第31話 春風、拒否する
「すみません。俺には無理そうですので、ここを出て行く許可をください」
『なぁあああああにぃいいいいいいいっ!?』
春風が発した、まさかの拒否宣言に、ウィルフレッドとその家族(そしてその他大勢)どころか、爽子とクラスメイト達までもが、驚きに満ちた叫びをあげた。
その後、
「……あれ? 皆さん、どうしたんですか?」
あまりのことにショックで固まってる彼・彼女らに、春風が恐る恐る声をかけると、
「……は! ど、ど、どういうことだ!? 今の発言はどういう意味なのだ!?」
と、いち早く我に返ったウィルフレッドが、大慌てで春風に尋ねてきたので、春風は「うお!」と驚いたが、すぐに真面目な表情になって、
「申し訳ありませんウィルフレッド陛下……」
と、そう謝罪してきたので、それを聞いたウィルフレッドが「むむ……!」と聞く姿勢に入ると、
「実は俺、勇者じゃないんです」
と、春風は真っ直ぐウィルフレッドを見てそう言った。
その言葉に反応したのか、
「何だと?」
と、ウィルフレッドはそう声をもらし、それに続くように、ウィルフレッドの家族とその周囲の人達、そして、爽子とクラスメイト達までもが「ええ!?」と驚きの声をあげた。
そんな状況の中、
「それは……どういうことなのだ?」
と、ウィルフレッドが春風に向かってそう尋ねると、
「ステータス、オープン」
と、春風はそう言って自身のステータスウィンドウを出し、とある部分をウィルフレッドに見せた。
そのとある部分を見て、
「こ、これは!」
と、ウィルフレッドが目を大きく見開いたので、
「へ、陛下、どうしたのですか?」
と、彼の様子が気になったジェフリーも、そのとある部分を見ると、
「しょ、称号……『巻き込まれた者』ですとぉおおおおお!?」
と、ウィルフレッド以上に目を大きく見開きながら、先程以上の驚きに満ちた声をあげたので、周囲の人達も、
『えええええ!?』
と、驚きに満ちた声をあげた。
そんな彼・彼女らの叫びを聞いて、
(ちょっと、うるさいんだけどぉ)
と、春風は「はぁ」と溜め息を吐きながら心の中でそう呟いたが、すぐに真面目な表情になって、
「そうです。俺は『勇者』ではありません。『勇者召喚』に巻き込まれた……まぁ、一般人ってところですかね」
と、ちょっと砕けた感じの口調でそう言った。
当然、それを聞いたウィルフレッドは勿論、爽子とクラスメイト達までもが「そんな!」とショックを受けた。
一方、春風はというと、
(うぅ。スキルが上手くいったとはいえ、みんなを騙すようなことをして、凄く気が引けるなぁ)
と、心の中では罪悪感に駆られていた。
実はウィルフレッドに称号を見せる前に、春風は自身の所持スキルの1つである『偽装』を発動し、その力を使ってこの称号を追加していたのだ。
始めは上手くいくか不安だったが、ウィルフレッド達の反応を見て、
(よ、よかったぁ! 上手くいったぁ!)
と、心の中でガッツポーズをとったが、その一方では先程語ったように、周囲を騙したことによって春風の中に罪悪感も芽生えていたのだ。
そのことに対して、
(皆さん、ほんっとにすみません!)
と、春風が心の中で周囲の人達に向かってそう謝罪すると、
「ど、どういうことだ? 何故、其方にそのような称号が!?」
と、ショックで顔を真っ青にしたウィルフレッドがそう尋ねてきたので、春風は「それは……」と呟くと、
「いやぁ、実は『勇者召喚』が起きた時に、俺、教室のカーテンにしがみついて必死に抵抗してたんですよ。まぁ、結局無駄に終わりましたけど。もしかしたら、その際何か不具合が起きたんだと思ったんですよねぇ」
と、再びちょっと砕けた感じの口調でそう答え、最後に「ははは」と苦笑いした。
その答えを聞いて、
「そ、そんな……そのようなことが……」
と、ショックで更に顔を真っ青にしたウィルフレッドに向かって、
「ですからウィルフレッド陛下、そういう訳で俺は勇者ではありませんので、ここを出て行く許可をください。そしたら俺、キチンと出て行きますので……」
と、春風がそう言った、まさにその時、
「ちょ、ちょっと待て雪村!」
と、ハッとなった爽子がそう言いながら、春風の肩を掴んできたので、
「ん? どうしたんですか先生?」
と、春風が爽子に向かってそう尋ねると、
「『どうしたんですか?』じゃないだろう!? 『ここを出て行く』って、一体何を言ってるんだ!?」
と、爽子が焦った様子で問い詰めてきた。
よく見ると、肩を掴む手が震えていたので、
(先生ぇ……)
と、春風はこれから自身が言おうとしているセリフを思って再び罪悪感に駆られたが、そうも言ってられないと言わんばかりに真っ直ぐ爽子を見つめると、
「ごめんなさい先生。俺も『何言ってんだおい!?』とは思ってます。ですが、この人達が求めているのは『勇者』……先生達なんです。残念ですが『勇者』の称号を持ってない俺は、言ってみれば足手纏いとなってしまうでしょう。それは、この人達にとって大変よろしくないでしょうから、俺はここを出て行こうと思うんです」
と、チラリとウィルフレッド達を見ながらそう言った。
その言葉を聞いて、
「そんな、だからって……!」
と、爽子はショックでそれ以上何も言えなくなった。いや、爽子だけではなく、クラスメイト達……特に春風の大切な人達である3人の少年少女達も、ショックで顔を真っ青にしていた。特にその中の1人である黒髪の少女は、今にも泣き出しそうな表情をしていたのが見えたので、
(うう。ユメちゃん、本当にごめんなさい!)
と、春風は心の中で彼女に向かってそう謝罪した。
その後、春風は気持ちを切り替えようと首を横に振ると、ウィルフレッドに向き直って、
「まぁ、仮に俺にも『勇者』の称号があったとしても、俺はこの世界の為に戦うことは出来ないと思いますけどね」
と、苦笑いしながらそう言うと、
「……それは、どういう意味だ?」
と、ウィルフレッドが睨むようにそう尋ねてきた。
それに爽子やクラスメイト達は勿論、周囲の人達もビクッとなったが、春風だけはそれに屈することなく、
「何故なら……俺の命には、俺に『生きろ』と、『生きて幸せになってくれ』と言った人達の『想い』と『願い』が刻まれてるからです。俺はその人達のことが大好きですから、その人達の『想い』と『願い』に応える為にこの命を燃やし、そして燃え尽きるその時まで生きたいと考えてます。ですから、俺は陛下達の『願い』に応えることが出来ません」
と、真っ直ぐウィルフレッドと、その周囲の人達に向かってそう言うと、最後に、
「申し訳ありません」
と、深々と頭を下げて謝罪した。
その謝罪を聞いて、ウィルフレッド達だけでなく、
「ゆ、雪村……」
と、爽子とクラスメイト達も、それ以上何も言えなくなった。
だが、その時、
「ふ、ふざけるなぁあああああああっ!」
『っ!』
1人の若い騎士(?)がそう怒声をあげながら、春風に向かって突撃してきた。




