第253話 逃げる者達と追う少女
「春風を……返せぇ!」
と、そう叫んだレナが、自身を縛る紫色の鎖を破壊した、まさにその瞬間、
「あああああああ!」
と、建物の屋根の上を駆け抜けるアメリアにしがみついていた三つ編みの少女が、まるで大きなダメージを受けたかのようにそう悲鳴をあげたので、
「ニーナ!?」
と、その悲鳴を聞いたアメリアは、思わずその場に止まった。
そしてその後、
「ど、どうしたのニーナ!?」
と、アメリアは「はぁ……はぁ……」と苦しそうな表情を浮かべる三つ編みの少女に向かってそう声をかけ、それに続くように、
「ニーナお姉ちゃん、大丈夫!?」
と、同じくアメリアにしがみついていた幼い少年も、心配そうな表情で三つ編みの少女に向かってそう声をかけたので、
「はぁ……はぁ……だ、大丈夫。私は、大丈夫だから」
と、「ニーナ」「ニーナお姉ちゃん」と呼ばれた三つ編みの少女は苦しそうに息を切らしながらも、2人に向かって笑顔でそう返事した。
そんな少女を見て、アメリアと幼い少年は更に心配そうな表情を浮かべると、
「……う……う〜ん。なんか……うるさい」
と、気を失った状態でアメリアの肩に担がれていた春風がそう声をもらしたので、それにアメリアが、
「しまった!」
と、ハッとなって春風を見たが、それよりも早く春風の意識が戻って、
「うわ! 何ここ!? ていうか、俺担がれてる!?」
と、アメリアの肩に担がれているという今の自身の状態に、ギョッと大きく目を見開いた。
その後、
「ちょ、ちょっと、離して……いや降ろして!? ああ、もうどうなってんだよこの状況!?」
と、春風がアメリアの肩でジタバタしていると、
「すまない、君にはこのまま一緒に来てもらう」
と、アメリアは申し訳なさそうな表情でそう言ったので、
「はぁ!? あなた何言って……!」
と、春風はそう尋ねようとしたが、その瞬間、
(ん? ちょっと待って……そうだ! レナにディック、フィオナさん、そしてフレデリックさん達!)
今の状態になった前の出来事を思い出して、
「ちょっと、あんたらレナ達に何したの!? みんな生死に関わることしたら、絶対に許さないぞ!」
と、アメリア達に向かって、言葉1つ1つに「怒り」を込めながらそう尋ねた。
そんな春風の質問に対して、
「そ、それは……」
と、アメリアが答えようとした、まさにその時、
「見ぃつけたぁあああああ!」
という、明らかに強い「怒り」が込められた叫びが聞こえたので、その声を聞いた春風とアメリア達が「ん?」と声がした方へと振り向くと、
「れ……レナ?」
そこには、白い光と赤い炎包まれた状態のレナがいた。よく見ると、その表情は明らかに「怒り」で我を忘れているので、
(わぁあああああ! めっちゃ怒ってるぅ! 一体何で……!?)
と、春風はオロオロしながらそう疑問に思ったが、今の自分の状態を見て、
「あ、俺でした」
と、ハッとなってそう呟くと、
「お、お、降ろしてぇ! 今すぐ俺を降ろしてぇ!」
と、再びジタバタしながらアメリアにそう懇願したが、
「ちぃ! 捕まってたまるか!」
と、アメリアは自身の体全体に白い光を纏わせると、
「2人共、しっかりつかまるんだ!」
と、三つ編みの少女と幼い少年に向かってそう言い、それを聞いた2人が、
「「うん!」」
と頷くと、
「ちょ、こら! 降ろしてってば……!」
と叫ぶ春風を無視して、アメリアはその場から駆け出した。
それを見て、
「にぃがすかぁ!」
と、レナは怒りのままにそう叫ぶと、アメリア達を追うようにその場から駆け出した。
一方その頃、
「こらぁ! 今すぐ止まって! そして降ろして! お願いですから降ろしてください!」
と、春風は何度もアメリアにそう懇願したが、
「喋ると舌を噛むぞ!」
と、逆に注意されてしまい、
(駄目だ、どう足掻いても降ろしてくれそうにない! しかもなんか力を強くしてるし!)
と、春風は「どうすりゃいいんだ!?」と本気で困った表情を浮かべると、
「まぁてぇえええええ! 春風をかえせぇえええええ!」
と、後ろからレナの怒声がしたので、
「ほら早く降ろして! そうすれば彼女も止まる思うから!」
と、春風は大慌てでアメリアに更に懇願したが、
「残念だが、もう手遅れだ」
と、アメリアが前を見つめながらそう返事したので、それを聞いた春風が「え?」とアメリアと同じように前を見ると、
「が、外壁ですが……?」
と、タラリと汗を流しながらそう呟いた。
そう、春風達の目の前にあるのは、この「中立都市フロントラル」全体を囲む外壁だった。
それは、とても大きくて高かったので、普通に行けばそこで止まるんじゃないのかと春風はそう考えたが、いざ外壁の近くになると、
「ニーナ、お願い出来るか?」
と、アメリアが三つ編みの少女に向かってそう尋ねた。
その質問に対して、
「うん、私はもう大丈夫」
と、三つ編みの少女がコクリと頷きながらそう返事したので、
(え? な、何を言ってるんだこの子?)
と、春風がそう疑問に思っていると、
「……」
三つ編みの少女は、ゆっくりと目を閉じた。
次の瞬間、アメリアの全身が、金色の光に包まれ出したので、
(え、何この光? 凄く暖かいような……)
と、一緒にその光に包まれていた春風が、心の中でそう呟くと、
「……いくぞ」
と、アメリアが小さくそう呟いたので、
「え、待って、何言ってんの……?」
と、春風がそう尋ねると、次の瞬間、アメリアはスーッと息を吸って、
「はっ!」
なんと、今いる外壁近くに建物の屋根から、勢いよくジャンプしたのだ。
突然のことに、
「いや待って! 壁にぶつかる……!」
と、春風はそう叫ぼうとしたが、
(……あれ? 落ちない!?)
ジャンプしたアメリアは落ちることなく、寧ろどんどん高くなっていき、
(というか、このままいったら壁越えるんじゃないか!?)
と、春風は「まさか!」と思いつつも、心の中でそう感じた。
そして、そんな春風の予測の通り、アメリアのジャンプは壁のてっぺんにまで届き、このままいけば壁を越えるんじゃと春風はそう思ったが、実際に壁のてっぺんに着くと、アメリアはそこでスタッと着地したので、
(あ、壁越えは無理でしたか)
と、春風は少しがっかりしたかのような表情になった。
その後、
「はっ!」
と、アメリアはそこから再びジャンプしたので、そこで春風はハッとなって、
(いやそうじゃなくて! レナ! レナは!?)
と、どうにかして後ろを振り向くと、
「春風ぁあああああ!」
そこには、炎に包まれた状態で飛んでいるレナの姿があった。




