第42話 500年前の真相
「……全てを、お話しします。500年前、この世界で起きた出来事を」
と、ヘリアテスがそう話した途端、食堂内が一気に緊張に包まれた。
(い、一体どんな話が出てくるんだ?)
と、春風がゴクリと唾を飲みながら、心の中でそう呟いていると、
「その話をする為に……春風さん、でいいでしょうか?」
と、ヘリアテスが話しかけてきたので、春風は思わず、
「ふあ!? は、はい!」
と、ビクッとしながらそう返事してしまい、その後ハッと我に返ると、
「す、すみません」
と、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら謝罪した。
それを見て、ヘリアテスが「気にしないでください」と優しく言うと、
「春風さん。全てをお話しする為に、まずはこの『エルード』という世界の成り立ちについて説明します」
と、真面目な表情でそう言ってきたので、春風もキリッと真面目な表情になって、
「わかりました、お願いします」
と、深々と頭を下げながら言うと、ヘリアテスは「では……」と話を始めた。
「まず、この『エルード』という世界は元々、私、『太陽と花の女神ヘリアテス』と、もう1柱、『月光と牙の神ループス』が、ゼロから作り上げた世界なのです」
「え、それはつまり、あなたともう1柱の神様が『創造神』というこですか?」
と、話を聞いた春風がそう尋ねると、ヘリアテスはコクリと頷きながら、
「その通りです。と言いましても、最初から上手く出来た訳ではありません。何せ私もループスも、その頃は『神』としてはまだまだ未熟でしたから、何度も創造をしては、ふとしたキッカケで崩壊させてしまうという失敗を繰り返してきました」
と、当時のことを思い出したのか、最後は遠い目をしながら「ふふふ」と何処か悲しそうに笑った。そしてそんなヘリアテスに続くように、
「ええ。そしてそういったことが起きる度に、ヘリアちゃんもルーちゃんも、何度も私達『地球の神々』や他の世界の『神々』に助言を求めてきたわぁ」
と、アマテラスも当時ことを思い出して「いやぁ、懐かしいわ」と言わんばかりに遠い目をして「ははは」と笑った。
その後、ヘリアテスが「あ、失礼しました」と謝罪すると、
「ですから、そんな失敗を繰り返してきたからこそ、世界に『生命』が生まれた時は、ループスと一緒になって泣いて喜びあいました」
と、「ふふ」と小さく笑いながらそう言ったので、
「そうだったのですか。それで、その『生命』とは……?」
と、春風が再びそう尋ねると、
「植物や動物、鳥、魚、昆虫などといった、多少特徴は違えどあらゆる世界共通の生命体の他に、私の加護を受けた『妖精』と、ループスの加護を受けた『獣人』という2つの種族です。彼らは時に争い合い、時には手を取り合うといったことを繰り返しながら、それぞれ独自の文化を築き上げていったのです」
と、ヘリアテスがそう説明するように答えたので、それに春風が「おぉ」と感心していると、
「あれ? ちょっと待ってくださいヘリアテス様。この世界に生まれた種族って、『妖精』と『獣人』だけなのですか?」
と、更にそう尋ねた。
すると、ヘリアテスが「それは……」と悲しそうな表情になったので、
「なるほど。つまり、ここからが重要な話のようね?」
と、今度はアマテラスがそう尋ねてきた。
その質問に対して、ヘリアテスが「その通りです」と頷きながら答えると、
「今から500年前。それは、なんの前触れもなく起こったのです」
と、暗い表情でそう言ったので、春風は再びゴクリと唾を飲み、
「一体、何が起きたの?」
と、アマテラスは真剣な表情でそう尋ねた。
その質問に対して、ヘリアテスは暗い表情のまま答える。
「妖精達と獣人達がそれぞれ平和に暮らしていたある日、突然エルードの空が大きく歪みだし、その歪みの向こうから、巨大な『船』が現れたのです」
「船?」
「はい。ただ『船』と言いましても海に浮かんでいるような『帆船』とかではなく、なんと言えばいいのでしょうか……かなり異質というか、『この世界に似合わない!』と思うくらいの、そんな見たこともない感じの『船』が、空に浮いていたのです」
と、何とも歯切れの悪そうな感じでそう説明したヘリアテスに、春風もアマテラスも「何じゃそりゃ?」と言わんばかりの微妙な表情を浮かべた。
そんな1人と1柱を見て、
「す、すみません、上手く説明出来なくて。ただ、あれが『別次元からきた存在』だというのは、私もループスもすぐにわかりました」
と、ヘリアテスが顔を真っ赤にして謝罪しながらそう言うと、
「と、とにかく、その見たこともない巨大な『船』が空に現れて、いきなり攻撃してきたのです!」
と、強引に話題を変えるかのように話を続けた。最後の部分がやけに強めの口調になっていたが、春風とアマテラスはそれをスルーすることにした。
その後、
「『いきなり攻撃してきた』って、その巨大な『船』は何をしてきたの?」
と、アマテラスがそう尋ねると、
「はい、その巨大な『船』から、見たこともない異形の生き物が無数に出てきて、妖精達と獣人達に襲いかかったのです。妖精達と獣人達は多くの犠牲を出しながら、力を合わせてその異形の生き物達を相手に戦ったのですが、今度は『船』から見たこともない装備に身を包んだ軍隊のようなもの達が現れて、更に攻撃を仕掛けてきたのです。いえ、装備だけでなく、その軍隊のようなもの達は見たこともない『力』を操って、妖精達と獣人達をどんどん追い詰めていったのです」
と、ヘリアテスはそこまで説明すると、「失礼します」と言って目の前にある自分用に淹れたお茶を啜った。
そして、「ふぅ」とひと息入れた後、ヘリアテスは話を続ける。
「勿論、これには私もループスも、『神』として見過ごすことは出来ませんでした。本来は許されないことなのですが、私達の『大切なもの』が理不尽に壊されていくのを、黙って見ていたくなかったのです」
「だから、自分達だけで解決しようとしたのね?」
そう尋ねたアマテラスに、ヘリアテスは無言でコクリと頷いた後、
「はい。私とループスは、妖精達と獣人達を手助けしつつ、敵の元を断とうと『船』に乗り込みました。そこは、明らかに複数の世界の技術を混ぜたかのような異質な場所で、それを見た時、『これは、この世に存在してはいけないものだ!』と感じたのです。私達はすぐにその『船』を破壊しようとしました。しかしその時、『奴ら』が現れたのです」
と、そう説明した後、
「『奴ら』って、もしかして……?」
と、アマテラスがそう尋ねると、
「敵の親玉……そう、今この世界の、『神』を名乗ってる存在です」
と、ヘリアテスは震えた声でそう答えた。




