第51話 「悪魔」の証
「あなた様こそが、『偽りの神々』を滅ぼす『3人の悪魔』の1人なのです」
と、春風に向かってそう告げたグラシア。
その言葉を聞いて、食堂内にいる者達全員が何も言えずにいる中、
「……いやいやいや! ちょっと待ってくださいよ! それは一体何の冗談なんですか!?」
と、ハッとなった春風が大慌てでガタンと椅子から立ち上がり、グラシアに向かってそう尋ねると、
「冗談などではありません。私は『未来』を見た時、確かに見ました。『異界の神』と契り……即ち契約を結び、背中から赤い翼を生やした悪魔の姿を」
と、グラシアは落ち着いた様子でそう答え、
「そう、あなた様の背中から現れたその赤き翼こそが、『3人の悪魔』の1人であるという証拠なのです」
と、最後に春風の背中の赤い翼を指差しながらそう付け加えた。
その答えに春風は「なっ!」と絶句したが、すぐに再びハッとなって首を横に振ると、
「いや、だから待ってくださいよ! そりゃあ、この翼はオーディン様と契約を結んだ証ですが、だからって俺が『悪魔』の1人とか、信じられる訳ないでしょ!? 俺、まだこの世界に来たばかりで何もわかってないのに! ていうか、俺は……!」
と、声を荒げながらそう怒鳴ると、
「俺はただ、故郷を……俺の大切なものを守る為にここに来ただけなのに」
と、最後は低いテンションでガクリと肩を落としながらそう言った。
そんな春風を、
「は、春風……」
と、レナが心配そうに見つめていると、アマテラスがスッと椅子から立ち上がり、春風の肩にポンと手を置くと、
「春風君、あなたの気持ちは痛い程わかるわ。私だって『信じられない』って思ってるもの。そして、それはあなたの契約神であるオーディンも同じよ」
と、優しい口調でそう声をかけたので、春風はゆっくりとアマテラスの方へと振り向くと、
「……すみません。取り乱してしまいました」
と、アマテラスに向かって申し訳なさそうな表情で謝罪した。勿論、
「ヘリアテス様にレナさんも、すみませんでした」
と、ヘリアテスとレナにもそう謝罪したので、
「気にしないでください。私もアマテラスと同じく『信じられない』って思ってますから」
と、ヘリアテスも優しい口調でそう言い、それに続くようにレナも「うんうん!」と頷いた。
その後、春風とアマテラスがゆっくりと椅子に座ると、
「……あの、ヘリアテス様、そしてグラシアさん」
と、春風がそう口を開いたので、
「はい」
「何でしょうか?」
と、ヘリアテスとグラシアがそう返事すると、
「先程も言いましたが、俺はまだこの世界について何も知らないのです。色々と聞きたいことがあるのですが、まずは俺が目覚めた『固有職能』というものについて、わかってる範囲だけでいいですので、どうか教えてほしいのです」
と、春風は深々と頭を下げながら、ヘリアテスとグラシアに向かってそう言った。
その言葉にヘリアテスとグラシアは「う……」と呻きながらお互い顔を見合わせたが、すぐお互いコクリと頷きあって、
「わかりました」
「私達が答えられる範囲でよろしければ」
と、春風に向かってそう言ったので、
「ありがとうございます、そしてお願いします」
と、春風は再び深々と頭を下げた後にそうお礼を言った。
それを聞いた後、まずはヘリアテスが「それでは……」と口を開く。
「これは、私と今はここにはいないループス、そしてグラシアさんと話し合ってわかったことなのですが、通常、この世界の現在の住人である『人間』達は、15歳で成人を迎え、その証として親玉達より『職能』を授かる、という話は知ってますね?」
その話を聞いて、春風が「はい」と返事すると、ヘリアテスは「ここからはお願いします」と言わんばかりにグラシアに視線を向けたので、それにグラシアが「わかりました」と小さくそう言うと、
「ですが、固有職能というのは、どういう訳か生まれた時から既にその身に宿していた職能でして、私も物心ついた時から、既に『時読み師』の固有職能を持っていたのです。その為、15歳の時に職能を授かった後に使えるようになれる『スキル』も使うことが出来たのです」
と、春風に向かってそう説明した。
その説明を聞いて、
「そ、そうだったのですか」
と、春風が納得すると、今度はグラシアがヘリアテスに「お願いします」と視線を向けながらそう言ったので、
「わかりました」
と、ヘリアテスがそう返事すると、
「そして、これはレナが15歳になった時のことなのですが、いざレナに『職能』を与えるかとなった時に……」
ーーあれ? ところで「職能」ってどうやって与えるんだ!?
「と、私もループスもそれに気付いてどうしようとなった時、レナが『妖獣士』の固有職能に目覚めたのです。そして、私とループス、そしてグラシアさんでレナの固有職能を通して調べてみた結果、固有職能とは、その人が持つ『強い意志』や、『強い魂の輝き』が姿形を得たものだという結論に至ったのです」
と、春風とアマテラスに向かってそう説明した。
その説明を聞いて、
「魂の……」
「輝き?」
と、春風とアマテラスが首を傾げると、
(あ、そういえばオーディン様との契約の時……!)
ーー契約者「雪村春風」より、「強い意志」と「強い魂の輝き」を確認しました。
ーーそれにより、契約者「雪村春風」は、固有職能「見習い賢者」の能力に目覚めました。
(なんてことを言われた気がするぞ!)
と、春風はその時のことを思い出して目を大きく見開いた。
そんな春風を他所に、
「ふーん、なるほどねぇ」
と、アマテラスは納得の表情を浮かべながらそう口を開いたが、
「そうなると、1つ腑に落ちないことがあるわ」
と、かなり真面目な表情でそう言ったので、それにヘリアテスが「何でしょうか?」と返事すると、
「そんな凄い職能が、何で『悪魔の力』なんて呼ばれてるの?」
と、アマテラスがそう疑問を口にしたので、
(あ、そういえば!)
と、それを聞いた春風が再び大きく目を見開くと、ヘリアテスは再びグラシアに視線を向けて、それにグラシアが「わかりました」と再び頷くと、
「それにつきましては、理由があるのです」
と、アマテラスに向かってそう口を開いたので、それにアマテラスだけでなく春風までもが「え、何々?」
と、グラシアに視線を向けると、
「これは、五神教会が代々この世界に伝えてきた『伝説』なのですが……今から250年前、今はもう滅んでしまったとある小国で、1人の男の赤ん坊が生まれたところから始まったのです」
と、春風とアマテラスに向かって、その「伝説」について語り始めた。




