第247話 「スカーレット」、再び・2
お待たせしました、本日2本目の投稿です。
春風……否、「スカーレット」が働くナンシーの店に現れた、1人の女性と2人の少年少女。
レベッカとその家族が経営する宿屋「白い風見鶏」の新しい宿泊客だという彼女達の存在に、
(う、うーん。なんかすんごい知り合いが来るなぁ。次はバージルさんとミラさんだったりして……)
と、春風は心の中で盛大に頬を引き攣らせていたが、すぐに気持ちを切り替えたかのように、
「いらっしゃいませ、お客様は何名様でしょうか?」
と、新たに店に現れた3人に向かって笑顔でそう尋ねた。
それに対して、3人は「え!?」と戸惑いの表情を浮かべると、
「さ、3人……です」
と、ショートヘアの女性が指を3本立てながらそう答えたので、
「わかりました。では、こちらにどうぞ」
と、春風は笑顔で彼女達を空いているテーブル席へと案内した。
そして、3人が椅子に座ったのを確認した春風が、
「それでは、ご注文が決まりましたらお呼びください」
と、笑顔でそう言ってその場から離れると、
「へぇ、中々やるじゃないかはる……」
と、近くにいたヴァレリーがそう声をかけてきたので、それを遮るかのように春風がその場に止まると、ヴァレリーの方へと全身を向けて、
「ああ、申し訳ありませんお客様」
と、本当に申し訳なさそうな表情でそう謝罪すると、
「はじめまして。私はこちらで臨時の店員をしております、『スカーレット』と申します。以後、お見知り置きを」
と、ヴァレリーに向かって笑顔でそう自己紹介した。
それを聞いて、ヴァレリーは目をパチクリとさせると、「ふむ……」と声をもらして、
「ああ、悪かったね。知り合いによく似てたから、てっきり本人と思ってしまったんだ」
と、春風に向かってそう謝罪し、最後に「仕事中に申し訳ない」と付け加えた。
それを聞いて、傍で聞いていたディックとフィオナが「え、えぇ?」と戸惑っていると、
「いえ、お気になさらないでください」
と、春風は笑顔でそう言い、
「注文はお決まりですか?」
と、最後に付け加えるように、ヴァレリーに向かってそう尋ねた。
それに対して、ヴァレリーが「そうだな」と呟くと、
「それじゃあ、仕事の邪魔をしてしまったお詫びに、オススメの酒を1つ頼むよ」
と、春風に向かってそう注文し、それを聞いた春風は、
「『オススメ』ですか? うーんすみません、ちょっと店長に聞いてきますので、少しお待ちください」
と、ヴァレリーに向かってそう謝罪した後、ナンシーのもとへ向かった。
そんな春風を見送ると、
「うーん、中々の接客でしたね」
「ええ、そうですね」
と、フレデリックとオードリーがそう口を開いたので、
「う、うーん確かに。私もあそこまで言われて、ついのっちまったよ」
と、ヴァレリーは「うんうん」と頷きながらそう言うと、
「なぁ、2人はどう思って……?」
と、チラッとディックとフィオナに視線を向けたが、
「「……」」
2人とも頬を赤くしてボーッとしていたので、
「お、おーい2人共、戻ってこーい」
と、ヴァレリーが恐る恐る声をかけると、
「「はっ! す、すみません!」」
と、ディックとフィオナはハッとなってヴァレリーに向かって謝罪した。
そんな2人に、ヴァレリーが「あはは、気にするな」と言うと、
「あ、レナ!」
と、近くにレナがいたので、その声に気付いたレナはヴァレリーのもとに寄って、
「お客様、どうかなさいましたか?」
と、ヴァレリーに向かってそう尋ねた。
その質問に対して、ヴァレリーは「ちょっといいかい?」とレナに向かって手招きすると、レナは「ん?」と首を傾げながらヴァレリーのすぐに傍まで顔を近づけた。
その後、
「なぁ、レナ。あいつって、あの姿だとあんな感じになるのか?」
と、ヴァレリーはチラッとナンシーと話をする春風を見ながら、レナに向かって小声でそう尋ねると、
「うーん、私もまだこれを含めて2回しか見てないからなんとも言えないけど……ああでも、春風、実家が『喫茶店』だって言ってた」
と、レナも小声でヴァレリーに向かってそう答えたので、
「ほうほうなるほど。それで接客が上手いのですね」
と、いつの間にか傍で聞いていたフレデリックが納得の表情を浮かべた。
勿論、その近くにはオードリーやタイラー、アーデ、そしてエリック達もいて、皆、レナの話を聞いていた。
その後、
「お待たせしました……」
と、春風がナンシーの所から戻ってきたが、
「あのー、レナ? お客様?」
と、レナに複数の人達が群がってる状況を見て、「おや?」と首を傾げながらそう尋ねたので、それに気付いた人達はハッとなってもといた場所へと戻った。
それを見て、春風は更に首を傾げたが、
(ま、いっか)
と考えて、
「お客様、お待たせしました。店長によりますと、本日のオススメは……」
と、ヴァレリーに「本日のオススメ」を教えた。
当然、それにつられるように、
「す、すみません! 僕達も注文をお願いします!」
と、ディックが「はい!」と手を上げながらそう言い、それに続くようにフィオナも「うんうん!」と頷いたので、春風はヴァレリーの注文のついでに、ディックとフィオナの注文も聞くことにした。
それから暫くの間、春風はキチンとした接客で、ヴァレリー達だけでなくフレデリックやオードリー達からの注文に応えて、彼らに楽しいひと時を過ごさせた。
ただ、その間、とある視線が春風に向けられていたが、肝心の春風は気付いてないのか、もしくは気付いたうえで、敢えて気付かないフリをしているのか、いずれにしても特に問題なさそうな態度で接客をこなしていった。
そして、
「お疲れ様春風、そしてレナ。今日はもうあがっていいからね」
と、ナンシーにそう言われたので、
「「わかりました、お疲れ様でした」」
と、春風とレナはそう返事した後、帰り支度をしてナンシーの店を出た。
その後、歓楽通りから商店通りを抜けると、
「じゃあね春風。また明日」
「うん、おやすみレナ」
「おやすみなさいレナ様」
と、そこでレナと別れて、春風とグラシアは「白い風見鶏」へと向かった。
だが、
「……」
そんな彼らに、複数の不穏な足音が近づいていた。




