第55話 確認と、新たな「お願い」
今回は、いつもより長めの話になります。
それから暫くして、漸くレナの気持ちが落ち着いたのを確認すると、春風はレナと共にログハウスへと戻った。
ただ、
「おかえり2人共」
と、ニヤニヤするアマテラスと、
「……おかえり」
と、何故か子供っぽく頬を膨らませているヘリアテスに出迎えられたので、そんな2柱の女神の様子に、2人は「ん?」と首を傾げるのだった。
まぁ、その辺りはひとまず置いといて、春風達は再び食堂に入り、それぞれ椅子に座ると、
「さてと。じゃあ、全員が揃ったところで、今日集まった情報を整理するわね」
と、アマテラスがそう口を開いたので、それを聞いた春風、レナ、ヘリアテスは「はい」と頷いた。
「まずはこの世界のことなんだけど、ヘリアちゃんの話によると、500年前、突然別の次元から現れたと思われる『侵略者』達によって攻め込まれ、それに対抗する為にヘリアちゃんとこの場にいないルーちゃんはこの世界の住人達と共に戦ったのよね?」
「その通りです」
「でも、敵の親玉達の圧倒的な力の前に、ヘリアちゃんとルーちゃんは『神』としての力を殆ど奪われて、長い間封印されていた。そしてその封印から解放された時、世界はすっかり変わり果てていて、この世界の本来の神であるあなたとルーちゃんは『悪しき邪神』に、住人達である『妖精』と『獣人』は『悪しき種族』ということにされ、現在は『侵略者』達の親玉がこの世界の『神』ということになり、この世界に攻め込んできた『侵略者』達の末裔が現在の『人間』という種族となっている」
と、アマテラスが「エルード」という世界の『過去』と『現在』についてそう纏めると、最後にヘリアテスを見て、
「ここまではいいのよね?」
と、確認を求めてきたので、それにヘリアテスは「うぅ」と辛そうな表情を浮かべたが、すぐに表情を変えて、
「はい、間違いありません」
と、アマテラスを見ながらそう言った。
そんなヘリアテスを、
「お母さん……」
と、心配そうに見つめるレナを前に、アマテラスは話を続ける。
「で、ヘリアちゃん達が封印されていた間のことだけど、親玉達はヘリアちゃん達を封印した後……まぁ、多分だけど、この世界の『理』を自分達の都合のいいように作り替えた。その『証』となるのが……」
と、アマテラスはそこまで言うと、チラッと春風に視線を向けたので、それを受けた春風は、
「『職能』と『ステータス』……ですよね?」
と、尋ねるようにそう応えると、アマテラスはコクリと頷いて、
「そう。そしてここだけの話なんだけど、あれが自由に出せる『理』を持つ世界は、実は結構存在しているの」
と言うと、
「え、そうなんですか!?」
と、レナが大きく目を見開きながらそう尋ねてきたので、それにアマテラスが再びコクリと頷くと、
「ええ。『出せる』といっても、世界によって微妙に異なってるんだけどね。例えば、その人の『戦闘力』とか『防御力』が数値化されていたり、どんな人と良好な関係が結ばれていたりとかね」
と、レナに向かってそう説明したので、
(へぇ、そういうのがあるんだ)
と、アマテラスの隣で春風はそう納得した。
その後、
「おっと、話が逸れてしまったわね。で、連中が作った新しい『理』なんだけど、ヘリアちゃん達が封印されてから250年が経った後、その『理』から外れた存在が現れた」
と、アマテラスが話を続け始めると、
「ですよね、グラシアさん?」
と、何もない壁に向かってそう言った。
その瞬間、何もないところにスーッと「幽霊」であるグラシアが現れて、
「はい、その通りですアマテラス様。それが、後に『始まりの悪魔』と呼ばれることになる『最初の固有職保持者』の誕生です」
と、グラシアはアマテラスの質問に対してそう答えた。
その答えを聞いた後、
「そう。そして、その『最初の固有職保持者』が消えたのをキッカケに各地で様々な『固有職保持者』が現れた。で、ここからが大事なところだけど、そんな『固有職保持者』の1人だったグラシアさんは、自身が死ぬ間際に、『絶対に変えることが出来ない未来』を見て、それが五神教会によって『予言』として世界中に広まった。勿論、内容の方は都合のいいように書き換えられた後だけどね」
と、アマテラスがそう言うと、
「そうです。そして、私とループスも、グラシアさんからその『未来』を聞いていて、その後、ループスは暫く考え込んだ後、『ならば、俺はこの世界の為に、出来ることをやらないとな」と言って、ここを出て独自に行動し始めたのです」
と、ヘリアテスがアマテラスに続くようにそう言ったので、
「それが、現在の『邪神と邪神の眷属騒動』……という訳なんですね?」
と、春風がヘリアテスにそう尋ねると、ヘリアテスは無言でコクリと頷いた。
それを見た後、アマテラスは更に話を続ける。
「で、ここからは私の推測なんだけど、その騒動を知った敵の親玉達は、グラシアさんが見た『未来』が現実のものになるのではないかと恐れるようになり、その未来を変える為……いや、正確に言えば、自分達を守る為にルーセンティア王国の連中に『勇者召喚』の秘術を授けて、彼らはそれを実行に移した。でも、それは『ルール』を無視した違法的なもので、その所為でこの世界だけじゃなく、ここにいる春風君と、『勇者』としてこの世界に召喚された子達の世界である『地球』までもが消滅の危機に陥ってしまった。それで、私達はそれを阻止する為に、『勇者召喚』から唯一助け出すことが出来た春風君をこの世界に送り込んだ。その後、国王ウィルフレッドから事情を聞いた春風君は、そちらのレナちゃんと一緒にルーセンティア王国を飛び出し、私はこうしてヘリアちゃんと再会出来て、現在に至る」
と、アマテラスはそこまで言うと、
「……とまぁ、こんな感じでいいかしら?」
と、ヘリアテスに向かってそう質問したので、
「はい、あってます」
と、ヘリアテスはコクリと頷きながらそう答えた。
その答えを聞くと、アマテラスは「うーん」と天井を仰ぎ見て、
「いやぁ、改めて考えてみると何とも皮肉な話ね。自分達を守る為にやらせた『勇者召喚』が、結果的に『自分達が滅ぶ未来』に繋がってたんだから」
と言うと、チラッと春風を見た。
その視線を受けて、春風は何とも言えない表情を浮かべた。当然だろう、地球を守る為にこの世界に来た自身が、親玉達を滅ぼす『悪魔』の1人だという事実を知ってしまったのだから。
そんな春風を他所に、アマテラスは「ふぅ」とひと息入れると、
「さて春風君」
と、春風に声をかけたので、それに春風が「はい」と返事すると、
「今言ったこの世界の現状とか『未来』を聞いて、複雑な心境なんだろうけど、そんなあなたに、私は新たな『お願い』をしなくてはならないの」
と、アマテラスは真剣な表情でそう言ったので、それにヘリアテスとレナがゴクリと唾を飲む中、春風はアマテラスに向き直りながら、
「はい、何でしょうか?」
と、尋ねると、アマテラスはパンッと自身両手を合わせて、
「地球を守る為に、ヘリアちゃん達を助けて欲しいの!」
と、「悪いねぇ!」と言わんばかりの申し訳なさそうな笑みを浮かべながらそう言ったので、
「「「か、軽ぅ! ノリ軽ぅ!」」」
と、ヘリアテス、レナ、そして、グラシアまでもが「ええ!?」と大きく目を見開きながらそう叫んだ。
そして、一方春風はというと、そんなアマテラスの「お願い」に対して、
「わかりました、やらせていただきます!」
と、そう返事したので、
「「「いや、引き受けるんかーい!?」」」
と、ヘリアテス、レナ、グラシアは、春風に向かってそうツッコミを入れた。




