第43話 500年前の真相・2
今回はいつもより長めの話になります。
「敵の親玉……そう、今この世界の、『神』を名乗ってる存在です」
と、震えた声でそう言ったヘリアテス。
彼女の口から発せられたその名前を聞いた春風は、
「それって、ウィルフレッド陛下の話に出てきた、『炎の神カリドゥス』と『水の女神アムニス』、『風の神ニンブス』に『土の女神ワリス』、そしてリーダー的存在の『光の神ラディウス』……ですよね?」
と、恐る恐るといった感じでヘリアテスに向かってそう尋ねると、ヘリアテスは無言でコクリと頷いた。
その後、
「アマテラス様」
と、春風は今度はアマテラスに声をかけると、
「残念だけど、そんな名前の『神』は知らないわ。少なくともここ数百年の間に、新たな『神』の誕生なんて話も聞いてないし」
と、アマテラスは首を横に振りながらそう言い、
「まぁ、私達の方でも一応調べるけど」
と、最後にそう付け加えた。
その言葉を聞いて、
「えっと、それじゃあその親玉達(?)は、『神様の名を騙る偽物』ってことでしょうか?」
と、春風がアマテラスとヘリアテスを交互に見ながらそう尋ねると、
「……それが、そうとも言えないかもしれないのです」
と、ヘリアテスが暗い表情でそう答えたので、
「それ、どういうこと?」
と、今度はアマテラスが「おや?」と首を傾げながら、ヘリアテスに向かってそう尋ねた。
その質問に対して、ヘリアテスは暗い表情のまま答える。
「500年前、私とループスは敵の『船』の中でその親玉達と出会い、戦いました。相手の数は5人……いえ、不本意ですが、一応5柱と数えます。それで、数は5柱なのですが、どういう訳かそいつらから複数の『神』の存在が感じられたのです」
そう答えたヘリアテスに、
「……何ですって? ちょっと詳しく教えてくれないかしら?」
と、アマテラスが目を大きく見開きながら尋ねてきたので、
「はい。戦ってみてわかったのですが、どうも親玉達1柱の中に、数十……いえ、もしかしたら100を超える『神』の意識が存在しているんです」
と、ヘリアテスは真っ直ぐアマテラスを見ながらそう答えた。
その答えを聞いて、
「まさか、そんな……」
と、アマテラスは「どういうこと?」と言わんばかりの難しい表情で考え出したので、
「あ、アマテラス……様?」
と、春風が恐る恐る声をかけると、
「……ヘリアちゃん」
「はい」
「確か『そいつらと戦った』って言ったわね? その時のこと、もっと詳しく教えてくれる?」
と、アマテラスが低い声でそう言ってきたので、それにヘリアテスが「わかりました」と頷くと、
「ただ、詳しくと言いましても、その時の私達は、そいつらに会った瞬間、『こいつらは危険だ』と理解して、持てる力と技、全てを駆使して戦ったのですが、まるで数百の『神々』を相手にしているかのような錯覚に囚われてしまい、『神』の力を以てしても全く歯が立たず、結局私もループスも、なす術もなく敗北してしまったのです。それだけでも悔しいのですが、奴らはあろうことか、私達の持つ『神』の力も奪ってしまったのです」
と、最後に声を震わせながらそう説明し、それを聞いて、
「な、何ですって!?」
と、アマテラスは声を荒げながらガタンッと椅子から立ち上がった。
そんなアマテラスを見て、春風だけでなくレナまでもがギョッとなる中、
「お、お、落ち着いてください! 『奪われた』と言いましても全てという訳じゃありません。そこは私もループスも必死で抵抗しまして、何とか10分の1程死守しましたから……」
と、ヘリアテスが大慌てでそう言ったので、それを聞いてアマテラスは「そう」と納得しつつ複雑そうな表情になった。
その様子を見て、春風とレナも複雑そうな表情をしつつ、ホッと胸を撫で下ろしていると、
「ヘリアちゃん。力を奪われた時、奴らから何か感じなかった?」
と、アマテラスがそう尋ねてきたので、それにヘリアテスが「それは……」と言いにくそうな表情になったが、やがて意を決したかのような表情で、
「力を奪われていた時にわかったのですが、奴らの中には、確かに複数の『神』の力だけでなく、その『神』の意識もあったのです」
と、アマテラスを見つめながら答えると、
「全員……私とループスと同じような、幼い神でした」
と、そう付け加えたので、それにアマテラスがピクッと反応すると、
「……わかる範囲でいいから教えて。その幼い神々、どんな様子だった?」
と、低い声でそう尋ねてきたので、
「……全員、泣いてました」
と、ヘリアテスはそう答えた。
次の瞬間、食堂内がまるでサウナのように熱くなったのを感じて、春風もレナも、ダラダラと汗を流し始めた。
そして、
(あ、熱い……アマテラス様……)
と、春風は熱さで苦しそうになりながら、チラッとアマテラスを見ると、
(う!)
そのあまりの表情に、思わず彼女から視線を外した。
そんな春風を他所に、
「女神ヘリアテス」
「はい」
「奴らは『神』なんかじゃない。だから、数える時は『柱』じゃなくて『人』でいいからね」
「わかりました」
と、アマテラスとヘリアテスはそうやり取りしていた。
口調は静かなのだが、その言葉からは「強い怒り」が込められていたので、
(ああ、アマテラス様がすっごい怒ってる)
と、春風はそう考えた。
いや、アマテラスだけではない。
(そして感じる。アマテラス様だけでなく、オーディン様も、もの凄く怒ってる)
と、そう感じた春風は、苦しそうにグッと自分の胸を掴んだ。
そう、オーディンと契約し、彼の分身となった春風は今、こことは違う場所でこの会話を聞いてるオーディンの「強い怒り」を感じていたのだ。
それと同時に、
(いや、オーディン様だけじゃない。きっとゼウス様や他の地球の神々も、きっとこの会話を見てるだろうなぁ)
と、春風はそう考えて、更に苦しそうにグッと自分の胸を掴んだ。
そんな春風に向かって、
「ごめんね、春風君」
と、アマテラスはソッと春風の肩に手を置きながら、優しい口調でそう言うと、
「あ……」
と、春風は苦しくなくなったかのように胸から手を離し、
「アマテラス様……」
と、アマテラスの顔を見ると、とても穏やかに笑っていたので、
「す、すみません、大丈夫です」
と、顔を赤くしながら、アマテラスに向かってそう謝罪した。
その後、
「それで、力を奪われた後、あなた達はどうなってしまったの?」
と、アマテラスがそう尋ねてきたので、
「はい、私とループスは何とか抵抗して力を少し残すことが出来たのですが、それが連中の怒りを買ったみたいで、その後すぐに私とループスはこの世界の別々の場所に、地中深く封印されてしまったのです。そして、長い年月が過ぎて、漸く奴らの封印から解放された私達が見たのは、変わり果ててしまったこの世界の姿でした」
と、ヘリアテスはそう答えると、最後に「悲しみ」と「怒り」、そして「悔しさ」が入り混じったかのような表情になったので、それを見た春風も悲しそうな表情になった。
ヘリアテスは話を続ける。
「世界のあちこちには見たこともない生き物で溢れていて、私とループスの加護を受けた『妖精』達と『獣人』達の姿はなく、代わりに『人間』という種族が我が物顔で暮らしていました。そして、私達から力を奪った親玉達がその世界の『神』を名乗り、私とループスは『邪神』、妖精達と獣人達は『悪しき種族』ということにされていました。そして、500年前にこの世界に現れた巨大な『船』ですが、その『船』は今、とある都市へと姿形を変えていたのです」
と、そう話したヘリアテスの説明を聞いて、
(ま、まさか……)
と、春風は嫌な予感がしたのか、
「あの、ヘリアテス様。まさかと思いますが、その『とある都市』ってもしかして……?」
と、ヘリアテスに向かって恐る恐る尋ねると、ヘリアテスはコクリと頷いて、
「そう、ルーセンティア王国王都。それが親玉達の船の、現在の姿です」
と、春風に向かってそう答えた。




