第235話 立ち去った後
春風達のもとから立ち去った後、ギデオン率いる断罪官はギルド総本部前に停めていた馬に跨って、その場を後にした。
それから少しして、通りを進んでいる最中に、
「大隊長」
と、ギデオンの傍の若い男性騎士がそう声をかけてきたので、
「む、どうしたルーク副隊長?」
と、ギデオンがそう返事すると、
「自分、あの『春風』という少年に途轍もなく危険なものを感じたのですが……」
と、「ルーク副隊長」と呼ばれた男性騎士……以下、ルークが少し自信のなさそうな声色でそう言った。
そんなルークの言葉に対して、
「ほう、貴様もそう感じたか」
と、ギデオンが少し目を大きく見開きながらそう返事すると、
「確かに、あのような華恋な少女のような顔付きをしておきながら、この私に対して見事な殺気を放っていた」
と、先程対峙していた少年ーー春風のことを思い出しながらそう言った。
その言葉を聞いて、ルークだけでなく他の断罪官の隊員達までもが同様したかのようにゴクリと唾を飲むと、
「それだけではない。腰の剣を引き抜く体勢に入った時の奴の瞳には若干の迷いが含まれていたが、それに負けないくらいの、『邪魔をするなら容赦なく斬る』という強い『信念』と『覚悟』が込められていた。私も長いことこの仕事を務めていたが、あのような人間に出会ったことなど一度もなかった」
と、ギデオンはそう話を続けたので、
「だ、大隊長がそこまで感じたとは……」
と、その話を聞いたルークは少し動揺したかのようにそう返事し、隊員達は皆タラリと汗を流した。
しかし、
「だがルーク副隊長。そして隊員達よ。如何なる者が相手だろうと、我々は決して引くわけにはいかない。もしこの先、あの少年と戦うことになれば、我々は全力で奴と戦い、そして勝つ。それが、我ら『断罪官』だ」
と、ギデオンは真っ直ぐ前を見つめながら更にそう話を続けたので、
「ええ。その通りです、大隊長」
と、その話を聞いたルークはキリッとした表情でそう言い、そんなルークに続くように、隊員達も表情をキリッとさせた。
そして、ルークの返事を聞いて、ギデオンは安心したかのように「ふ……」と笑うと、
「それはそうとルーク副隊長」
と、口を開いたので、その言葉にルークが、
「はい、何でしょうか?」
と、返事すると、
「あの方はまだハンターなどをしていたな」
と、ギデオンがとある人物についてそう言ってきたので、
「そうですね。いい加減、ご自身がどういう人間か、今一度考えるべきだと思うのですが……」
と、ルークはそう返事した後、「はぁ」と溜め息を吐いた。
すると、ギデオンはそんなルークをチラッと見て、
「そうだな。ならば、あの方に直接言うか?」
と、ニヤッとしながらそう尋ねたが、
「謹んでお断りします!」
と、ルークはハッキリとそう拒否するように答えたので、
「ぬぅ。あの方は貴様よりも身分は高いのだがなぁ……」
と、ギデオンは「む!」と微妙な表情を浮かべながらそう呟いた。
さて、一方残された春風達はというと、
「もーう! 春風ったらぁ!」
「あ、あぁにぃきぃいいいいい!」
と、レナは春風に向かってプンスカと怒鳴り、ディックは春風の手をとってわんわん泣きながらそう叫んでいたので、
「ご、ごめんって2人とも」
と、春風はそんな2人を見て困ったような表情を浮かべながら謝罪した。
更に、
「春風さん! 幾らなんでも、断罪官の大隊長になんて真似を!」
「春風、反省して!」
と、フィオナとアーデにも叱られてしまったので、
「は、はい、すみません」
と、春風はシュンとしながら2人にも謝罪した。
すると、
「いやー、面白いものを見させてもらいましたよ」
という何処か明るい感じの声が聞こえたので、その声に春風達が「え?」と反応すると、
「やあ、おはようございます皆さん」
と、目の前の建物の影からフレデリックがヒョコッと顔を出してきたので、
「あ、総本部長さん、おはようございます」
と、春風もそう挨拶を返すと、
「私達もいるぞ」
「ええ、いますよ」
と、フレデリックの背後からヴァレリーとタイラーも顔を出してきたので、
「あ、お二人もおはようございます」
と、春風は2人にもそう挨拶した。
その後、フレデリック、ヴァレリー、タイラーが春風達と合流すると、
「あの、皆さんいつから見てました?」
と、春風がフレデリック達に向かって恐る恐るそう尋ねてきたので、その質問に対して、
「勿論、あなたがギデオン大隊長に対して見事なボケをかました辺りからですよ」
と、フレデリックはニコッとしながらそう答えると、
(ボケたつもりはないんだけどなぁ……)
と、春風は「むー」としながら心の中でそう呟いた。
しかし、その後すぐに、
「まぁ、冗談はさておき春風さん」
と、フレデリックが真面目な表情でそう言ったので、
「はい、何でしょうか?」
と、春風がそう返事すると、
「先程のあなたのギデオン大隊長に対する姿勢はとても見事でした。その上でお尋ねしますが、もし、あなたが彼と戦うことになったら、勝てると思いますか?」
と、フレデリックは真剣な表情のままそう尋ねてきたので、
「無理ですね。今の俺があの人と戦ったら、確実にあの人に殺されるでしょう」
と、春風はそう即答した。
その答えにレナやディックが「そんな!」とショックを受けたが、そんな2人に構わず、
「なるほど、あなたもそう感じましたか」
フレデリックが「でしょうね」と言わんばかりの少し暗い表情でそう言ったので、それを聞いた春風は、
「ええ、出来ることなら、もう2度と対峙したくはないですね、こちらの『仲間』に出来ればとも考えましたが、残念なことに今の俺には、あの人の心を動かすほどのメリットを示すことは出来ませんし」
と、本気で悔しそうな表情でそう返事した。
因みに、そんな春風の返事に対して、
『いや、ぶっ飛びすぎるでしょ!?』
と、フレデリックを除いたその場にいる者達全員がツッコミを入れた。
そんな彼・彼女達を他所に、
「ほっほっほ。それは確かに残念ですねぇ」
と、フレデリックが笑いながらそう言うと、
「はぁ。それにしても、あの人達はいつまでここにいるんでしょうね? このままだと何も仕事出来ないじゃないですか」
と、春風は「断罪官がいる」という状況に対して文句を言ったので、
「ああ、それでしたらご安心ください」
と、フレデリックは何かを思い出したかのようにそう口を開いた。
その言葉に対して、春風が「え?」と首を傾げていると、
「実は断罪官の皆様が来る前にナンシーさんがこちらに来て、春風さん、あなたに対して指名依頼をしました」
と、フレデリックがまたニコッとしながらそう答えたので、それにはるかが、
「ええ!? 本当ですか!?」
と、春風は「よかったぁ!」と言わんばかりに表情を明るくすると、
「まぁ、正確に言いますと、『春風さん』にではなく『スカーレットさん』に対してなのですが」
と、フレデリックがそう話続けたので、それを聞いた春風は思わず、
「げっ!」
と、本気で嫌そうな表情を浮かべた。
謝罪)
大変申し訳ありませんでした。前回投稿した話ですが、実は「書き忘れた部分」がありましたので、誠に勝手ながら、内容に追加をさせてもらいました。
本当にすみません。




