第369話 「疑念」からの……
「雪村春風様、もしかするとあなたは、何か『特別な事情』があってルーセンティア王国を、歩夢様達のもとを去ったのですか?」
と、春風に向かってそう尋ねたイヴリーヌ。
そんな彼女の質問に、
「仰ってる意味がわかりませんが?」
と、春風は目を細めながらそう尋ね返した。
その雰囲気にイヴリーヌは何かを感じたのか、「う……」と少しビビったが、すぐに首を左右に振ると、
「不快にさせてしまったのなら申し訳ありません。ですが、あなたがルーセンティア王国を離れた後、あなたに関して様々な疑問が浮かび上がったのです」
と、春風に向かって「王族」らしき毅然とした態度でそう言った。
そんなイヴリーヌの言葉に、
「「「「「あ……」」」」」
と、歩夢と美羽を含めたクラスメイト5人がそう声をもらす中、
「そして、先程のそちらのお二人の発言から、あなたが歩夢様達のもとから離れたのは、他の人には言えない、大きな理由があったのではないかと確信したのです」
と、イヴリーヌがチラッと凛咲とミネルヴァを見ながらそう話を続けたので、
「あら、それはまた随分と興味深いですね」
「ふむ、そのようですね」
と、フロントラル市長のオードリーと、ハンターギルド総本部長のフレデリックも興味津々の表情を浮かべ、更に周囲の人達も「ん?」と、首を傾げ出したので、
「ああ、それは……」
と、イヴリーヌの質問に凛咲がそう口を開こうとした、まさにその時、
「師匠」
と、春風が何やら低い声でそう口を開いた。
その瞬間、凛咲だけでなくレナや歩夢など、食堂内にいる全ての人達の視線が春風に向けられて、
「ど、どうしたのハニー?」
と、凛咲が恐る恐る春風に向かってそう尋ねると、
「……」
春風はそれに何も答えず、ただ黙って凛咲をジッと見つめた。
ーー余計なことは言うな。
と、無表情の春風からそう言われた気がした凛咲は「うぐ……」と小さく呻くと、すぐに「ふぅ」とひと息入れて、
「……そうね、私が言うべきことじゃないわ。ごめんなさい」
と、春風に向かってそう謝罪した。
その謝罪を受けて、
「ありがとうございます」
と、春風は凛咲に向かってペコリと頭を下げながらそう言うと、
「ユメちゃん。美羽さん。レナ。ちょっと離れてくれませんか?」
と、歩夢、美羽、そしてレナに向かってそうお願いした。
そのお願いを受けた歩夢達は「え?」と皆、そう声をもらしたが、春風の様子から何かを感じたのか、
「「「う、うん」」」
と、3人とも素直に春風に従って彼から離れた。
その後、春風は歩夢達に向かって、
「ありがとう」
と、穏やかな笑みを浮かべながらお礼を言うと、無言で全身をイヴリーヌの方へと向けて、彼女を前に跪いた。
突然の春風の行動に、
「あ、あの……」
と、イヴリーヌが戸惑いの表情を浮かべていると、春風は跪いた状態のまま頭を下げて、
「イヴリーヌ様、勝手なことを言ってるのは重々承知なのですが、先程のあなたの質問に対して、自分は何も答えることは出来ません。申し訳ありません」
と、イヴリーヌに向かってそう謝罪した。
その謝罪を受けて、イヴリーヌが「うぅ……」と呻くと、
「あらあら、春風ちゃん。その様子だと、やっぱり何か『理由』があったのねぇ」
と、イヴリーヌの隣に立っていたキャロラインが、少しふざけた感じでそう口を開いたのだが、
「……」
春風は跪いた状態からなんの返事もしなかったので、
「……ふぅ。どうやら、春風ちゃんは本気のようねぇ」
と、キャロラインは「やれやれ」と言わんばかりの呆れ顔でそう言うと、レナの方へと視線を向けて、
「レナ・ヒューズ」
と、レナを何故か「ちゃん付け」ではなくフルネームでそう呼んだので、それにレナが思わず、
「ふえ!?」
と、ビクッとしながらそう返事すると、
「あなたは、何か知ってることはないかしら?」
と、キャロラインは真面目な表情でそう尋ねてきた。
それは、先ほどまでのふざけた態度とは違って、かなりの威厳に満ちていたので、そんなキャロラインの質問に誰もが「うぐ……」とビビっていると、
「……申し訳ありませんが、私からも言えることは何もありません」
と、レナはゆっくりと首を左右に振りながらそう答えたので、
「……そう。それは残念ね」
と、キャロラインはそう言うと、最後に「はぁ」と溜め息を吐いた。
その溜め息を聞いて、レナがホッと安心していると、
「だったら、春風ちゃんとレナちゃんには、私達と一緒にストロザイア帝国に来てもらいましょうか!」
と、キャロラインがまたふざけた感じの態度でそう言ってきたので、
「「……は?」」
と、春風とレナは思わずそう声をもらし、
「か、母様、何を言ってるのですか?」
と、それまで黙って話を聞いていたアデレードが、キャロラインに向かってそう尋ねると、
「ん? だ、か、ら、ここでは事情を話せないなら、ストロザイア帝国でなら話せるんじゃないかなって思って……」
と、キャロラインは首を傾げながらアデレードに向かってそう答えた。
その答えを聞いて、アデレードは勿論、春風とレナ、そして食堂内にいる者達全員が目をパチクリとさせる中、
「……ん? 待ってください母様、『私達』とは?」
と、アデレードが再びキャロラインに向かってそう尋ねると、
「勿論、アーデちゃんも一緒にストロザイア帝国に来てもらうわ。アーデちゃんだって、久しぶりにお父さんやレオンちゃん、エレンちゃんに会いたいでしょ?」
と、キャロラインは笑顔で答えながら、最後にそう尋ね返してきたので、その質問にアデレードは「え?」と戸惑いの表情を浮かべたが、
「……っ!」
と、何かに気付いたかのようにハッとなってキャロラインを見ると、
「うふふ」
と、キャロラインはそう笑うだけで何も答えなかったが、その表情から何かを感じたのか、アデレードも「ふふ」と笑うと、
「そうですね。私も丁度里帰りしたいなと思ってまし、父様や兄様、エレンにも春風のことキチンと紹介したいですから」
と、何処かイヤらしい笑みを浮かべながら、キャロラインに向かってそう言い、それを聞いたキャロラインは更に「ふふふ……」と笑った。
そんな2人のやり取りを見て、
「「あ、あの……」」
と、春風とレナが恐る恐るそう口を開くと、
「「というわけで……」」
「一緒にストロザイア帝国に行きましょう!」
「一緒にストロザイア帝国に行こう!」
と、キャロラインとアデレードは、満面の笑みを浮かべながら2人同時にそう言ったので、
「「ちょっと待てーい!」」
と、春風とレナも、キャロラインとアデレードに向かって2人同時にそうツッコミを入れた。




