第229話 新たな「宿泊客」?
「実は、今日仕事を終えてフロントラル戻った時のことなんですけど、すっごく怪しい3人組を見たんですよ」
と、レベッカに向かってそう言った春風。そんな春風の言葉を聞いて、
「へぇ、どんな3人組なんだい?」
と、レベッカが首を傾げながらそう尋ねると、
「後ろ姿を見ただけなんですけど、3人とも凄くボロボロになったマントを羽織っていて、足取りも何処かフラフラしてたんです。で、『何だあれ?』って思ってその3人組を見ていたら、その人達、目の前の馬車にいきなり乗り込んだんです。それも、周りに気付かれないように」
と、春風は周りに聞かれないように注意しながらそう答えたので、
「そりゃほんとかい?」
と、レベッカが真剣な表情で再びそう尋ねてきて、それに春風は「はい」と頷いた。
すると、
「……その後、どうなった?」
と、春風の話を聞いていたデニスが恐る恐るそう尋ねてきたので、
「3人組を乗せたまま、その馬車はフロントラルの門を潜っていきました。それを見て嫌な予感がした俺は、すぐに馬車を追いかけて門を潜り、何とかその馬車を見つけたのですが、既に3人組の姿はありませんでした」
と、春風は表情を暗くしながらそう答えると、
「そいつはヤバいな。で、そいつら何か盗ったりとかしてたのかい?」
と、レベッカが真剣な表情でそう尋ねてきたので、それに春風が「いいえ」と首を左右に振りながら返事し、
「馬車の持ち主さんから話を聞きましたが、何も盗られてなかったそうです」
と、最後にそう付け加えた。
その言葉を聞いて、
「なるほど。つまりその3人組の目的は馬車の積荷を盗むことじゃなくて、都市内部に入ることなのかもしれないねぇ」
と、レベッカは考える仕草をしながらそう言い、それに続くように、
「だろうな」
と、デニスも真剣な表情でそう言った。
その後、
「で、その後アンタはどうしたんだい?」
と、レベッカがそう尋ねてきたので、
「はい、その後俺達はフレデリック総本部長さんにその時のことを報告しました。近くにはヴァレリーさんとタイラーさん、それとオードリー市長さんもいましたから、皆さんの耳にも話は入ってます」
と、春風が真面目な表情でそう答えると、
「おお、ほんとかい!? 総本部長だけでなく市長の耳にも入ってるとはねぇ!」
「ああ。それならすぐにその怪しい連中も見つかるだろうな」
と、レベッカとデニスは表情を明るくした。
そんな2人を見て、
「あの、レベッカさん。今俺が話したことなのですが、一応レベッカさん達にの耳にも入れておこうと思って……」
と、春風が若干気まずそうにそう口を開いたので、
「ん? ああ、ありがとうね春風。私達の方でも、今アンタが言った話は他の宿屋経営者仲間や食堂経営者仲間にも伝えておくから」
と、レベッカがグッと親指を立てながらそう返事し、それを聞いた春風は、
「ありがとうございます。凄く心強いです」
と、レベッカとデニスに向かって深々と頭を下げた。
すると、
「ちょっといいかな?」
という声が聞こえたので、春風、レベッカ、デニスの3人が「ん?」とその声がした方へと振り向くと、そこは春風達から少し離れた位置にあるテーブル席で、その椅子には3人の人物が座っていた。
全員一般市民が着るようなシンプルな衣服に身を包んでいて、1人は20代前半くらいのショートヘアをした気の強そうな女性、1人は見たところ春風と同じ年頃くらいの、長い髪を三つ編みにした少女、そして、最後はその少女よりも幼そうな雰囲気をした少年だった。
そんな3人を見て、
「あの、何か御用ですか?」
と、春風が恐る恐る尋ねると、
「すまない、私は少々耳がいいのでね、先程君がしていた話が聞こえたんだ」
と、ショートヘアの女性がそう答えたので、
「え? あぁ、すみません。もしかして、気分を害されてしまいました?」
と、春風は謝罪しながら恐る恐るそう尋ねると、
「いや、心配しないでくれ。実を言うと私達、今日このフロントラルに来たばかりなんだ。ついでに、この宿屋にもね」
と、ショートヘアの女性は春風の質問に対して「気にしないで」と言わんばかりにニコッとしながらそう答えた。
その答えを聞いて、春風はレベッカに向き直ると、
「ああ、そうだよ。彼女達は今日ここに来たばかりで、部屋も用意してあるんだ」
と、レベッカはコクリと頷きながら小声でそう言ったので、春風は「なるほど」と呟くと、再びショートヘアの女性の方を振り向いて、
「そういうことでしたら、皆さんも気をつけた方がいいと思います。最近は色々と物騒ですから」
と、ニコッとしながらそう忠告した。
それを聞いて、
「ああ、肝に銘じておくよ」
と、ショートヘアの女性がそう言うと、三つ編みの少女と幼い少年と共に椅子から立ち上がって、
「すみません、これ、ここに置けばいいでしょうか?」
と、春風がいるカウンター席のテーブルーー勿論、春風から離れた位置ーーに、先程まで自分達が食べていたlと思われる空の皿などを置きながらそう尋ねてきたので、
「……ああ、構わない」
と、それを見たデニスはそう答えた。
その後、ショートヘアの女性が「では」と呟くと、三つ編みの少女と幼い少年と共に食堂を出ていった。
そして、残された春風はというと、
「何だったんですか? あの人達」
と、春風が首を傾げながらそう尋ねると、
「さ、さぁ?」
と、レベッカも首を傾げながらそう答えた。
一方、ショートヘアの女性と三つ編みをした少女、そして幼い少年の3人は、階段を静かに上がった後、3階で止まり、そこから階段の外の廊下を歩いた。
そして、とある1つの部屋の扉の前に止まると、持っていた鍵で扉を開けて、3人一緒に部屋の中に入った。
部屋の中にはベッドが3つに、少し派手だがシンプルな見た目をした机と椅子があった。
そして、3人がそれぞれベッドに腰掛けると、
「はぁ」
と、ショートヘアの女性がそう溜め息を吐いたので、
「ね、姉さん、どうしたの!?」
と、三つ編みの少女がそう尋ねると、
「ん? ああ、心配ないよ。大丈夫だから」
と、ショートヘアの女性がニコッと笑いながらそう答えたが、ふと椅子の上に置いた革製の鞄が視界に入ったので、ショートヘアの女性がベッドから立ち上がると、その椅子に近づいて、そこには置かれた鞄を手に取ると、そこから1枚の大きな布を取り出して、
「まさか、見られてたとはなぁ……」
と、ショートヘアの女性はその大きな布……否、ボロボロになったマントを見つめながらそう呟いた。




