第255話 「追いかけっこ」の裏では……
時は少し前まで遡る。
レナが春風を連れ去ったアメリア達を追って飛び出したあの後、フレデリック達はオードリーと共に現れた五神教会の神官達によって、自分達の体を拘束していた紫色に輝く鎖から解放されていた。
オードリー曰く、彼らは五神教会の幹部とその配下達で、全員優秀な光属性の魔術を扱う者達だ。
鎖から解放されると、
「ありがとうございます、助かりました」
と、フレデリックは神官達に向かってそうお礼を言い、
「皆さん、大丈夫ですか?」
と、周囲に向かってそう尋ねると、
「ああ、なんとかな。あ〜でもマジでしんどかったわぁ」
と、同じく鎖から解放されたヴァレリーが疲れ切った表情でそう答え、それに続くように、
「そうですね。正直、かなりきつかったと思います」
と、同じく鎖から解放されたタイラーも、疲れ切った表情でそう言った。
そして、それは同じく拘束されていたディックやフィオナ、アーデ、そして他の人達も同様で、皆、神官達によって鎖から解放されると、まるで疲れ切ったかのようにその場に膝から崩れ落ちていた。
ただ、
「うーん。これはこれで、ありかも……」
と、アーデが何やら不穏なことを呟いていた気がしたが、皆、それをスルーすることにした。
そんな状況の中、
「……」
ただ1人、レベッカは無言の状態で「怒り」に満ちた表情をしていた。
その理由は、
「逃亡中の『異端者』達によって春風が連れ去られた」
と、フレデリックからそう聞かされたからだ。
そのとんでもない事態を聞いて、
「ああ!? そりゃ一体何の冗談だい!?」
と、レベッカはフレデリックに詰め寄ろうとしたが、その時のフレデリックはまだ紫色に輝く鎖に拘束されていたので、
「近づいてはいけません」
と、神官に止められてしまい、レベッカは「ちっ!」と舌打ちしつつも、神官に従うことにした。
そして、全員が神官達によって紫色に輝く鎖から解放されると、
「ん?」
アーデの近くにあった建物の影から、1人の黒装束を纏った人物が現れて、
「……」
と、ひそひそとアーデに何かを呟いていた。
それを聞いた後、
「わかった、ありがとう」
と、アーデが黒装束の人物にそうお礼を言うと、それからすぐに黒装束の人物は建物の影へと戻った。
そして、
「タイラーさん」
と、アーデがタイラーの傍へと駆け寄り、
「ん? どうしました?」
と、タイラーが首を傾げながらそう尋ねると、
「たった今、春風を連れ去った連中とそれを追うレナが、都市を囲う外壁の向こうへと飛んでいったと報告がきました」
と、アーデは先程黒装束の人物から聞かされた話の内容を、タイラーに報告した。
その報告が聞こえたのか、
「ああ? 『飛んでいった』って何だそりゃ?」
と、ヴァレリーがそう尋ねると、
「言葉の通りです。春風を連れ去った連中は、金色の光に包まれた状態で建物の屋根の受けからジャンプした後、そのまま外壁を超えていき、それを追いかけるように、レナも全身を炎に包んでその勢いで外壁を超えたそうです」
と、アーデは真面目な表情でそう答えたので、
「おいおい、どういう状況だよそりゃあ!?」
と、その答えにヴァレリーは「マジで!?」と信じられないと言わんばかりの表情で言った。
しかし、
「それは、不味いですね」
と、フレデリックが真剣な表情でそう言うと、
「お二方、どうしますか?」
と、ヴァレリーとタイラーに向かってそう尋ねた。
その質問に対して、
「決まってるだろ」
「決まってるでしょ」
と、2人がそう返事すると、
「すぐに追跡チームを編成して救助に向かうぞ」
「ええ。もし2人が連中といる状態で断罪官に遭遇してしまえば、間違いなく殺されてしまいますからね」
と、キリッとした表情でそう答えたので、
「わかりました。私の方でも、何人かに声をかけましょう」
と、フレデリックもキリッとした表情でコクリと頷きながらそう言った。
すると、それが聞こえたのか、
「なら、あたしも行かせてもらおうか」
と、レベッカがそう名乗りをあげたが、
「いえ、レベッカさんにはここに残ってもらいます」
と、フレデリックがそう却下したので、
「それは……あたしじゃ足手纏いだと言いたいのか?」
と、レベッカは低い声でそう尋ねた。それと同時に、レベッカから尋常じゃないくらいのプレッシャーが発せられたので、それを受けたフレデリック、ヴァレリー、タイラー、そしてアーデ以外は「うっ!」と呻きながらタラリと汗を流したが、フレデリックはそれをものともしない涼しそうな表情で、
「そうではありません。あなたには、春風さんの帰る場所になってほしいのですよ。あなたにもしものことが起きれば、あなたのご家族は勿論、春風さんもきっと悲しむと思いますので」
と、レベッカに向かってそう答えると、それを聞いたレベッカは目を大きく見開いた後、気持ちを落ち着かせる為に「ふぅ」とひと息入れて、
「そういうことなら、わかったよ」
と、「仕方ないな」と言わんばかりの笑みを浮かべながらそう言った。
それを聞いて、フレデリックが「ありがとうございます」とお礼を言い、ヴァレリーとタイラーが「ふふ」と笑うと、
「タイラーさん、私も春風の救出に行かせてください」
と、アーデがタイラーに向かってそう言ったので、それにタイラーが「え?」と反応すると、
「「ヴァレリーさん!」」
と、ディックとフィオナがヴァレリーのもとへと駆け寄ってきたので、
「ん? どうした2人共?」
と、ヴァレリーが首を傾げながらそう尋ねると、
「お願いします! 僕達も連れってください! 兄貴とレナさんを助けたいんです!」
「私達も、一緒に行きたいんです!」
と、ディックとフィオナは深々と頭を下げながらそう答えた。
それを聞いて、ヴァレリーとタイラーがお互い顔を見合わせると、すぐにアーデ、ディック、フィオナを見て、
「悪いがそいつは出来ない」
「ええ。何故なら、これは極めて危険な行動ですから。何処で断罪官に遭遇するかわかりませんし、下手をしたら、こちらも『異端者』にされてしまうかもしれませんからね」
と、真剣な表情でそう言うと、
「特にアーデさん。フレデリック総本部長の言葉を借りるなら、あなたにもしものことが起きれば、あなたのご家族が黙っていられないでしょう」
と、タイラーはアーデを見つめながらそう付け加えた。
その後、
「それでも行くと言うのか?」
「それでも行きたいのですか?」
と、ヴァレリーとタイラーは2人して、ディック、フィオナ、アーデに向かってそう尋ねると、
「「「行きます!」」」
と、3人共真剣な表情でそう答えたので、ヴァレリーとタイラーは「やれやれ……」と言わんばかりの表情で「ふぅ」とひと息入れると、
「わかりました。ですが、こちらが断罪官を発見した場合、皆さんには速、フロントラルに帰還してもらいます」
「ああ、こいつはリーダーとしての『命令』だからな。逆らうことは、許さないぞ」
と、3人に向かってそう言ったので、
「「「はい!」」」
と、ディックもフィオナもアーデも、真っ直ぐヴァレリーとタイラーを見つめながらそう返事し、それを聞いたフレデリックは、
「春風さんは幸せ者ですね」
と、「ふふ」と小さく笑いながらそう言い、
「ああ。それと、レナもね」
と、レベッカもフレデリックと同じように「ふふ」と小さく笑いながらそう言った。




