第35話 そして、少年は決めた
今回はいつもより少し長めの話です。
「ちょっとユニークな、一般人です!」
と、ウィルフレッドに向かってキリッとした表情でそう言った春風。
(うん、決まったぜ!)
と、本人はそう思ってはいるが、爽子やクラスメイト達といった周囲の人達はというと、全員、
「な、何を言ってるんだお前はぁあああああ!?」
と言わんばかりに、口をあんぐりとさせていた。
そんな状況の中、ただ1人、ウィルフレッドはというと、
「そうか。ただ巻き込まれてこの世界に来たわけではない、ということだな?」
と、真剣な表情でそう尋ねてきたので、
「まぁ、そういうことになりますね」
と、春風真剣な表情でそう答えた。
その後、
「陛下、もう一度言います。ここを出て行く許可をください」
と、春風がウィルフレッドに向かって頭を下げながらそう言い、
「ちょ、ちょっと待て……!」
と、ハッと我に返った爽子が「待った」をかけようとしたが、それを遮るかのように、
「……其方は本気で言っているのか? この国の外は今……いや、いつだってそうなのだが、『外の世界』に出れば、其方や勇者達がいた世界とは違う『常識』が、其方に牙を向けるだろう。それも、かなりの敵意・害意・悪意が込められた牙だ。一度でも噛み付かれたら、下手をすれば一瞬で命を失うだろう。それでも、ここを去るというのか?」
と、ウィルフレッドは更に真剣な表情でそう尋ねてきた。
そう言った彼の瞳に、「強い意志」のようなもの感じたのか、
(ああ、この人は本気で俺のことを心配をしてくれてるんだろうな。いや、きっと俺だけじゃない。先生やクラスのみんな、そして、俺の大切な人達にも言ってるんだろう)
と、春風はそう考えて、
「それでも俺は……」
と、真っ直ぐウィルフレッドを見ながらそう答えようとした、まさにその時、
「ご心配には及びません!」
と、それまで黙っていたレナが「はい!」と勢いよく手を上げながらそう口を開いたので、
「む、其方は確か……」
と、ウィルフレッドがチラリとレナに視線を向けると、レナはいそいそと自分の懐から何かを取り出し、それをウィルフレッドの前に差し出した。
それを見て、
(ん? なんだあれ? カードみたいだけど……)
と、春風がそう疑問に思ったように、どうやらそれは1枚のカードのようで、そのカード見たウィルフレッドは、
「ほう、其方は『ハンター』をしているのか?」
と、目を見開きながら、レナに向かってそう尋ねた。
その質問を聞いて、
「え、ハンターって……?」
と、首を傾げる春風を他所に、
「はい、申し遅れましたが、私、『ハンター』をしている、レナ・ヒューズと申します」
と、レナは真っ直ぐウィルフレッドを見ながら、丁寧な口調でそう自己紹介した。
それを聞いたウィルフレッドは「ほう……」と声をもらすと、
「こちらこそ申し遅れた。私はルーセンティア王国国王、ウィルフレッド・バート・ルーセンティアだ。先程の其方と春風殿の戦いぶりはとても見事なものだった。そして、春風殿……」
と、レナと同じようにそう自己紹介した後、最後に春風の方を見て、
「遅くなってしまったが、騎士達を止めることが出来ず、申し訳なかった」
と、深々と頭を下げて謝罪した。
それを見て、春風は「あ……」と声をもらしたが、すぐに表情を変えて、
「いえ、手を出してきたのは相手の方ですが、もとを辿ればこちらが無礼なことを言ったのが原因です。ですので、こちらこそ、申し訳ありませんでした」
と、春風もウィルフレッドに向かって深々と頭を下げて謝罪した。
その後、ウィルフレッドは顔を上げると、
「さて、レナ殿と申したか?」
と、レナに向かってそう尋ねてきたので、それにレナが「はい」と返事すると、
「其方は先程『心配には及ばない』と申していたが、何か案のようなものがあるのか?」
と、ウィルフレッドは真剣な表情で再びレナに向かってそう尋ねた。
それに対して、レナが「はい」と返事すると、
「無礼を承知でお願いします。彼の身柄を、私に預からせて欲しいのです。私が、彼を外へと連れ出しますので」
と、ウィルフレッドに向かってそう言ったので、
『え、えええええ!?』
と、それを聞いた爽子とクラスメイト達は『な、何だってぇ!?』と驚きに満ちた表情になり、
「ほう……」
と、ウィルフレッドが目を細めながらそう声をもらすと、レナは春風の方を向いて、
「もう一度聞くけど、春風……でいいんだよね?」
と、尋ねてきたので、それに春風が「はい」と返事すると、
「実を言うと私、さっきまでの春風の質問や話は全部聞いてたんだ。そしてそれらの話の中から、春風が今、何を求めているのかがわかって、私ならそれを用意することが出来るって確信してるの。だからお願い……」
と、レナはそう言うと、春風の前にスッと自身の右手を差し出して、
「私を信じて、一緒に来て」
と、真剣な表情でそう言った。
それを聞いて、ウィルフレッドは更に目を細めて、
『え? え? ええ?』
と、爽子とクラスメイト達がオロオロしている中、春風はというと、レナと同じような真剣な表情で、彼女をジッと見つめていた。
自分達に「助け」を求めてきたウィルフレッド達よりも、こんないきなり現れた何処の誰かもわからない少女の言葉を信じるなど、普通の人(?)なら無理に決まっているだろう。
しかし、
(何でだろう。この子からアマテラス様達と同じものを感じる)
と、春風は目の前にいるレナを見て、何故かそう感じていた。
そして、それと同時に、
(俺の心が……いや、それともオーディン様の意志なのか? いやいや、どちらにしても、『この子を信じろ!』と、俺の中で、何かがそう叫んでる!)
とも思っていた。
そして、春風はコクリと頷きながら「よし!」と小さく呟くと、差し出されたレナの右手を握って、
「俺をここから連れ出してください、今すぐ!」
と、レナに向かってそう言った。
その言葉を聞いて、レナはパアッと表情を明るくすると、
「行こう、春風!」
と、すぐにその場から駆け出そうとしたが、
「あ、ちょっと待ってください!」
と、春風が「待った」をかけたので、レナは「え!?」と立ち止まると、春風はウィルフレッドの方を見て、
「すみませんウィルフレッド陛下、というわけで、俺は彼女と共に行きます」
と、謝罪しながらそう言ったので、
「……わかった。必ず、生きて戻ってくるのだぞ」
と、ウィルフレッドはコクリと頷きながらそう言った。
それを聞いて、爽子とクラスメイト達が「ええ!?」とショックを受けている中、
「はい、ありがとうございます」
と、春風は深々と頭を下げた後、次に爽子達の方を向いて、
「先生、みんな。勝手なことを言って申し訳ないって思ってるけど、俺はここを出て行くよ。でも、必ず生きて、みんなと再会して、みんなで元の世界に帰るから……」
と言うと、最後に、
「そんなわけで、行ってきます!」
と、笑顔でそう言った。
その後、
「お待たせしました」
と言った春風が、レナと共にその場から駆け出そうとすると、
「春風!」
「フーちゃん!」
「春風君!」
と、背後で自身の名前を呼ぶ声がしたので、思わず春風が後ろを振り向くと、
(あ……)
そこには、「行かないで!」と言わんばかりに、今にも泣き出しそうな表情をしている、春風の大切な人達である3人の少年少女がいたが、春風は申し訳なさそうな表情で、
「……ごめん」
と、ひと言そう言うと、今度こそレナと共にその場から駆け出して、目の前にある大きな扉を開くと、その向こうへと飛び出した。
次回で今章最終話です。




