第47話 「家族」としての日々
その後、ヘリアテスは春風とアマテラスに、レナを自分とループスの「娘」として育ててきた日々について話し始めた。
「子育ての知識と精霊達の助けはありましたが、それでも実際に『子供を育てる』というのは本当に大変でした。何せまだ赤ん坊だったレナは本当に元気で、中々食事を口にしてくれないこともありましたし、ちょっと目を離した隙にあっちに行ったりこっちに行ったりとかもありましたし、おまけに夜になると夜泣きで何度も起こされまして、私とループスは何度も寝不足になったこともありました」
と、当時のことについてそう話したヘリアテスの目は、何処か遠いところを見つめているかのようで、そんな彼女の様子を見て、
「た、大変だったわねぇ……」
と、アマテラスはそう言いながら盛大に頬を引き攣らせ、
(お、お疲れ様です)
と、春風は心の中で手を合わせた。
因みにレナはというと、ヘリアテスの隣で、
「ご、ごめんなさいお母さん……」
と、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしていた。
すると、
「ですが……」
と、ヘリアテスがそう口を開いたので、それに春風とアマテラスが「ん?」と反応すると、
「時折見せる可愛らしい笑顔や、気持ちよさそうに眠っているレナの顔を見たら、私とループス、そして精霊達も『よし、明日も頑張るぞ!』と思えるくらい元気になりましたから、それからも頑張ることが出来たのです」
と、ヘリアテスは笑顔でそう言ったので、春風もアマテラスも、
「へぇ、そうなんだぁ」
「そうなんですかぁ」
と、「ふふ」とほっこりとした表情になった。
因みに、ヘリアテスの隣では、
「お、お母さん恥ずかしいよぉ!」
と、レナが恥ずかしさで更に顔を真っ赤にしていた。
そんなレナを他所に、ヘリアテスは話を続ける。
「そんな感じで日々を過ごして、やがてレナが5歳になると、幼い精霊達と一緒になってこの空間の外に遊びに行くようになったのです」
と、そう話したヘリアテスに向かって、
「え、それって大丈夫なんですか!?」
と、春風が目を大きく見開きながらそう尋ねると、
「勿論、その時は幼い精霊達が、『人間』達や親玉達、それと今のこの世界に生息している『魔物』という存在に見つからないようにしていましたし、帰ってきた時も、私とループスでお説教したりもしました。ただ、やっぱり元気がいいと言いますか、好奇心が旺盛と言うべきでしょうか、とにかく、それからも何度か空間の外に出たりしてました」
と、ヘリアテスはそう答えて、最後に再び遠いところを見るような目で、
「いやぁ、あの時は何度もハラハラドキドキしました。レナにもしものことが起きたらどうしようって思ったりもしましたよ」
と、「あはは」と笑いながら、当時ことを思い出し始めたので、
「「お、お疲れ様です」」
と、春風とアマテラスはタラリと汗を流しながらそう言い、
「お、お、お母さんほんとにごめんなさいいいいい!」
と、レナは更に顔を真っ赤にしながら謝罪した。
その後、ヘリアテスは「ふぅ」とひと息入れると、
「まぁ、そういうことがありましたから、流石にこのままではよくないと考えた私とループスと精霊達は、レナに身を守る為の手段として、様々な『戦い方』や『知識』、『技術』、そして『心構え』を教えることにしたのです。最初の頃のレナはとても嫌そうな感じでしたが、成長していくにつれて『必要なことなんだ』と理解してくれるようになって、それについても私達は嬉しかったんです」
と、最後「ふふ」と笑いながらそう言ったので、それを聞いた春風とアマテラスは「おお!」と感心した。
その後、
「そして、それから数年が経ち、レナは15歳になりました」
と、そう話を続けたヘリアテスの言葉を聞いて、
「ん? 15歳? それって確か……」
と、春風が小さくそう呟くと、それが聞こえたのかヘリアテスはコクリと頷いて、
「そうです。今のこの世界の『一般常識』では、15歳を迎えると『成人』として認められて、その証として敵の親玉達から『職能』を授かる……とのことでしたから、私達も『ならば、こちらもそれを利用させてもらいますか』という結論に至り、レナに『成人』になった証として『職能』とやらを与えることにしたのです」
と、春風に向かってそう言った。
その言葉を聞いて、
「え、そんなこと出来るの?」
と、アマテラスが「大丈夫なの?」と言わんばかりに首を傾げながらそう尋ねてきたので、
「はい。幸い、私もループスも、『神』としての力は残ってましたし、その時は精霊達も手伝ってくれました」
と、ヘリアテスはアマテラスに向かって真面目な表情でそう答えると、最後に、
「あとは……丁度役に立ちそうなものがありましたから」
と、そう付け加えた。
その答えを聞いて、
「ん? 何? その『役に立ちそうなもの』って」
と、アマテラスが首を傾げながらそう尋ねると、
「はい。丁度、魔物にやられて気を失ってた『職能保持者』と呼ばれている人間がいましたので、『そんじゃあこれを利用させてもらいますか』と思って、その人間を利用することにしました」
と、ヘリアテスは笑顔でそう答えたので、
(え? それって、大丈夫なのか?)
と、春風はそう疑問に思ったが、そんな春風を無視して、
「まぁそんな感じで、私とループス、そして精霊達が力を合わせた結果、見事、レナを『職能保持者』にすることに成功し、その時目覚めた職能が……」
と、ヘリアテスはそう話すと、チラッとレナを見た。
そして、その視線を受けたレナは、
「ステータス、オープン」
と言って自身の「ステータスウィンドウ」を出現させると、それを春風とアマテラスに見せるように向きを変えて、
「固有職能、『妖獣士』……という訳なんです」
と、自身の「職能」を見せながら言った。
その言葉を聞いて、
「なるほどねぇ。それにしても、『妖獣士』とは随分と変わった名前ね」
と、アマテラスが「ふむふむ」と考える仕草をしながらそう言うと、
「それにつきましては、私の『種族』が妖精と獣人の『混血』ですから、恐らくそれが『職能』の覚醒に影響してるんだろうと思うんです」
と、レナは少し自信なさそうにそう答えたので、
「へぇ、そうなんだ」
と、アマテラスがそう納得すると、
「ところで、ヘリアちゃん」
と、ヘリアテスに向かってそう声をかけたので、
「はい、何でしょうか?」
と、ヘリアテスがそう返事すると、
「ヘリアちゃん達が利用した職能保持者さんは、その後どうしたの?」
と、アマテラスが今度は真剣な表情でそう尋ねてきた。
その質問に対して、ヘリアテスは「ああ」と声をもらすと、
「途中で目を覚さないように最低限の手当だけをした後、身包みを剥がしてそこら辺にポイッとしました」
と、笑顔でそう答えたので、
「いや、何してんですかあなたは!?」
と、春風は問い詰るようにツッコミを入れたが、
「え、何って、大事な娘が『成人』になる為に必要なことなのですが、何か?」
と、ヘリアテスに笑顔でそう尋ね返されてしまい、春風はそれ以上何も言えなくなった。そしてその際、ヘリアテスの笑顔が、何やら『邪悪なオーラ』を思わせるかのような漆黒のオーラ的なものを纏っているのが見えたので、
(……あれ? 何だろう? ヘリアテス様が何やら『邪悪なもの』に見える気がする)
と、春風はタラリと汗を流しながら、心の中でそう呟いた。




