第237話 「グラシア・ブルーム」という女・幼少期編
元・固有職保持者、現・幽霊のグラシア・ブルーム。
彼女の口から語られたのは、あまりにも壮絶な「自身の人生」だった。
エルードの辺境の地にある小さな村。グラシアはそこで生まれ、優しい両親や近所の人達に囲まれて、幸せな日々を送っていた。
しかし、グラシアが5歳の時……その幸せな日々は少しずつ狂い始めた。
ある日、グラシアは父親が偶々目の前で「ステータス」を展開していたのを見て、
「私も自分のが見たい!」
と言ったので、
「15歳になったら見れるから」
と、グラシアの母親は、「あらあら……」と困ったような笑みを浮かべながらそう言った。
確認の為に一応記すが、この世界に住む人間は、15歳になると成人、つまり「大人」の仲間入りとなり、その際5柱の神々より「成人」となった証である「職能」を授かることになっている。
そして、無事神々より「職能」を授かって「成人」となった時、それを確認出来るように「ステータス」としていつでも見ることが出来るようになる。
これが、現在のエルードの住人なら誰もが知っている「一般常識」で、当然グラシアの両親もその「一般常識」を知っているのだが、幼いグラシアにはそれが理解出来てなく、母親の言葉にカチンときたのか、「むぅ」と頬を膨らませると、
「やだやだ! 今すぐ私も見たいいい!」
と、駄々をこね始めたので、両親は困った顔を浮かべていると、
「ステータスオープン!」
と、グラシアは大声で叫ぶようにそう唱えたので、
(いやいや、出るわけないって……)
と、それを見た父親は心の中でそうツッコミを入れ、母親は「あらあら……」と更に困った顔を浮かべた。
ところが……。
ーーブオン。
「あ、出てきた!」
「「うっそぉ!」」
なんと、グラシアの目の前に「ステータス」が出てきたので、グラシア本人と両親は目を大きく見開いた。
目の前に現れた「ステータス」。そこには、こう記されていた。
名前:グラシア・ブルーム
種族:人間
年齢:5歳
性別:女
職能:時読み師
レベル:1
所持スキル:「無限倉庫」「過去読み」「今読み」「先読み」
称号:「固有職保持者」
初めて見た自身の「ステータス」に、
「わぁあ! すごーい!」
と、グラシアは両手を上げて喜んでたが、
「そ……そんな……」
「どうして……!?」
反対に、グラシアの両親はショックで顔を真っ青にした。
そんな様子の両親を見て、
「ど、どうしたの?」
と、流石に不安になったグラシアがそう尋ねると、
「グラシア、その『ステータス』のことは絶対に誰にも言っちゃ駄目だ! 勿論、スキルを使うのも駄目だからな!」
と、父親にガシッと両肩を掴まれながらそう言われたので、
「ええ!? な、なんで!?」
と、驚いたグラシアが再びそう尋ねると、
「それはね、その『ステータス』のことを言っちゃうと……黒い鎧を着た怖い人達に酷いことをされちゃうからよ」
と、母親が真剣な表情でそう答えた。
両親のあまりの様子に、グラシアは幼いながら「只事ではない」と感じたのか、
「う、うん……わかった」
と、コクリと頷きながらそう言い、それ以来グラシアは、自身の「ステータス」のことを周りに内緒にするようになった。
それから5年の月日が流れ、グラシアは10歳になった。
その頃にはグラシアも、多くはないが中のいい同年代の友達も出来ていて、いつも家の手伝いしつつ、その友達と元気に遊ぶようになった。
だが、元々好奇心があったのか、グラシアは初めて自身の「ステータス」を知ってから、両親が言った言葉の意味や、自身がどういう力に目覚めたのか、幼いながら少しずつ調べていた。
その結果わかったことは、どうやら自分が目覚めたのは、他人や物に刻まれた「過去の記憶」と、現在自身の周りで起きてること、そして、ほんの少しだけ先の「未来」を見ることが出来るという能力で、それはこの世界の住人……もっと言えば5柱の神々にとって、「悪魔の力」と呼ばれているということだったので、
(ど……どうしよう。こんなの、誰にも言えるわけないじゃない!)
と、グラシアはその時になって漸く両親が言った言葉の意味を理解し、自身の「力」のことがバレた時のことを考えて恐怖し、ますます自身の「力」が周りにバレないように努力していった。
しかし、その努力も虚しく、とうとうある日、仲のいい友達を助ける為に「時読み師」の力を使ってしまい、しかも最悪なことに、その時近くに五神教会の信者もいたので、あっという間に自分が「悪魔の力」を持つ「固有職保持者」であることがバレてしまった。
そしてそれから暫くすると、5歳の時に母親が言ったように、村に「黒い鎧を着た怖い人達」、即ち「断罪官」が来て……「悲劇」が始まった。
燃え盛る炎に次々と家が焼かれ、逃げ惑う村人達は1人、また1人と「断罪官」の隊員達に殺されていった。当然、その中には優しかった近所の人達や、仲が良かった友達も含まれていて、皆、グラシアの目の前殺された。
そして、
「2人共、早く逃げろ!」
と、グラシアの父親もまた、グラシアと母親を逃す為に断罪官の隊員の1人に立ち向かったが、
「グアアアアア!」
力及ばず、彼も殺されてしまい、それを見て、
「お、お父さぁあああああん!」
と、グラシアは悲鳴をあげたが、
「グラシア、逃げるわよ!」
と、母親に手を引かれて、グラシアはその場から逃げ出した。
しかし、断罪官からそう簡単に逃げられるわけもなく、
「グラシア、走って! 走って逃げるのよ!」
「お、お母さん……!」
グラシアの母親は、グラシアを逃す為に父親と同じく断罪官に立ち向かい、
「アアアアア!」
彼女もまた、断罪官に殺された。
母親の死を目撃して、
「お、お母さん……」
と、グラシアは顔を真っ青にしたが、今は逃げることを優先してその場から必死になって走った。
そして暫く走っていると、激しく流れる大きな川の前に出たので、グラシアは決死の覚悟でその川に飛び込み、見事、断罪官の追跡から逃げることに成功した。
その後、無事に川から脱出すると、
「お、お父さん……お母さん……」
と、グラシアは漸く両親が死に、仲がよかった友達や、大好きな村の住人達も死んでしまったと理解して、
「私の所為だ……私の……所為……」
と、震えた声でそう呟くと、
「う……うわぁあああああああん!」
最後、大きな声で泣き叫んだ。
こうして、グラシアは10歳で「全て」を失った。




