第29話 春風、質問する
「今回、俺達をこの世界に召喚した時に用いた『勇者召喚』について、幾つか質問したいのです」
と、ウィルフレッドに向かってそう言った春風。
その言葉を聞いて、
「な、何?」
と、ウィルフレッドがポカンとしていると、
「あ、すみません。ちょっと口調がおかしかったでしょうか?」
と、春風は謝罪しながらそう尋ねたので、
「あ、いや、すまない、そのままで構わないが、何故其方は『勇者召喚』について知りたいのだ?」
と、ウィルフレッドも春風と同じように謝罪しつつそう尋ね返した。
その質問に対して、春風は真っ直ぐウィルフレッドを見ると、
「申し訳ありません、これは俺個人にとってもの凄く大切なことなのですので、それを確かめる為にも必要なことなのです」
と、国王を前にしてるのにも関わらず少々強気な態度でそう答えた。
その答えを聞いて、ウィルフレッドは何かを感じたのかタラリと汗を流すと、
「そ、そうなのか。わ、わかった、それでは遠慮なく質問してくれ」
と、コクリと頷きながらそう言ったので、
「ありがとうございます。それでは……」
と、春風は深々と頭を下げてお礼を言った後、質問を始めた。
「まず1つ目ですが、今回の『勇者召喚』はどちら様が行ったのですか?」
と、そう尋ねた春風に、ウィルフレッドは「それは……」と答えようとすると、
「それは、わたくしです」
と、それを遮るかのように、クラリッサがウィルフレッドの前にでながらそう答えた。
突然のクラリッサの発言に、春風は「え?」と目を大きく見開くと、
「え、えーっと……クラリッサ姫様自ら行ったのですか?」
と、少し驚いたと言わんばかりの態度で、クラリッサに向かってそう尋ねたので、
「その通りです。5柱の神々より授かった『勇者召喚』は、この世界にとって『希望』となり得る存在を召喚する為のもの。わたくしは王女として、わたくしの『大切なもの』がいるこの国を守りたいのです」
と、クラリッサも真っ直ぐ春風を見てそう答えると、
「それで、クラリッサ姫様自ら『勇者召喚』を行うと名乗り出たのですね?」
と、春風は続けてそう尋ねたので、
「その通りです」
と、クラリッサはコクリと頷きながらそう答えた。
春風はその答えを聞いて、
(そうなんだ。よくウィルフレッド陛下許してくれたなぁ……)
と、チラッとウィルフレッドに視線を向けながら、心の中でそう呟くと、
「……無礼を承知でお尋ねしますが、クラリッサ様は何の職能を持ってるのですか?」
と、今度は少し恐る恐るといった感じでそう尋ねた。
その質問を聞いて、クラリッサは「え?」と首を傾げたが、すぐに表情を変えて、
「はい、わたくしは『司祭』の職能保持者で、自慢ではありませんが、これでも力はある方なのですよ」
と、「ふふん!」と胸を張りながらそう答えたので、
(お! ということは『神職者』ってことでいいのかな?)
と、春風がそう疑問に思った、まさにその時、
「その通りです! クラリッサ様は我々五神教会に所属している他の『司祭』の職能保持者よりも素晴らしい資質をお持ちなのです!」
と、それまで黙っていたジェフリーも何故か「ふふん!」と胸を張りながらそう答えたので、春風はギョッと驚きながらも、
(え、何であんたまで自慢すんの?)
と、ジェフリーの発言に少しドン引きしたが、すぐに「そ、そうなんですか」と呟くと、すぐにクラリッサに向き直って、
「ということは、王女様が神様達と協力して俺達を召喚したのですか?」
と、尋ねた。
すると、
「え、か、『神様達と協力』……ですか?」
と、クラリッサは「何言ってんのあんた?」と言わんばかりの表情でそう尋ね返してきたので、
(しまった! 質問ミスった!?)
と、春風は慌てて口元を押さえると、
「も、申し訳ありません。えっとぉ、『勇者召喚』を行ったのは、クラリッサ姫様お一人で、でしょうか?」
と、若干おかしな口調で謝罪しながら更にそう尋ねた。
その質問を聞いて、クラリッサは「え? え?」と若干混乱したが、すぐに首をブンブンと横に振ると、
「あ、はい。実は皆様を召喚する時、『何かあってはいけないから』ということで、五神教会の方から数人ほど私と同じ『司祭』の職能保持者達がサポートに入ってくれたのです」
と、恥ずかしそうに顔を赤くしながらそう答えた。
その答えを聞いて、春風は「そ、そうでしたか」と呟きながら、右手で自身の右目を隠すと、
(『神眼』には何の反応もなし。ということは、今のクラリッサ様の言葉に嘘はないということか)
と、心の中でそう結論づけた。
実は春風が質問を始める前、念の為にとスキル『神眼』を発動させていた。ただ、普通に発動したら周りが驚いてしまうのでは(というか自分の正体がバレしまうのでは)ないかと考えて、
(俺の両目に……スキル『偽装』、発動)
と、自身の両目に「偽装」をかけたのだ。
その結果、
(うーん。周りは特に変わりなし、か)
と、春風がそう思ったように、周囲の人達は全く気付いてない様子だったので、
(よかった、バレてないぞ)
と、春風は心の中でガッツポーズをとった。
そして、クラリッサへの質問が終わると、
(今のクラリッサ王女様の話、もし『ルール』を守った異世界召喚をするなら、彼女の実力はオーディン様やアマテラス様、ゼウス様から見たらどうなんだろう?)
と、春風は「うーん……」と唸りながらそう疑問に思った。
そんな春風を見て、
「あ、あのぉ……」
と、クラリッサがそう声をかけてきたので、それに春風が「ん?」と反応すると、
「右目……どうかなさったのですか?」
と、クラリッサが心配そうにそう尋ねてきたので、
(おっといけない!)
と、春風はそう思って手を右目から離すと、
「いえ、何でもありません」
と、ニコッと笑いながらそう答え、最後に、
「すみません」
と、クラリッサに向かって頭を下げながらそう謝罪した。
それを聞いて、クラリッサは「は、はぁ、そうですか」と呟くと、
「あの、ウィルフレッド陛下」
と、春風はウィルフレッドに向かってそう声をかけたので、
「む、な、何だろうか?」
と、ウィルフレッドは若干警戒しつつそう返事すると、
「他にも幾つか質問したいことがあるので、よろしいでしょうか?」
と、春風は真面目な表情でそう言ったので、
「あ、ああ構わない」
と、ウィルフレッドもそう許可を出した。
それを聞いた春風は、
「ありがとうございます」
と、再びウィルフレッドに向かってお礼を言うと、
「では……」
と、新たな質問を始めた。




