第53話 春風、ショックを受ける
全ての固有職保持者達が「悪魔」呼ばれることになった元凶である、「始まりの悪魔」こと「最初の固有職保持者」。
その人物が身につけていた固有職能が、まさかの「賢者」であるという事実に、
「はぁあああああああ!?」
と、春風は驚きを隠せないでいた。
(ちょっと待ってよ。それ何の冗談なんだよ?)
と、ショックで顔を真っ青にしながらも、春風はグラシアを問い詰めようと椅子から立ち上がったが、
「あ、あれ?」
突然視界がグニャリと歪み、更に足から力が抜けたので、春風はその場に膝から崩れ落ちそうになったが、
「おっと!」
と、同じく椅子から立ち上がっていたアマテラスに支えられたので、
「あ、ありがとうございます」
と、春風はアマテラスに向かってお礼を言った。
その後、
「グラシアさん、今話したのは、全て事実なのですか?」
と、春風がアマテラスに支えられた状態のままそう尋ねると、
「はい、申し訳ありませんが、全て事実です」
と、グラシアはコクリと頷きながらそう答えた。
その答えを聞いて、春風は顔を下に向けながら「そうですか」と呟くと、アマテラスの方へと振り向いて、
「アマテラス様、もう大丈夫です」
と、弱々しい笑顔でそう言ったので、この言葉にアマテラスは心配そうな表情を浮かべたが、
「……わかったわ」
と言うと、ゆっくりと春風から離れた。
その後、春風はしっかり立てているのを確認すると、
「すみません、外の空気を吸いたいのですが、よろしいでしょうか?」
と、ヘリアテスに向かってそう尋ねたので、
「ええ、いいですよ。ですが、あまり遠くに行かないでください」
と、ヘリアテスはコクリと頷きながらそう返事した。
その言葉を聞いた後、
「ありがとうございます」
と、春風はヘリアテスに向かってそうお礼を言うと、1人、食堂を出て、玄関の扉を開けて、ログハウスの外へと出た。
かなりの時間が経っていたのか、外はすっかり暗くなっていて、
(あ、もう夜になったのかな?)
と、そう疑問に思った春風がふと空を見上げると、
「わぁ……!」
そこには美しく輝く満月と、キラキラと輝く無数の星々が広がっていたので、
「こんな綺麗な星空、地球じゃ絶対に見れないや!」
と、春風は思わず声に出して感動した。
それから少しして、春風はログハウス近くの湖の畔に丁度いい岩があったので、春風はそこに近づくと、その岩場に座り込んだ。
そして、再び夜空を見上げながら、
(ええっと、まずは今日いつものように家を出て……)
と、今日1日で遭遇した出来事を思い出し始めた。
(学校に着いたらいつものように水音やユメちゃん、美羽さんに『おはよう』って言って、先生が来たら朝のホームルームが始まってそのまま授業に。で、昼休みに入ったと思ったら教室の床が光って先生やクラスのみんな、そしてユメちゃん、美羽さん、水音が消えて、俺も『やばい』って思ったらアマテラス様達に助けられて、でもその後すぐに『地球消滅』の危機を知らされて、それを阻止する為にオーディン様と契約して『見習い賢者』の力に目覚めて、それからエルード着いて、みんなと再会出来たのはいいけど、ウィルフレッド国王が嘘をついているのがわかって、しかも話聞いたら『あ、これこのままここにいたら殺されるわ』ってことで、王国を出る許可を得ようと思ったらまさかの騎士を相手に大暴れする羽目になって、ピンチになったと思ったらレナさんが助けに入ってくれて、それからどうにかレナさんと一緒に王国を出られて、その後はレナさんの案内のおかげでこの世界の『神様』であるヘリアテス様に出会えて、500年前に起きた出来事を聞いて、更にその後は幽霊のグラシアさんから『本当の予言』という名の『変えることが出来ない未来』や、俺がその未来に出てくる『3人の悪魔』の1人って事実を聞いて、更にこのエルードで誕生した『最初の固有職保持者』の伝説も聞いて、その人の職能がまさかの『賢者』……か)
と、全ての出来事を簡潔にまとめると、
「……いや、何だよこの状況は!?」
と、春風は声に出してそうツッコミを入れた。
ただ、ツッコむ相手が誰もいなかったので、春風は虚しくなったのか、
「何やってんだよ俺……」
と、がっくりと肩を落とすと、
「あーもう!」
と、やけになったかのようにゴロンと寝転がって、
「何なんだよ一体! 俺はただ地球を守る為にこの世界に来たのに! 俺が『悪魔』の1人とか、『賢者』の職能がこの世界では『悪魔の力』とか意味わかんねぇし! ていうか、『賢者』っつったら、魔王から世界を救う『勇者』のパーティーメンバーなんだぞ! いや『世界』が違えば常識も違うっつうのはわかってるけどさぁ! 『悪魔』はねぇだろ『悪魔』はぁ!」
と、今の自身の現状(?)に対して不満を口に出した。勿論、大声で叫ぶのは恥ずかしいからログハウス内にいる2柱の女神には聞こえないように小声で、だ。
そして、
「ホントに、もうどうすればいいんだよ……」
と、泣きそうな顔になりながらボソリとそう呟くと、
「春風」
という声がしたので、春風は思わずガバッと起き上がって、声がした方へと振り向くと、
「あ、レナさん」
そこにはシュンと悲しそうな表情を浮かべているレナがいた。よく見ると、髪の間から出てきた狐耳と、お尻から伸びてる狐の尻尾が、レナの表情に合わせてシュンと垂れ下がっていたので、
(あ、ちょっと可愛いかも……)
と、春風はそう思ったが、その後すぐに大切な存在である2人の少女の顔が脳裏に浮かび上がったので、
(いやいやいや、そうじゃなくて!)
と、春風は大慌てでブンブンと首を横に振った後、レナの悲しそうな顔を見て、
(や、ヤバい。今の独り言、絶対聞かれた)
と、春風はそう考えながら、タラリと汗を流した。
その後、
「あ、あのー、レナさん……?」
と、春風が恐る恐るレナに向かってそう声をかけると、
「春風」
と、レナが口を開いたので、
「は、はひぃ!」
と、春風はビシッとその場に正座しながらそう返事すると、
「隣、座っていい?」
と、レナにそう尋ねられたので、春風は一瞬「え?」と躊躇ったが、
「あ、はいどうぞ」
と、OKを出すことにした。




