第227話 フレデリック達への「緊急報告」
本日はいつもより長めの話になります。
それから春風達は、大急ぎでギルド総本部へと向かった。
そして、総本部に着いた後、今日の仕事終了の報告をすると、ギルド職員に、
「すみません、フレデリック総本部長に話したいことがあるのですが……」
と、頼み込んだが、
「申し訳ありませんが、総本部長はただいま来客がありましてすぐには対応出来ません」
と、申し訳なさそうな表情で謝罪されながら断られてしまったので、
(え、参ったなぁ……)
と、春風が困った表情を浮かべていると、
「おや、春風さん達ではありませんか」
という声がしたので、春風達が「え?」とすぐに声がした方へと振り向くと、
「あ! フレデリック総本部長さん!」
そこには目的の人物であるフレデリックの姿があって、
「……って、オードリー市長さんに、ヴァレリーさんやタイラーさんもいる!?」
「よう」
「やぁ、お仕事お疲れ様」
更に彼の傍には、フロントラル市長のオードリーと、レギオン「紅蓮の猛牛」リーダーのヴァレリー、そしてレギオン「黄金の両手」リーダーのタイラーの姿もあったので、それを見た春風は大きく目を見開きながら驚いた。
その後、春風達がフレデリック達と合流すると、
「あの、失礼を承知でお尋ねしますが、オードリー市長さんがこちらにいるということは、来客って……?」
と、春風が恐る恐るフレデリックに向かってそう尋ねてきたので、
「ええ、私がそうですよ」
と、フレデリックではなくオードリーが「ふふ」と笑いながら答えた。
それを聞いて、
「あ、やっぱりそうでしたか……」
と、春風は納得したが、すぐにハッとなって「コホン!」と咳き込むと、
「フレデリック総本部長さん、無礼なのは承知ですが、実は……」
と、フレデリック達に門の外で見た怪しい3人組のことを話した。
その話を聞いて、
「……なるほど、それは確かに一大事ですね」
と、フレデリックが真剣な表情でそう口を開き、それに続くように、
「ええ。目的が馬車の荷物を盗むことじゃなく、この都市に入ることだとすると、住人達が危険ですね」
と、オードリーもフレデリックと同じく真剣な表情でそう言った。
その後、
「なぁ春風。ボロボロのマントを羽織ってる以外で、その3人組の特徴とかわからないか?」
と、ヴァレリーにそう尋ねられたのだが、
「はい、離れた位置で見ただけでしたが、3人の背丈でしたらなんとか……」
と、春風は申し訳なさそうにそう答えたので、
「お、どれくらいだ?」
と、ヴァレリーが再びそう尋ねると、
「まず、1人はヴァレリーさんと同じくらいで、2人目が幼い子供と思われるくらいの小柄。そして3人目は1人目と2人目の中間くらいでした」
と、春風はハッキリとそう答え、最後に、
「すみません、俺に説明出来るのはここまでで……」
と、申し訳なさそうな表情でそう付け加えた。
その言葉を聞いて、ヴァレリーが「そうか」と返事すると、フレデリックが1歩前に出て、
「春風さん、わざわざ知らせてくれてありがとうございます。その3人組は私達の方でどうにかしますので、皆さんはお仕事に励んでください」
と、ニコッ穏やかな笑みを浮かべながらそう言い、
「ただ、もしかすると皆さんにも手伝ってもらうかもしれませんが……」
と、最後にそう付け加えた。
それを聞いて、ヴァレリーが「おいおい……」と小さくツッコミを入れると、
「そうだな。私の方でも警戒するようにメンバーに伝えておくよ」
と、春風に向かって真面目な表情でそう言い、それに続くように、
「ええ。僕の方でも、メンバーの他に関わりのある職人達にもお伝えします。彼らに危険が迫ってるのかもしれませんから」
と、タイラーも同じく真面目な表情でそう言ったので、
「ありがとうございます、総本部長さん、ヴァレリーさん、タイラーさん。よろしくお願いします」
と、春風はフレデリック達に向かって深々と頭を下げた。
すると、
「春風さん、ちょっといいかしら?」
と、オードリーが手招きしながらそう声をかけてきたので、春風は「何だろう?」と首を傾げながらオードリーの傍に近づくと、そのまま壁際の方へと連れ込まれたので、
(え、何何何!?)
と、春風が不安そうな表情を浮かべると、
「実はですね……」
と、オードリーは春風の耳もとに顔を近づけて、周りに聞こえないように小声でとあることを告げた。
それを聞いて、
「……それ、本当ですか?」
と、春風が真剣な表情でオードリーに向かってそう尋ねると、オードリーは黙ってコクリと頷いたので、春風は「ふぅ」とひと息入れると、
「わかりました、気をつけるようにします。教えてくれて、ありがとうございました」
と、オードリーに向かって深々と頭を下げた。
一方、残されたレナ、ディック、フィオナ、そしてフレデリック、ヴァレリー、タイラーはというと、
「ところでディックにフィオナ」
と、ヴァレリーが話しかけてきたので、
「「は、はい、何でしょうか?」」
と、ディックとフィオナが同時にそう返事すると、
「今日の春風とレナとの仕事、どうだった?」
と、ヴァレリーが真面目な表情でそう尋ねてきた。
その質問に対して、2人が「あ……」と声をもらすと、
「はい、とっても素晴らしい体験でした! 兄貴とレナさん、とっても強かったですし!」
「……そう、ですね。お二人のおかげで、私もお兄ちゃんも、いい経験が出来たと思います」
と、真っ直ぐヴァレリーを見つめながらそう答えた。
ただ、フィオナが若干不貞腐れてる感じだったが。
まぁとにかく、そんな2人の報告を聞いて、
「はは、そうかそうか……」
と、ヴァレリーは笑顔になったが、
「……ん? 『兄貴』?」
と、すぐに「おや?」と首を傾げたので、
「はい、春風さんのことです! 僕、春風さんの『弟子』になりました!」
と、ディックは満面の笑みで元気よくそう答えた。
それを聞いて、
「……」
と、ヴァレリーは少しの間、無言で固まっていると、
「なぁにぃいいいいい!?」
と、目を大きく見開きながら驚きの声をあげた。
それを聞いて、レナやフィオナ、そしてフレデリックやタイラーだけでなく、周りのギルド職員や他のハンター達もギョッと大きく目を見開く中、
「あれ? 皆さんどうしたんですか?」
と、春風がオードリーと共に壁際から戻ってきたので、それに気付いたヴァレリーが、
「春風ぁ!」
と、鬼のような形相で春風に近づいてきた。
そんなヴァレリーの様子に、春風もオードリーも「何事!?」と目を大きく見開いていると、ヴァレリーは春風の両肩をガシッと掴んで、
「テメェ、うちのメンバー奪うとはどういう了見だこらぁ!?」
と、鬼のような形相のまま問い詰めてきたので、それに春風が「は? 何を言って……」と返事しようとすると、ふと視界にディックの姿が入ったので、
(やべ! そういうことか!)
と、どういう状況か瞬時に理解すると、
「ち、違います! 俺はただ、ディックを『弟子』にしたってだけで、あなたから奪ったって訳では……!」
と、ダラダラと滝のように汗を流しながら、ヴァレリーに必死になって弁明したが、
「テメェ、やっぱ『紅蓮の猛牛』に入れ! レナと一緒にうちに入れぇえええええ!」
と、ヴァレリーはユッサユッサと春風を揺さぶりながら勧誘してきたので、
「ちょ、ちょおっとぉ! アンタ何言ってんのよぉ!?」
「そうですよ! 勝手なこと言わないでください!」
と、それを聞いたレナとタイラーが大慌てで止めに入り、
「ほっほっほ、賑やかですねぇ」
「ふふふ、そうですねぇ」
そんな春風達の様子を、フレデリックとオードリーは穏やかな笑みを浮かべて見つめていた。




