそう尋ねると、
「こ、こんばんは、クラリッサです」
そこにいたのは、ルーセンティア王国の王女であるクラリッサだった。
その姿を見て、
「え? な、何で、お姫様が、ここに……?」
と、天上が困惑した様子でそう尋ねると、
「そ、その……ちょっと、お話がしたくて……」
と、クラリッサは恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながらそう答えたが、その直後、
「というより、どうして枕を持っているのですか?」
と、天上が持ってる枕を見てそう尋ねたので、その質問に天上は「え?」と首を傾げると、持っている枕を見て、
「こ、こ、これは、失礼しました!」
と、大慌てで枕を後ろに隠しながら謝罪した。
その謝罪を聞いて、クラリッサはビクッとなったのか、
「ああ、そんな! お気になさらないでください!」
と、天上と同じように大慌てでそう言った。
その後、
「み、美羽ちゃん……」
と、海神がそう口を開いたので、それに天上が「うぅ……」と呻くと、
「そ、その……取り敢えず、入ってください」
と、クラリッサを部屋に招き入れることにした。
すると、
「ああ、ちょっと待ってください!」
と、クラリッサが「待った」をかけてきたので、それに天上と海神が「ん?」と首を傾げると、
「わたくしだけでなく、この子も一緒によろしいでしょうか?」
と、クラリッサは自身の斜め後ろを見ながらそう尋ねてきた。
その質問に対して、天上は「え?」とクラリッサの視線の先を見ると、
「あ、あなたは……」
そこにいたのは、クラリッサよりも幼い印象をした金髪の少女だった。
天上はその少女に見覚えがあったが、
「え、えーっと確か名前は……」
と、少女の名前を思い出すことが出来ずに、
「も、申し訳あリませ……」
と、そのことでクラリッサに謝罪しようとしたが、
「ああ、そんなお気になさらないでください!」
と、クラリッサは再び大慌てで「気にするな」と言うと、
「この子の名前はイヴリーヌ。わたくしの妹です」
と、ニコッと笑ってその少女ーーイヴリーヌをそう紹介し、それに続くように、
「こ、こんばんは」
と、イヴリーヌは天上に向かってペコッと頭を下げて挨拶した。
それを聞いて、天上は「あ、どうも……」と困惑していると、
「美羽ちゃん……」
と、海神がそう口を開いたので、その言葉に天上はハッとなった後、海神を見てコクリと頷いて、
「わ、わかりました。えっと、クラリッサ様と、イヴリーヌ様、どうぞ……」
と言って、改めてクラリッサとイヴリーヌを部屋に招き入れることにし、
「「ありがとうございます」」
と、クラリッサとイヴリーヌは2人同時にペコリと頭を下げてそうお礼を言うと、先にクラリッサ、次にイヴリーヌの順に部屋の中に入った。
あと数話ほどで今章は終了の予定です。




