第4話 告げられたのは、「最悪の事態」
(ああ、めっちゃ恥ずかしかった)
オーディンによる突然の暴露から少し時間が経った後、春風は漸く落ち着きを取り戻した。
ただ、よっぽど恥ずかしかったのか、顔はまだ少し赤かったが。
そして、肝心のオーディンはというと、
「まったくもう! 何してくれるのアンタは!」
「いやぁ、すまんすまん」
勝手に春風のプロフィールを暴露したことで、アマテラスに叱られていた。
さて、気持ちが落ち着いてきた春風は、ゆっくりと深呼吸すると、
「あの、アマテラス様……でよろしいでしょうか?」
と、アマテラスに向かってそう声をかけたので、
「ん? ええ、いいわよ。何かしら春風君?」
と、アマテラスは尋ねるようにそう返事した。
その返事を聞くと、
「ちょっとこんなことを聞くのは失礼なのでしょうけど……教室で俺を変な「光」から引き上げてくれたのは、アマテラス様ですか?」
と、春風は真面目な表情でそう尋ねた。
その質問を聞いて、
「ええ、そうよ。正確に言えば、私とゼウスとオーディンの3柱で、と言った方が正しいわ。そして引き上げた後、あなたをこの『狭間の場』に運んだの」
と、アマテラスも真面目な表情でそう答え、それに続くように、ゼウスとオーディンも「うんうん」と頷いた。
アマテラスの答えを聞いて、
「狭間の……場?」
と、春風が首を傾げながら再びそう尋ねると、
「うーん物語風に言えば、春風君が暮らしてる『人間の世界』と、私達が暮らしてる『神々の世界』の間にある空間って感じかな」
と、アマテラスは少し軽い感じのノリでそう答えたので、春風はその答えに「そ、そうなんですか」と返事すると、
「大変遅くなってしまいましたが、あの時は助けてくださってありがとうございました」
と、アマテラス達に向かって深々と頭を下げながらお礼を言った。それを聞いて、ゼウスとオーディンは「いやー、それほどでも……」と顔を赤くしたが、アマテラスはというと、
「……」
と、何処か申し訳なさそうな表情になっていたので、それを見た春風が「ん?」と首を傾げていると、
「ごめんなさい、春風君」
と、アマテラスは春風に向かって深々と頭を下げながら謝罪してきたので、春風は「え?」とポカンとなったが、
「……え!? 待って! 何でアマテラス様が謝ってるのですか!?」
と、すぐにハッとなって、アマテラスに謝罪の理由を尋ねた。
その質問に対して、アマテラスは頭を下げた状態のまま答える。
「春風君の先生とクラスメイト達、そして春風君の大切な人達を、助けることが出来なかった」
その答えを聞いて、春風は思わず「あ……」と小さく声をもらし、表情を歪めた。
アマテラスの言葉に、春風は思うところがあった。
確かに、アマテラス達がもう少し早く来てくれれば、春風だけじゃなく消えていった人達も助かったのではないかと思ってはいたが、だからといってここでアマテラスを責めるのは違うのではないかと考えて、春風は再び深呼吸して気持ちを落ち着かせると、
「……ユメちゃんや美羽さん、水音。それと先生や、クラスのみんなは、どうなってしまったのですか?」
と、アマテラスだけでなくゼウスとオーディンに向かって、真剣な表情でそう尋ねた。
その質問を聞いて、3柱の神々は「うぅ……」とお互い気まずそうに顔を見合わせたが、やがて全員が意を決したかのような表情になると、お互いコクリと頷き合って、
「安心しろ春風。お前の大事な人達は、全員生きてる」
と、ゼウスが春風に向かってそう答えた。
その答えを聞いて、春風は「え?」と声をもらした後、
「ほ、本当ですか!?」
と、パァッと表情を明るくしながらゼウスに向かってそう尋ねた。
その質問に対して、ゼウスはコクリと頷いた後、
「春風君。君は、異世界召喚系の漫画は読んでるよね?」
と、今度はオーディンが春風に向かってそう尋ねてきたので、春風は「え?」と何を言ってるのか理解出来なかったが、
「はい。今も読んでますし集めてますが、それがどうしたのですか?」
と、すぐに真面目な表情で尋ね返すようにそう答えると、
「単刀直入に言うと……『異世界召喚』は現実に存在していて、今も何処かの世界で普通に行われているの」
と、最後にアマテラスが春風に向かってそう言ったので、その言葉を聞いて、
「……はい?」
と、春風が首を傾げていると、アマテラスに続くように、
「そうだ。そして、お前が今も読んでるその漫画はな、作者が実際に体験したことが描かれてるんだ。といっても、読者向けに多少脚色はしてるがな」
と、ゼウスもそう言ったので、
「は、はいいい!?」
春風は「ますます訳わからん!」と言わんばかりに混乱しだしたが、そんな状態の春風を無視して、
「で、現在、君の大切な人達は、その『異世界召喚』によって『エルード』という別の次元に存在している世界、文字通り『異世界』にいる」
と、最後にオーディンがそう言ったので、それを聞いた春風はすぐにハッと正気に戻ると、
「……じゃあ、みんなは無事なんですね?」
と、拳をギュッと握り締めながらそう尋ねた。
その質問を聞いて、
「ええ、勿論よ」
「おうよ、バッチリ確認したぜ」
「だから、安心してほしい」
と、3柱の神々はコクリと頷きながらそう答えたので、その答えを聞いた春風は、
「……そっか、みんな無事だったんだ」
と、消えてしまった人達の無事を知った安心からか、その喜びで表情を歪ませながら、今にも泣き出しそうなくらい震えた声でそう言った。
ところが、
「だがな春風。喜んでるところ申し訳ねぇが、ここからは悪いニュースになるぜ」
と、ゼウスが真剣な表情でそう口を開いたので、
「え? それ、どういう意味ですか?」
と、春風がそう尋ねると、
「春風君、あなたは教室で『異世界召喚』の光に飲まれそうになった時、何か感じなかった?」
と、アマテラスにそう尋ね返されたので、その質問を聞いた春風は「え?」と声をもらすと、「うーん……」と呻きながらその時のことを思い出し始めた。
そして少しすると、
「……とっても、悍ましくて嫌なものを感じました」
と、春風は本気で嫌そうな表情でそう答えて、
「『異世界召喚』とは、あんな嫌なものなのですか?」
と、アマテラス達に向かってそう尋ねた。
すると、今度はオーディンが口を開く。
「安心してくれ。本当の『異世界召喚』というのは、君が感じたようなものじゃないよ」
そう答えたオーディンに対して、
「『本当の』って……え、何ですかそれ? じゃあ、あの『異世界召喚』は……」
と、春風がまたそう尋ねると、
「そうだ。あれは、俺達『神』が認めてない、謂わば不完全なものだぜ」
と、ゼウスがそう答え、それに続くように、
「そう。そして、その不完全な『異世界召喚』の所為で……地球が、消滅の危機に陥ってしまったの」
と、アマテラスも真っ直ぐ春風を見てそう答えた。
その答えから数秒後、
「はぁあああああああ!?」
と、春風は驚きに満ちた叫びをあげた。