第50話 変えることが出来ない「未来」
「そして、先程アマテラス様が仰った『国王ウィルフレッドが話していた予言』というのは、17年前、私が死ぬ間際に使った『最後のスキル』で見た『未来の出来事』、それも、『どんなことをしても絶対に変えることが出来ない未来』なのです!」
「「な、何だってぇえええええええ!?」」
幽霊の女性グラシアから告げられたその言葉に、春風とアマテラスは驚きに満ちた叫びをあげた。
だが、
「ああ、と言いましても、殆どは五神教会の連中によって都合よく書き換えられてしまいましたが」
と、グラシアが真顔でそう付け加えたので、
「「あ、そうなんですか」」
と、春風とアマテラスは低いテンションでそう返事した。
その後、
「それにしても、『絶対に変えられない未来』とは随分と大きく出たわね。グラシアさん、あなたは一体どんな『未来』を見たのかしら?」
と、アマテラスがグラシアに向かってそう尋ねると、
「それを答える為に、無礼を承知で幾つかお尋ねしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
と、グラシアにそう尋ね返されたので、それにアマテラスは「む?」と警戒したが、
「ええ、構わないわ。質問してちょうだい」
と、すぐにそれを解いて、グラシアに向かってそう言った。
それを聞いたグラシアは「では……」と言うと、チラッと春風を見て、
「申し訳ありませんが、あなた様はどのようにお呼びすればよろしいのでしょうか?」
と尋ねたので、春風は一瞬「え?」となったが、すぐに真面目な表情になって、
「ああ、俺のことは『春風』でお願いします。『春風』が名前ですから」
と、グラシアに向かってそうお願いすると、
「わかりました。では、春風様と呼ばせてもらいます」
と、グラシアはペコリと頭を下げながらそう言った。
それを春風は恥ずかしそうに顔を赤くした後、
「お、お願いします」
と言うと、グラシアは「では……」と呟いて、
「春風様、無礼を承知でお尋ねしますが、あなた様は神様と契約を結んだ時、『職能』の力が目覚めましたか?」
と、春風に向かってそう尋ねた。
その質問に対して、春風は「う!」と警戒したが、すぐに首をブンブンと横に振ると、自身の背中に赤い翼を出現させて、
「はい、俺は『地球の神』の1柱であるオーディン様と契約を結んだ時、この赤い翼と固有職能『見習い賢者』の力が目覚めました」
と、その赤い翼を親指で指差しながらそう答えた。
その答えを聞くと、
「なんと! 春風様は『賢者』だったのですね!?」
と、グラシア目を大きく見開きながら驚いたので、
「い、いえ! 『見習い賢者』です! 力に目覚めたばかりの、未熟な『見習い賢者』ですから!」
と、春風は大慌てでそう訂正したが、
「ですが『賢者』であることに変わりはありませんね?」
と、グラシアに真剣な表情でそう尋ねられてしまったので、
「……まぁ、そうなのですが」
と、春風はそれ以上言うのをやめると、
「それで、俺のことがグラシアさんが見た『未来』とどのように関係してるのですか?」
と、グラシアに向かってそう尋ねることにした。
その質問に対して、グラシアが「それは……」と言うと、
「その『未来』を見た後、私の頭の中に、ある『言葉』が浮かび上がったのです。その『未来』についての『言葉』が」
と、春風に向かってそう答えたので、それを聞いた春風が緊張でゴクリと唾を飲んだ後、
「その『言葉』とは?」
と、今度はアマテラスがそう尋ねたので、
「この『偽りの歴史』に塗れたエルードにて『許されざる過ち』が犯された時、『真の神々』に育てられし『白き悪魔』、『偽りの神々』に逆らいし『青き悪魔』、そして、『異界の神』と契りを結びし『赤き悪魔』現れん。その後、3人の『悪魔』達が並びし時、『偽りの神々』が滅ぶ未来が決定となる。その後、『偽りの神々』が全て滅びた時、『偽りの歴史』は終わり、3人の『悪魔』達によって人々は新たな『未来』へと進むであろう」
と、グラシアはその「言葉」についてそう答え、それを聞いた春風が「え?」と声をもらした。そして、
「なるほどねぇ」
と、アマテラスが小さくそう呟くと、
「『偽りの歴史』と言ったわね。ということはグラシアさん、あなたはこの世界の『真実』を知ってるってことでいいのよね?」
と、グラシアに向かってそう尋ねたので、
「はい。その事を知った時、始めはショックを受けましたが、すぐにそれがあの『未来』に繋がってるんだと納得しました」
と、グラシアは少し暗い表情でそう答えた。
その後、
「その『未来』を見た後、私は命を失い、どういう訳かこうして『幽霊』となってこの世界を彷徨うこととなったのです。そして、長い月日が経って、偶然この空間に迷い込んだ私は出会いました。そう、ヘリアテス様とループス様……この世界の『本当の神』と、その『本当の神』に育てられた『白き悪魔』、即ちレナ様に」
と、グラシアがそう話を続けると、
「ああ、やっぱりそうなのね」
と、アマテラスが納得の表情を浮かべて、
「もう。私とループスはそんなつもりでレナを育てた訳じゃないのにぃ」
と、ヘリアテスは不貞腐れた表情でそう言うと、最後に「むぅ」と頬を膨らませた。因みにそんな彼女の隣では、
「ま、まぁまぁお母さん……」
と、その「白き悪魔」本人であるレナが、育ての母であるヘリアテスを必死になって宥めていた。
すると、
「……ちょっと待ってくださいグラシアさん」
と、表情を暗くした春風がそう口を開いたので、それにグラシアだけでなくアマテラス達までもが「ん?」と反応すると、
「話に出てきた『青き悪魔』は置いといて、『白き悪魔』がレナさんだというのはわかりました。ですが、最後の『赤き悪魔』って、まさか……」
と、春風がタラリと汗を流しながらそう言ったので、その言葉を聞いたグラシアは「う……」と答え難そうな表情になったが、すぐに真面目な表情になって、
「そうです。私が見た『未来』に現れた、『異界の神と契りを結びし赤き悪魔』こそ、異世界の神と契約を結び、固有職保持者に目覚めた……」
と、真っ直ぐ春風を見てそう言うと、
(い、嫌だ……それ以上、聞きたくない!)
と、その先を聞くことを拒否しようとしている春風を無視して、
「春風様、あなた様なのです。あなた様こそが、『偽りの神々』を滅ぼす『3人の悪魔』の1人なのです」
と、グラシアは春風に向かってそう告げた。




