第48話 レナの「目的」
今回はいつもより長めの話です。
ヘリアテスから、レナが「妖獣士」となった経緯について色々と聞いた後、
「それでヘリアちゃん。レナちゃんが成人になった後はどうしてたの?」
と、アマテラスがチラリとレナを見ながら、ヘリアテスに向かってそう尋ねると、
「それは……」
と、ヘリアテスは何故か「むぅ」と難しい表情をしながらそう声をもらしたので、アマテラスだけでなく春風までもが「ん?」と首を傾げていると、
「私はこのまま一緒に暮らしてもいいと思ってたんですが、ループスったら、『いや、レナも一応大人の仲間入りを果たしたんだ。それなら、ここを出て自分の力で生活させるべきだろう』なんてことを言い出しまして……」
と、ヘリアテスはそう話して最後に「むぅ」と不貞腐れるように頬を膨らませた。
そして、そんなヘリアテスと交代するかのように、
「それで、その後私とお母さん、お父さん、そして精霊達と話し合った末に、私はここを出て、『人間』達の社会で暮らすことになったのです」
と、レナがアマテラスに向かってそう言った。
その話を聞いて、
「へぇ、よくここを出る気になったわねぇ」
と、アマテラスが意外なものを見るかのようにそう目を見開くと、
「私は反対だったんですが……」
と、ヘリアテスがそう呟いたのが聞こえたが、それをスルーするかのように、
「勿論、最初は不安でしたよ。幾らこの腕輪で姿を誤魔化せても、いつか何処かで正体がバレるんじゃないかって思ってましたから」
と、レナが困ったような笑みを浮かべながらそう言ったので、それにアマテラスが「だったら……」と尋ねようとしたが、それよりも早く、
「ですが、私にも『目的』がありましたし……」
と、レナが困ったような笑顔から真面目な表情に変えながらそう言ったので、
「ん? 何、その『目的』って?」
と、アマテラスは再び首を傾げながらそう尋ねると、
「お母さんが話したように、こちらにいる精霊達は死んだ妖精の力の一部が姿形を得たものです。ですから、そのぉ……」
と、レナは再び精霊について説明した後、何故か言い難そうに視線をずらしたので、その様子に春風とアマテラスは「どうしたのだろう?」と気になったが、
「……あ、もしかして」
と、アマテラスは何かに気付いたかのようにハッとなると、
「レナちゃん。まさかとは思うけど、精霊達の中に『本当の親』の生まれ変わりみたいなのがいるかもしれないと思ったの?」
と、レナに向かってそう尋ねたので、それを聞いた春風も「あ……」と声をもらすと、
「……はい」
と、レナは気まずそうにチラッとヘリアテスを見ながらそう答え、最後に、
「あ、ですが! 私にとってお母さんはこちらにいる女神ヘリアテスですし、お父さんは神ループスです! これは絶対に変わりません! ただ、もしも会えるなら、会ってみたいなって思っただけですから!」
と、慌てた様子でそう付け加え、それを聞いたヘリアテスは、
「れ、レナ!」
と、感動するかのように目をウルウルとさせた。
そんなレナとヘリアテスを見て、
「ふふ、なるほどねぇ」
と、アマテラスが小さく笑いながらそう呟くと、
「それに、今ここには『妖精』の生まれ変わりみたいな存在である『精霊』がいるのですから、もしかしたら『獣人』も何か別の形に生まれ変わってるのかもしれないですし、その中にはきっと私のもう1人の『本当の親』もいるんじゃないかなって……」
と、レナはそこまで言い、最後に「あはは」と気まずそうに笑った。
そんなレナの話を聞いて、
(ああ確かに。言われてみれば、妖精だけでなく獣人も何かに生まれ変わってもおかしくないかも……)
と、春風がそう考えていると、
「そうだったのぉ。でもここを出てからの生活はどうしてたの? 生きてくには何かと必要なものがあるし……」
と、アマテラスがレナに向かってそう尋ねたので、
「ああ、それでしたらご心配には及びません。その為のこれですから……」
と、レナはそう答えると、自身の懐からあるものを取り出し、それをアマテラスに見せた。それを見て、
「あ、そのカードは!」
と、春風が大きく目を見開いたように、そのあるものの正体は、ルーセンティア王国でウィルフレッドに見せた1枚のカードで、
「お。それってもしかして何かの免許証みたいなもの?」
と、それを見たアマテラスがまたレナに向かってそう尋ねると、レナは「はい」と頷きながら、
「これは『ライセンス』と呼ばれているもので、私が『ハンター』であることを示す為の『身分証』の役割を持ってます」
と、真面目な表情でアマテラスに向かってそう答えた。
その答えを聞いて、
「その……今更のようで申し訳ないのですが、その『ハンター』というのはどういうものでしょうか?」
と、今度は春風がレナに向かって恐る恐るそう尋ねてきたので、それにレナが「ん?」と春風に視線を向けると、
「あ、そういえば説明まだだったね」
と、「あ、しまった!」と言わんばかりにハッとなった後、最後に「ごめん」と謝罪して、
「わかりやすく説明すると、『ハンター』っていうのはね、報酬と引き換えに、魔物退治から偉い人の護衛といった色んな仕事をこなす人達のことなの。で、ここを出た後、私はその『ハンター』として仕事をしながら生活してたんだ。今はまだ『半人前』ですが、いつかきっと世界中を旅出来るように強くなって、何処かで生まれ変わったかもしれない『本当のお父さんとお母さん』に会うのが、私の一番の『目的』なの」
と、春風に向かって「ハンター」というものについて、自身の『目的』についてそう説明した。
その説明を聞いて、
(なるほど、ファンタジーものの漫画やラノベでいう『冒険者』のようなものか。そして、それがレナの目的なんだな)
と、春風がそう納得していると、
「で、今日もその『ハンター』としての仕事をしている最中に、精霊達を通してお母さんが『ルーセンティア王国でよくないことが起きようとしている』って言ったから、すぐにルーセンティア王国に向かって……」
と、レナがそう話を続けてきたので、
「今日の『ルールを無視した異世界召喚』の場面に出くわしたのね?」
と、アマテラスがレナに向かってそう尋ねた。
それにレナが「その通りです」と頷きながら答えると、
「私も、その時何か『嫌なもの』を感じたのですが、ここを離れるわけにもいかないと思い、すぐレナにルーセンティア王国に向かうに言いました。まさか、それがアマテラス様が言いましたように『ルールを無視した異世界召喚』だとは思ってませんでしたが」
と、ヘリアテスはそう言って暗い表情になった。
その言葉を聞いて「そうだったんだ」とアマテラスがそう呟くと、
「うん、大体の話は理解出来たわ。じゃあヘリアちゃんにちょっと聞きたいんだけど……」
と、ヘリアテスに向かってそう声をかけたので、それにヘリアテスが「何ですか?」と返事すると、
「ルーちゃんが何処に行ったかは後で聞くとして、まずは国王ウィルフレッドが言ってた『予言』について、何か知ってることがあったら教えてほしいの」
と、アマテラスが真剣な表情でそう言ったので、その言葉を聞いた春風も「教えてください」と言わんばかりにヘリアテスを見た。
そんなアマテラス達を見てヘリアテスが「それは……」と答えようとした、まさにその時、
「それにつきましては、私がお答えいたしましょう」
『!?』
何処から女性のものと思われる声がしたので、春風とアマテラスが「だ、誰!? 何事!?」と言わんばかりに周りを見回すと、
「ここですよ」
という声と共に、1人の青白く光る女性が、春風達の前にスーッと現れた。




