第44話 「真実」を聞き終えて
500年前、突如エルードに現れた巨大な「船」。
そこから現れた異形の生物や軍隊がいきなり攻撃を仕掛けてきて、「エルードの住人」こと「妖精」と「獣人」だけでなく、「神」であるヘリアテスとループスまでもがそれに抵抗したが、敵の親玉達によって「神」としての力を奪われ、長い間封印されるという結果に終わった。
そして、封印から目覚めた時、世界はすっかり変わり果てていて、500年前に現れたその「船」は現在、「勇者召喚」こと「ルールを無視した異世界召喚」を行った「ルーセンティア王国」の王都となっている。
「なるほど。それが、500年前に起きた出来事の真実なのね?」
と、ヘリアテスの話を聞き終えたアマテラスがそう尋ねると、ヘリアテスは悲しそうな表情で、
「はい」
と、コクリと頷きながら返事した。
その返事を聞いて、
「お母さん……」
と、ヘリアテスの隣に座るレナが、ソッと彼女の肩に手を置くと、
「ウィルフレッド陛下が……」
と、隣に座る春風がそう口を開いたので、アマテラス、ヘリアテス、レナが「ん?」と春風に視線を向けると、
「ウィルフレッド陛下が500年前の出来事を話していた時、確かに『神眼』が『嘘だ』と反応しました。それはつまり……」
と、春風がそう言いかけて、最後にアマテラスに視線を向けたので、それにアマテラスがコクリと頷きながら、
「ええ、きっと知っているでしょうね、500年前の真実を。その巨大な『船』が今の王都になってるってことは、もしかすると、王族……いや、もっと言えば、この世界に暮らしている『人間』という種族全てが、この世界に現れた別次元の存在……ヘリアちゃんが言う『侵略者』の末裔で、ルーセンティア王国こそが敵の親玉に最も近い場所ってことになるわね」
と、真剣な表情でそう言った。
その言葉を聞いて、ヘリアテスは悔しそうな表情を、レナはギリッと歯軋りをしながら、怒りに満ちた表情になった。
そして、春風はというと、
「どうしよう、アマテラス様……」
と、顔を下に向けながらそう口を開いたので、それにアマテラスが「ん?」と反応すると、
「今、ヘリアテス様が仰ったことが事実なら……いえ、事実なんですけど……そんなとんでもない連中に近い場所に、俺は……ユメちゃんや美羽さん、水音、先生にクラスのみんなを……置いてきてしまった」
と、春風は震えた声でそう言いながら、左右の拳をグッと握り締めた。
いや、よく見ると、その拳だけでなく全身までも震えていたので、それを見たレナは「あ……」と小さく声をもらした。
すると、
「それでも、春風君は正しい選択をしたと思うわ」
と、アマテラスがそう声をかけてきたので、それに春風が思わず顔を上げてアマテラスを見ると、
「『悔しい』と思う気持ちはわかる。『許せない』と思う気持ちもわかる。でも、『神』が勝てなかった相手に、一体何が出来るというの? そして、自分がまだ『弱い』とわかっているから、みんなから離れることを決めたんじゃないの?」
「っ!」
アマテラスに真剣な表情でそう言われてしまい、春風は悔しそうな表情を浮かべた。
そう、春風もわかっているのだ。
確かに、オーディンと契約して『力』に目覚めたとはいえ、自分はまだ弱い。
おまけに降り立った場所は、「敵の本拠地」とも言える場所。
そこに加えて、自身が目覚めたのは「悪魔の力」と呼ばれているという「固有職能」で、それについて……いや、もっと言えば、この「エルード」という世界そのものについて何も知らない状態だ。
更に言うと、現在「ルールを無視した異世界召喚による世界消滅の危機」を知ってるのは、目の前にいるレナ(といっても全てを知ってるわけではない)以外は自身だけで、周囲を納得させる証拠だって持ってない。
そんな中で、爽子やクラスメイト達、そして、自身の大切な人達を守れるのかと問われたら、間違いなく……というか、絶対に無理である。
故に、それがわかったから、春風は爽子達から離れ、ルーセンティア王国を出て行くことを決めたのだ。
(わかっている。わかってるんだ、そんなことは……)
そう、確かにそう決めたのだが、それでも、何も感じないわけじゃない。
もしも許されるなら、王都を飛び出そうとする時に、大切な人達も一緒に連れ出したかった。
しかし、それをするには、春風はあまりにも弱すぎる。
幾ら騎士を相手に戦えたとはいえ、あれはただの「幸運」が幾つか重なっただけに過ぎない。もしも相手が全力を出してきたら、「地球を救う」前に自分の命が危うかっただろう。そんなことになったら、それこそ本末転倒なのだ。
と、頭ではわかっているのだが、心の中では「それでも……」という想いもあったので、それが、春風を更に悔しい気持ちにさせていた。
そんな状態の春風を見て、
「は……春風……」
と、レナが声をかけようとしたが、
「レナ」
と、ヘリアテスに止められてしまい、レナは「うぅ……」と泣きそうな表情になった。
すると、
「ちょっとこの空気はよくないわね」
と、アマテラスがそう口を開くと、
「ねぇ、ヘリアちゃん」
と、ヘリアテスに声をかけたので、
「はい、何ですか?」
と、ヘリアテスがそう返事すると、
「ヘリアちゃん達の事情はよくわかったわ。ただ、1つわからないことがあるんだよねぇ」
と、アマテラスが「うーん?」と唸りながらそう言ったので、その言葉にヘリアテスだけでなく春風とレナまでもが「え?」と首を傾げると、
「その子のことよ。なんか『お母さん』って呼ばれてるじゃない」
と、アマテラスはレナを指差しながらそう言った。
その言葉を聞いて、春風が「あ、そういえば!」と言わんばかりに目を大きく見開きながらレナに視線を向けたので、その視線を受けたレナは「はう!」と顔を赤くした。
それと同時に、
「あー、そういえばそうでした! 私ってば、まだレナのことを話してませんでした!」
と、ヘリアテスもハッとなると、最後に、
「す、すみません」
と、謝罪した。
その後、ヘリアテスは気持ちを切り替えようとして「コホン」と咳き込むと、
「この子との出会いは、今から17年前になるのですが……」
と、春風とアマテラスに向かって、「レナとの出会い」について話し始めた。




