第373話 春風の「決意」と「目標レベル」
(親玉共め、水音になんてことしやがる!)
と、春風が心の中で、まだ見ぬ「5柱の神々」こと「敵の親玉」達に怒りをあらわにしていると、
「ふ、フーちゃん?」
と、歩夢が声をかけてきたので、その声を聞いた春風はハッと我に返ると、チラッと隣にいる歩夢を見て、
「あー。ごめんね、ユメちゃん。怖がらせちゃったかな?」
と、苦笑いしながら歩夢に向かって謝罪しながらそう尋ねると、歩夢は無言でブンブンと首を左右に振ったので、
「はは、そっか。でも……ごめん」
と、春風は歩夢に向かって再び謝罪した。
その後、春風は気持ちを切り替える為にゆっくりと深呼吸して、それからスッと表情を真面目なものに変えると、
「あの、キャロライン皇妃様」
と、目の前にいるキャロラインに向かってそう声をかけて、それにキャロラインが、
「なぁに、春風ちゃん?」
と、返事すると、
「お話はわかりました。それで、俺と決闘することになったのは水音の発案ですか?」
と、春風は真面目な表情のままそう尋ねた。
その質問を聞いて、周囲の人達が一斉にキャロラインに視線を向ける中、キャロライン本人はというと、
「あー、それはぁ……」
と、盛大に頬を引き攣らせながら気まずそうな表情になり、
「発案自体はうちの夫で、私とレオンちゃんも大賛成、みたいな感じ……かな?」
と、ダラダラと滝のような汗を流しながら、何とも歯切れの悪そうな感じでそう答えたので、
『……』
その答えを聞いた春風をはじめとした周囲の人達が、無言かつジト目でキャロラインを見つめると、
「ああ、でもでも! その後はちゃんと水音ちゃん自身も、順調にレベル上げしてるから彼の意志はまったくないってわけじゃないからね!」
と、キャロラインは慌てた様子で言い訳するかのようにそう言ったので、その言葉に春風が、
「はぁ。そうですか」
と、溜め息を吐きながら呆れ顔でそう言うと、
「だったら、俺も逃げるわけにはいかないですね」
と、ボソリとそう呟いたので、
「そ、それじゃあ春風ちゃん!」
と、キャロラインは目をウルウルさせると、
「ええ。水音との決闘、受けます」
と、春風は真っ直ぐキャロラインを見つめながらそう言った。
その言葉に周囲から「おお!」または「ええ!?」と声があがる中、
「春風、本気なの?」
と、凛咲が真剣な表情でそう尋ねてきたので、春風は凛咲の方へと全身を向けると、
「はい、師匠」
と、春風は凛咲を見つめながらそう答えた。その顔……いや、正しくは瞳から強い意志を感じたのか、
「わかったわ。春風がそう決めたなら、私から言うことはないわね」
と、凛咲は「ふぅ」とひと息入れながらそう言うと、
「それじゃあ、師匠命令よ春風。水音と思いっきりぶつかり合ってきなさい」
と、最後にそう付け加えたので、それを聞いた春風は、
「はい、わかりました」
と、凛咲に向かってそう返事した。
その後、春風はキャロラインに向き直ると、
「キャロライン様、もう1つお尋ねしたいことがあるのですが」
と、キャロラインに向かってそう声をかけたので、それを聞いたキャロラインが、
「あら、何かしら?」
と、返事すると、
「先程『レベル上げをしている』と仰ってましたが、どのくらいまで上げる予定なのですか?」
と、春風は目を細めながらそう尋ねた。
その質問に対して、キャロラインは「ふっふっふ……」と不敵に笑うと、スッと広げた状態の右手を春風に向かって翳して、
「50よ」
と、胸を張りながらそう言った。
その瞬間、
『ご、50ぅううううう!?』
と、春風を除いた周囲の人達がそう驚きの声をあげて、
「キャロライン皇妃様、それは幾らなんでも無茶ですよ!」
と、イヴリーヌがキャロラインに向かって文句を言ったので、
「え〜? そうかなぁ? これくらい普通だと思うけどぉ……」
と、キャロラインは「むぅ」と頬を膨らませながらそう返事した。
そんな2人を無視して、
「50、かぁ……」
と、春風がそう呟きながら考え込んでいると、
「春風君、今レベル幾つなの?」
と、美羽がそう尋ねてきたので、
「ん? 30だけど」
と、春風がそう答えると、
「「「「「さ、30!?」」」」」
と、美羽だけじゃなく、歩夢、暁、野守、夕下までもが驚きの声をあげて、
「あら! もうそんなに上がったの!? 凄いじゃない! 確か、ここに来た時点じゃ10を超えてるって聞いたけど!?」
と、キャロラインがパァッと表情を明るくしながらそう尋ねてきたので、
「え、えぇ。その……実は少し前にレナと一緒に、『血濡れの両目』化したデッド・マンティスを倒して、それで一気に30に……」
と、春風はキャロラインの様子を見て「あはは……」と苦笑いしながらそう答えて、
「あの時は、マジでヤバかったなぁ」
と、レナはデッド・マンティスとの戦いを思い出して、遠い目をしながらそう答えた。
そんな2人の答えを聞いて、
「あ! それ、座学で聞いたことある! 確か、魔物の凶暴化現象のことだよね!?」
と、野守が目を大きく見開きながらそう尋ねてきたので、
「う、うん……」
と、春風はそう返事したが、
「……って、え? 座学? みんな、ルーセンティア王国で座学受けてたの?」
と、野守の質問に首を傾げると、
「うん。『勇者』に必要な訓練の1つだって……」
と、歩夢がコクリと頷きながらそう言ったので、それに春風が「へ、へぇ」と声をもらすと、
「うーん、デッド・マンティス。『赤刃の死神』の異名を持った上位の魔物ね。しかも『血濡れの両目』化している……か」
と、キャロラインがぶつぶつとそう呟き出したので、そんな様子のキャロラインに向かって、
「あの、キャロライン皇妃様?」
と、春風が恐る恐るそう尋ねると、
「あ、あらあら、ごめんなさいね春風ちゃん!」
と、キャロラインはそう謝罪して、
「それにしても、よく無事だったわね? 相手は強力な毒を持ってたのに」
と、最後に春風とレナに向かってそう尋ねた。
その質問に対して、
「「あ、ああ、それは……」」
と、春風とレナは少し言い難そうな表情でそう呟くと、キャロラインや歩夢達に向かって当時のことを話し始めた。
その結果、
「……ヴァレちゃん。そいつら今すぐここに呼んで、お仕置きするから」
と、キャロラインが恐ろしく低い声でヴァレリーに向かってそう言ったので、
「待ってくれ。そいつらはもうこっちで罰を与えたから、アンタが手を出す必要はない」
と、それを聞いたヴァレリーは「待った」をかけたが、
「駄目よ。ただでさえ『魔物の擦りつけ』なんて許されない行為なのに、それを可愛い春風ちゃんにやったなんて、絶対に許さないわ。だから、私がこの手で引導を渡さないと……」
と、キャロラインは「こればかりは絶対に譲れない!」と言わんばかりの強い「怒り」と「決意」に満ちた表情でそう言ったので、流石にこれはまずいと感じたのか、
「お待ちくださいキャロライン皇妃様。お気持ちは嬉しいのですが、あの時のことに関しては、もう自分とレナに『怒り』はありませんので、どうかこの場は落ち着いてください」
と、春風はキャロラインに向かってそうお願いした。因みに、春風の隣では、レナが春風の言葉に「うんうん」と頷いていた。
そんな春風の「説得」が聞いたのか、キャロラインは「ふぅ」とひと息入れると、
「わかったわ春風ちゃん。春風ちゃんがそう言うなら、私は何もしないし言わないわ」
と、春風に向かって笑顔でそう言ったので、その言葉を聞いて、
「ありがとうございます」
と、春風は深々と頭を下げながらお礼を言った。




