第34話 「助っ人(?)登場」と、「名乗り」
「突然ですが、私、レナと申します! 助太刀させてください!」
と、春風に向かってそう言った人物。その正体を見て、
(な、何でこんなところに女の子が!?)
と、春風は大きく目を見開いた。それは他の人達も同様だった。
そう、その人物の正体は、真っ赤な衣服を身に纏い、まるで「雪」を思わせるかのような美しい白い髪を持つ、見たところ春風やクラスメイト達と同じ年頃くらいの少女だったのだ。
「レナ」と名乗ったその少女の出現に、その場にいる者達は皆、何が起きたのか理解出来ずポカンとしていたが、
(いや、今はそんなことを考えている場合じゃない!)
と、ただ1人、春風はそう思って、
「ありがとうございます! すんごく助かります! あと俺、春風と申します!」
と、その少女ーーレナに向かってお礼を言いつつ軽く自己紹介した。
その瞬間、呆けていた騎士達が漸く我に返り、春風とレナを睨みながら、それぞれ剣を構え直した。よく見ると、全員何やら殺気立っているみたいで、
(あ。もしかして、今仲間の1人がやられた所為かな?)
と、春風はチラッと目の前で倒れ伏している騎士を見てそう思った。状況から察するに、恐らくレナは春風の目の前に現れる際、その騎士を踏み台代わりにでもしたのだろう。
まぁそれはさて置き、謁見の間に緊張が走る中、
「えっと、春風……でいいんだよね? こいつらどうするの? 春風がいいなら……やっちゃう?」
と、レナが春風にそう尋ねてきた。特に最後のセリフに何やら殺意のようなものを感じたので、
「いえ、殺さない方向でお願いします」
と、春風は首を横に振りながらそう答えた。
その答えを聞いて、レナは意外なものを見るかのように目を見開くと、
「え、殺さないの? だってあいつらの仲間が先に剣を向けてきたんだし、向こうも殺る気満々なんだけど?」
と、再びそう尋ねてきたが、
「絶対に駄目です。先生やクラスのみんなに、人が死ぬところなんて見せたくないですから」
と、春風も再び首を横に振りながらそう答えた。
その答えを聞いて、レナは何かを感じたのか、
「……わかった。春風がそれでいいなら、私はそれに従うよ」
と、不敵な笑みを浮かべながらそう言ったので、
「ありがとうございます」
と、春風は再びお礼を言った。
その後、
「よーし、それじゃあ……!」
と、レナはそう言うと、腰のベルトに取り付けている革製のポーチのようなものに手を突っ込むと、そこから勢いよく何かを取り出した。
それは、自分の身長と同じくらいの長さをした、1本の白塗りの棒だった。
いや、よく見ると棒の両端に打撃・打突攻撃を行うことを目的としたシンプルな金属の装飾が施されているので、それは、「棒」というよりも「棍」と呼んだ方がいいのかもしれないと春風はそう思った。
そして、レナはその白塗りの棍を両手でクルクルと回転させた後、目の前にいる騎士達に向かってそれを構えて、
「それじゃあ……いっくよぉ!」
と、ニヤリと笑いながらそう言うと、騎士達に向かってダッと駆け出した。
それを見た騎士達もすぐに突撃しようとしたが、それよりも早くレナが騎士達の前に着き、
「はぁあ!」
と、その棍を思いっきりぶん回して騎士達を数人ほどぶっ飛ばした。
『ぐあああああ!』
攻撃を受けた騎士達は全員宙を舞った後、ボトボトと床に落ちた。
それを見て、
「き、貴様ぁあああああ!」
「よくも仲間を!」
と、他の騎士達が激昂してレナに攻撃をしようとしたが、
「させないよ」
『っ!?』
それよりも早く、いつの間にか騎士達のすぐ傍にいた春風が、持っていた扇やパンチ、キックなどを駆使して彼らを1人、また1人と倒していった。
それを見たレナは、
「おお、すっごーい! その武器(?)も結構強いけど、春風も強いんだぁ!」
と、表情を明るくすると、
「元の世界で鍛えられたからねぇ」
と、春風は苦笑いしながらそう返した。
その内心では、
(まぁ、スキルによる助けもあるし、何よりオーディン様と契約した所為なのか体がとても軽いし……)
と、やはりこちらも心の中で「ははは」と笑いながら呟くと、
(ありがとうございます、オーディン様)
と、この場にいない契約した神に向かって心の中でお礼を言った。
そしてそれから暫くすると、謁見の間にいた騎士達は全員、春風とレナによって倒された。
それを見て、爽子やクラスメイト達は勿論、ウィルフレッド達も開いた口が塞がらない様子だったが、
「ぬおおおおおおお! なんなのだこれはぁあああああああ!?」
ただ1人、ジェフリーだけは目の前で起きたことが信じられなかったのか、頭を抱えて絶叫した。
そんなジェフリーを見て、
「まぁ、信じられないのも無理はないかな?」
と、春風がボソリとそう呟くと、
「おい! そこの貴様ぁあああああ!」
と、とても教主というか聖職者(?)と思えないような怒りに満ちた表情をしたジェフリーが、春風に向かって怒鳴るように声をかけてきたので、
「あ、はい、何でしょうか?」
と、春風がそう返事すると、その態度が気に入らなかったのか、
「き、貴様! このような真似をして、ただで済むと思っているのか!? このようなことをして、ラディウス様達偉大なる5柱の神々の怒りを買うとは思わないのかぁ!?」
と、ジェフリーが更に憤慨した様子でそう尋ねると、
「……はぁ?」
と、春風は若干イラッとした表情になった後、
「はぁあああああ……」
と、深い溜め息を吐いて、
「生憎だけど……俺が信じてる神様は、俺と勇者達の故郷『地球』の神々だけだ!」
と、ジェフリーに向かってはっきりとそう言い放った。
その言葉を聞いて、爽子とクラスメイト達は「あ……」と声をもらし、
「ななな、なぁんですとぉおおおおおおお!?」
と、ジェフリーは大きく目を見開いた。
そして、
「もう許さんぞ! この勇者になれなかった不届なはみ出し者め! 偉大なる5柱の神々に代わって、このジェフリー・クラーク自ら成敗してくれるわぁ!」
と、ジェフリーが怒りのままにそう叫び、春風とレナの前に1歩出ようとした、まさにその時、
「……すまない」
「何?」
ーーゴッ!
「グハ!」
『あっ!』
なんと、いつの間にか我に返っていたウィルフレッドが、背後からジェフリーを殴り倒したのだ。
突然の不意打ちをくらったジェフリーは、床に倒れ伏して全身をピクピクとさせたが、その後すぐにピクリともしなくなった。
それを見て、春風とレナは勿論、何故か爽子とクラスメイト達もパチパチと拍手しながら「おお……」と声をもらすと、
「其方は、一体何者なのだ?」
と、ウィルフレッドが真っ直ぐ春風を見つめながらそう尋ねてきたので、それを聞いた春風が、
「ん? 俺ですか?」
と尋ね返すと、「うーん……」と唸りながら考え込んで、その後「うん」と頷くと、
「俺は春風。雪村春風。『雪村』が苗字で、『春風』が名前です。でもって……」
と、ちょっとカッコよさそうなポーズを取りながらそう自己紹介すると、
「ちょっとユニークな、一般人です!」
と、最後にキリッとした表情を浮かべながらそう言った。




