第3話 「神々」との出会い
突如、春風の目の前に現れた、白いワイシャツと青いジーンズ、そして裸足姿の3人の男女。
1人は腰まで届く長い黒髪とキリッとした顔立ちが印象的な、ちょっと気の強そうな感じの20代前半くらいの女性で、白いワイシャツ越しでもわかるくらいの抜群のスタイルをしていた。オマケにワイシャツの下2つ分ほどのボタンを外していて、そこからチラリとおへそが見えていたので、
(この人、お腹冷えないかな?)
と、春風がそう疑問に思ったのは、ここだけの話。
もう1人は短く刈り揃えられた白髪と褐色の肌を持った、「ワイルドなお兄さん」を思わせる印象をした黒髪の女性と同じ20代前半くらいの男性で、こちらは白いワイシャツのボタンを全て外していて、そこから見事な筋肉のついた胸や腹部がこれでもかというくらい露出していた。
そして、最後の1人も20代前半くらいの男性で、こちらはワイシャツのボタンを一番上を除いて全てつけていて、スマートな感じに整えられた灰色の髪を持つ落ち着きのある顔付きをした、先程紹介した「ワイルドなお兄さん」を思わせる男性とは対照的に「クールなお兄さん」を思わせるような印象をしているが、右目に黒い眼帯をつけてる為、それが何処か近寄り難い雰囲気を出していた。
そんな3人を目の前に、春風は表面上は警戒しながらも、
(い、いつの間に俺の前に!? ていうか、ど、どちら様ですか!?)
と、内心ではオロオロとしていると、そんな春風の心境がわかるのか、黒髪の女性は「フフ……」と笑って、
「私の名前は、天照大神。あなたが住んでいる『地球』の神々の1柱で、あなたの祖国『日本』の『太陽』を司る女神」
と、春風に向かってそう自己紹介し、
「ああ、長いって思ったら、『アマテラス』って呼んで良いからね」
と、最後に笑顔でそう付け加えた。
その言葉を聞いて、
「……は? え? 地球の……いや、日本の……か、神……様?」
と、春風が「訳がわからん!」と言わんばかりに混乱していると、
「俺はゼウス。同じく『地球』の神々の1柱にして『オリュンポス』の長だぜ!」
「同じく、僕は『地球』の神々の1柱にして『ヴァルハラ』の主、オーディンだ」
と、「ワイルドなお兄さん」の印象をした男性と「クールなお兄さん」の印象をしたもう1人の男性までもがそう自己紹介してきたので、
「……は? いや、『神々』って、ちょっと待って!? え、えぇ!?」
と、春風は更に混乱したが、
(お、落ち着け、落ち着くんだ俺!)
と、すぐに首をブンブンと横に振りながら、心の中でそう呟いた。
そして、気持ちを落ち着かせようとゆっくりと深呼吸した後、春風は改めて目の前にいる「神々」を名乗った3人の男女をジッと見つめた。
その後、春風は「うん」とコクリと頷くと、
「取り乱してしまって、すみませんでした」
と、3人の男女に向かって深々と頭を下げながら謝罪した。
そんな春風を見て、3人の男女は「お?」と意外なものを見るかのような表情になると、
「随分と冷静ね。もっと疑ってくるのかと思っちゃったわ」
と、自身を日本神話の主神「天照大神(以下、アマテラス)」と名乗った黒髪の女性がそう口を開いた。
その言葉に対して、春風は頭を下げた状態のまま、
「正直に申しますと、本当なのかかなり疑ってますが、同時に『この方達は嘘を言ってない』と、俺……いえ、自分は……」
と、アマテラス達に向かってそう言おうとすると、
「ああ、そこは『俺』で構わないから気にしないで」
と、アマテラスはそう言い、最後に「あと、もう頭を上げていいわ」と付け加えた。
その言葉に春風が「では、失礼します」と言って頭を上げると、
「正直に申しますとかなり疑ってますが、同時に『この方達は嘘を言ってない』と俺の心がそう叫んでいるのです。ちょっと恥ずかしい言い方ですけど」
と、改めてアマテラス達に向かってそう説明した。
その説明を聞いて、自身を北欧神話の最高神「オーディン」と名乗った男性が「ふむふむ……」と考える仕草をしながらそう頷くと、何処からか何かを取り出した。
よく見ると、それは黒い革製の表紙をもつ1冊の本のようで、
「あ! おい、それ……!」
と、それを見た自身をギリシャ神話の最高神である「ゼウス」と名乗った男性がギョッと驚く中、オーディンはその黒表紙の本を春風の前で開いた。
その行動に春風が「ん? 今、何処から本を?」と言わんばかりに首を傾げていると、
「雪村春風。本名、光国春風。4月24日生まれの17歳……」
と、オーディンはその開かれた本を見つめながらそう口を開いたので、
「え!? それって、俺の……!?」
と、春風は自分の名前だけでなく誕生日まで言い当てられて、驚きの声をあげた。
しかし、そんな春風に構うことなく、オーディンは更に続ける。
「家族構成、父・光国冬夜と母・光国柊色は10歳の時に『とある事故』で死亡。その後は父・冬夜の友人である雪村涼司に引き取られ、以後は『雪村春風』として現在は常陽学園高等部に通いつつ、彼と共に喫茶店『風の家』を経営している……」
「え、いや、ちょっと……」
「趣味は漫画集めで、殆どのジャンルが好き。特技は家事全般と物作り。特に涼司からは料理を仕込まれていて、得意料理は豚汁……」
「ちょっと、本当に待って……」
「そして、女性関係は……」
「わぁあああああ! 待ってぇ! 待ってください! 信じます! あなた方は『神様』なんだと信じます! だから、それ以上言わないでくださいいいいい!」
どうやら自身のプロフィールを暴露されてるのだと理解した春風は、「勘弁してください!」、「許してください!」と言わんばかりに、オーディンに向かって凄まじい勢いで土下座した。
それを見て、オーディンは穏やかな笑みを浮かべながら、
「ありがとう」
と言って持っていた本をパタリと閉じた。
そして、そんなオーディンを、
「オーディン……」
「お前、悪趣味にも程があるぞ」
と、アマテラスとゼウスはジト目で見ていた。