第24話 女性教師・爽子の怒り
「ふっざけんなぁあああああああ!」
と、ウィルフレッドに向かってそう怒声を浴びせた女性教師。そんな彼女の叫びに、
(うぉお! び、びっくりしたぁ)
と、春風は驚きのあまり目を大きく見開いた。当然、それは春風だけでなく、クラスメイト達やウィルフレッドをはじめとした周囲の人達も同様で、皆、春風と同じように目を大きく見開いた。
しかし、そんな春風を無視して、
「ふっざけんなよあんた! それってつまり、私達にそんな危険な存在と戦えって言いたいのか!? 私達はただの一般人なんだぞ! 『教師』と『学生』なんだぞ! なのに、いきなりこの世界に召喚なんてされて、『邪神から世界を守ってくれ』とか、『自分達は神に選ばれた勇者だ』とか言われたって、わかるわけないだろうが!」
と、女性教師はウィルフレッドに怒声を浴びせ続けた。
そんな彼女の様子に誰もがポカンとしている中、
「……は! き、貴様、陛下を前になんという……!」
「そ、そうだそうだ!」
「不敬だぞ!」
と、ハッとなった壁際に並ぶ人達が、爽子に向かって怒鳴るようにそう口を開いたが、
「うるせぇ! まだ私が喋ってるんだ! 黙ってろ!」
と、女性教師がその人達に向かってそう怒鳴り返すと、
『ひ、ひゃい!』
と、全員ビビってピシッと背筋を伸ばしながらそう返事し、そのまま固まったように動かなくなったので、
(う、うわぁ。先生すっげぇ)
と、それを見た春風はタラリと汗を流した。
その後、女性教師はキッと睨むようにウィルフレッドに向き直ると、
「で、話を続けるけど、『勇者』とか言われたって、『戦い』なんてものとは無縁の日々を生きてきた私達に出来るわけないし! そんな凄い『力』があるとは到底思えないし! たとえあったとしても、そんな危険な真似を私の大切な生徒達にさせられるわけないだろう!」
と、再びそう怒声を浴びせた。
そして、最後は怒鳴り疲れたのか、女性教師は辛そうな表情で「ぜぇ、はぁ……」と肩で息をした。
そんな彼女の様子を見て、
(先生……)
『せ、先生ぇ……』
と、春風とクラスメイト達はジーンと感動していると、
「……勇者殿……いや、まだ其方の名前を聞いてなかったな」
と、それまで黙って女性教師のお叱りを聞いていたウィルフレッドがそう口を開いたので、
「……爽子です。朝霧爽子。この子達の担任教師をしてます」
と、女性教師……いや、朝霧爽子ーー以下、爽子は、たくさん怒鳴った所為か落ち着いた口調でそう自己紹介した。
それを聞いたウィルフレッドは、
「おお、名前と性が逆なのか。では、爽子殿と呼ばせてもらおう」
と、少々驚いたように目を大きく見開きながらそう言うと、
「爽子殿。そして、生徒達よ。この世界の事情に巻き込んでしまい、申し訳ない」
と、深々と頭を下げながらそう謝罪した。
その姿を見て、
『ああ、そんな陛下……!』
と、周囲の人達が慌て出したが、
「よい」
と、ウィルフレッドが頭を下げた状態のまま「待った」をかけてきたので、すぐにその場が静かになった。
その後、ウィルフレッドは頭を下げた状態のまま話を続ける。
「爽子殿の言い分は正しい。其方の言う通り、この世界の問題に、無関係な其方達を巻き込むのは間違っているだろう。だがしかし、今まさに我々にはどうすることも出来ない状況で、この事態を解決する為には、其方達の……『勇者』達の力が必要なのだ」
と、そう言ったウィルフレッドの言葉に、爽子だけでなくクラスメイト達までもが「うぅ……」と呻いた。
ただ、春風だけはずっと冷静な態度のままだったが。
そして、ウィルフレッドはゆっくりと頭を上げると、
「それに爽子殿。先程其方は『力があるとは思えない』と言っていたが、そんなことはない。『神々に選ばれた』ということは、即ち其方達には『勇者』に相応しい『力』を備えているということになる」
と、真剣な表情でそう言ったので、
「そ、そんな。私達に、そんな『力』が?」
と、爽子は「まさか!?」と言わんばかりに狼狽した。そしてそれは、春風を除いたクラスメイト達も同様だった。
そんな爽子達を前に、ウィルフレッドが更に話を続ける。
「うむ、間違いない。そして、その『力』とは別に、この世界に来る直前、其方達は神々からもう1つの『力』を授かっているのだ」
と、そう言ったウィルフレッドの言葉を聞いて、
「もう1つの……『力』?」
と、爽子が首を傾げながらそう尋ねると、
「そうだ。それを確かめる為に、まずはゆっくりと目を閉じて心を静かにし、『ステータスオープン』と唱えるのだ」
と、ウィルフレッドがそう答えたので、爽子は「えぇ?」とかなり疑ったが、真面目な表情のウィルフレッドを見て、「はぁ……」と溜め息を吐いた後、ウィルフレッドに従うようにゆっくりと目を閉じて、気持ちを落ち着かせようと深呼吸した後、
「ステータス……オープン」
と、唱えた。
すると次の瞬間、
「うわ!」
と驚く爽子の目の前に、青いプレートのようなものが現れたので、
(あ、ステータスウィンドウ!)
と、それを見た春風は大きく目を見開いた。
そんな春風を他所に、
「こ、これは……一体?」
と、爽子は恐る恐るそう尋ねると、
「それは『ステータス』。この世界に住む人間達全員が持っているものだ」
と、ウィルフレッドはそう答えたので、
「す、ステータス?」
と、爽子は「わけわからん!」と混乱した。
そんな爽子に向かって、
「爽子殿。そこに記された其方のステータスを読んで欲しい。其方達が『勇者』である証拠があるのだ」
と、ウィルフレッドがそう言ってきたので、爽子はその「ステータス」に記された内容を見た。
名前:朝霧爽子
種族:人間
年齢:29歳
性別:女
職能:神聖騎士
レベル:1
所持スキル:「神器召喚」「体術」「剣術」「槍術」「盾術」「光魔術」
称号:「異世界人」「職能保持者」「選ばれし勇者」
「……は? 『選ばれし勇者』って……?」
と、自身の「ステータス」を読み上げた爽子がそう呟くと、
『おおぉ!』
と、周囲からそう声があがり、
「そうだ。その、『選ばれし勇者』という称号こそが、其方……いや、其方達が神々に選ばれた『勇者』だという証拠なのだ」
と、ウィルフレッドが真剣な表情でそう言ってきたので、
「そ……そんな……」
と、爽子はショックを受けた。




