第232話 「断罪官」という者達
それから間もなくして、春風達はギルド総本部の近くに着いた。
その後、春風はギルド総本部から少し離れた位置にある建物の影からひょっこりと顔を出して、そのギルド総本部の前をジッと見つめると、そこには先程春風達の前を通り過ぎていった「断罪官」という連中が乗ってた馬数頭と、その馬を守るように、黒い鎧を纏った騎士……以下、黒騎士が2、3人いたので、
(うーん、これじゃあなんとなく入り辛いな。よく見ると他のハンターや住人達の姿もないし)
と、春風は「どうしたもんか」と言わんばかりの困った表情を浮かべながら、心の中でそう呟いた。
確かによく見てみると、総本部前に黒騎士が2、3名いるだけで、他のハンターどころか一般人の姿もなかったのだ。
いや、近くの建物の窓からギルド総本部前を見つめる者達はいるのだが、その一部の表情は何処か怯えているのかのようだったので、
(うーむ、あの怯えよう。あの連中のことがそんなに怖いのかなぁ?)
と、春風は首を傾げながらそう疑問に思った。
すると、
「あ、兄貴……」
と、春風の後ろにいたディックが、春風のマントを少し引っ張りながらそう声をかけてきたので、
「ん? ディック、どうしたの?」
と、春風がそう反応すると、
「ヤバいですって! すぐにここから離れた方がいいですって!」
と、ディックは小声で「ここを離れよう」と言ってきた。そしてディックの背後では、ディックの双子の妹フィオナが「うんうん!」と首を何度も縦に振っていた。
2人とも怯えているのか、顔を真っ青にして全身をブルブルと震わせていたので、
(え、えぇ? 一体どうしたんだ?)
と、春風が首を傾げていると、
「春風、2人の言う通りにしよう」
と、レナが真剣な表情で春風を見つめながらそう言ってきた。
そんなレナを見て、春風は漸く「これは只事ではないな」と感じたので、
「わかった、一旦ここから離れよう」
と、レナ達に向かってそう言うと、レナはコクリと頷き、ディックとフィオナはすぐに表情を明るくして「はい!」と返事した。
その後、春風達はすぐにその場から離れると、商店通りの裏路地の一角に移動した。
そして、春風は周りに自分達以外誰もいないのを確認すると、
「で、レナ、ディック、フィオナさん。早速で申し訳ないけど、『断罪官』ってどういう連中なの?」
と、レナ達に向かって改めて「断罪官」について尋ねた。
その質問に対して、
「本当に知らなかったんですか?」
と、フィオナが若干呆れ顔でそう尋ね返してきたので、
(な、何だろう? 言葉の端にトゲがある気がするんだけど?)
と、春風はそう疑問に思ったのだが、それを言葉や表情に出さず、
「ごめんなさい。どうも俺、今の世間の常識に疎いものでして……」
と、申し訳なさそうな表情で、フィオナに向かって謝罪した。
その謝罪を聞いて、フィオナが「そうですか」と呟くと、
「異端者討伐部隊『断罪官』。別名『虐殺部隊』とも呼ばれている部隊で、その名の通り、主な任務は教会……というより、『5柱の神々』にあだなす『異端者』を抹殺することなんです」
と、春風に向かって「断罪官」についてそう説明した。
その説明を聞いて、
「ぎ、『虐殺部隊』? それはまた、随分と物騒な呼び名だね」
と、春風が若干ドン引きしていると、
「当然ですよ兄貴! これは、『紅蓮の猛牛』の先輩達から聞いた話なんですけど、あいつら一度『異端者』を見つけると、問答無用で殺しにかかるだけじゃなく、その『異端者』の周囲の人間達までぶっ殺すんですから!」
と、ディックが目をクワッとさせながらそう言ってきたので、
「え、えぇ何それ? それって親兄妹もってこと?」
と、春風が再びドン引きしながらそう尋ねると、
「もっとですよもっと! それこそ、その『異端者』とちょっとお話ししただけの人間から、ちょっと体に触れただけの人間だって、連中にとってぶっ殺す対象なんですから! つい最近なんて、異端者が中を通ったってだけで村1つ滅ぼされたんですからね! 村に住む男性や女性、子供や老人、更には生まれたばかりの赤ん坊だって連中に1人残らずぶっ殺されたそうなんですよ!」
と、ディックは更に目をクワッとさせながらそう答えた。
その答えを聞いて、
「はぁ!? 何だよそれ!? 何でそんなことになっちまうんだよ!?」
と、春風はディックに向かって彼の両肩をガシッと掴みながらそう尋ねた。
その質問に対して、
「そ、それは……」
と、ディックが答えようとすると、
「『異端者』とは世界の穢れ。その穢れを持つ者、もしくはそれに触れた者は、たとえ何者だろうと『神々』のもとへと送る。それが『断罪官』である」
という声が聞こえたので、その声にハッとなった春風達が、一斉に声がした方へと振り向くと、
『あ、アーデさん!』
「やぁ、おはよう」
そこにはレギオン「黄金の両手」リーダー、タイラーの助手のアーデがいた。
アーデは驚く春風達に軽く挨拶をした後、すぐに春風達のところに近づいた。そんな彼女に向かって、
「お、おはようございますアーデさん。どうしてアーデさんがここに……?」
と、春風が恐る恐る尋ねると、
「偶々見かけたから、後つけてきた」
と、アーデはビシッと親指を立てながらそう答えたので、
(ええ? 本当かよ?)
と、春風はタラリと汗を流しつつそう疑問に思ったが、その後すぐに、
(いやいや、今はそんなこと考えてる場合じゃないな)
と考えて、
「アーデさん、先程のあなたのセリフって……?」
と、アーデに向かってそう尋ねることにした。
そんな春風の質問を聞いて、
「今言ったのは『断罪官』達の理念……いや、『信念』と言うべきもの。彼らは『神々』だけでなく、この『信念』のもとに活動しているの」
と、アーデは淡々とした表情でそう答えたので、それに春風が「な、なるほど……」と納得していると、
「……そんな連中が、一体何しにここに来てるの?」
と、それまで黙って話を聞いていたレナがそう尋ねてきたので、それを聞いた春風、ディック、フィオナが「あ、そういえば!」と言わんばかりに目を大きく見開いていると、
「それは……」
と、アーデはそう口を開いた後、すぐにハッとなって周りをキョロキョロと見回した。
そして、自分達以外誰もいないのを確認すると、「よし」と頷いて、
「これ、とある筋からの情報なんだけど……」
と、周囲を警戒しつつ小声でそう言ってきたので、その言葉に春風がゴクリと唾を飲むと、
「どうも彼らの中から、『裏切り者』が出たらしいの」
と、アーデは真剣な表情でそう言った。




