第225話 春風、◯◯になる
修正しました。
そして、今回はいつもより長めの話になります。
「春風さん……いえ、師匠! 僕を、あなたの弟子にしてください!」
「はぁ!?」
と、春風に向かって深々と頭を下げたディックの「突然のお願い」を聞いて、驚きに満ちた声をあげた春風。
その後春風は、
(一体、彼は何を言ってるんだ?)
と、自身が何を言われているのか理解出来ずにその場で固まっていると、
「え、待って……アンタ何言ってるの?」
「そ、そうだよお兄ちゃん! いきなりどうしたの!?」
と、レナとディックの双子の妹フィオナも、「訳がわからん!」と言わんばかりの表情でディックにそう尋ねてきたので、春風はそこでハッと我に返って、気持ちを切り替えようとゆっくりと深呼吸すると、
「ディック君。君は一体何を言ってるんですか? もしかして、新手の冗談ですか?」
と、丁寧な口調でディックに向かってそう尋ね返した。
すると、ディックはバッと頭を上げて、
「いいえ、冗談ではありません師匠! 今のあなたの言葉を聞いて、僕は、あなたに弟子入りしたいのです」
と、真っ直ぐ春風を見つめながらそう答えたので、その彼の目を見て、
(あ。これ、もの凄い本気の目だ)
と、春風はそう感じると、再びゆっくりと深呼吸して、
「ディック君、無礼を承知で幾つか質問したいんですけど、いいですか?」
と、真剣な表情でディックに向かってそう尋ねた。
その質問に対して、ディックは「はい、なんなりと!」と返事すると、
「見たところ、ディック君とフィオナさんは俺とレナと同じ年頃くらいに見えますが、お二人は今何歳ですか?」
と、春風はチラッとフィオナに視線を向けながら尋ねた。
その質問に対して、フィオナが「ふえ!?」と戸惑ったが、
「はい、僕とフィオナは共に16歳です!」
と、そんな双子の妹を無視してディックがそう答えたので、
「あ、俺より1つ下でしたか。因みに俺は17です」
と、春風は意外なものを見るような目で言った。
その後、「ちょっとお兄ちゃん……!」と顔を真っ赤にして怒鳴るフィオナを無視して、
「じゃあ次に、お二人は職能を手に入れてから魔物と戦ったりしました?」
と、春風がそう質問を続けたので、それにディックとフィオナは「え?」と反応すると、
「あ、はい。僕と妹は職能を授かってから半年後にハンターになりました。そして、今日まで、結構魔物と戦いましたが……」
「私もお兄ちゃんもまだ未熟で、よく怪我とかしたり、他のハンターに迷惑かけちゃいましたけど、頑張ってレベルを上げてスキルも磨いて、そして今年、ヴァレリーさんに認められて、『紅蓮の猛牛』に入ったんです」
と、2人が職能を授かってからハンターになり、現在に至るまでの経緯を話した。
その話を聞いて、
「そうだったんですか」
と、春風が納得の表情を浮かべると、
「じゃあ最後ですが、お二人は今階級はどうなってるんですか?」
と、2人に向かってそう尋ねたので、その質問に対して、
「「後少しで銀級に上がります」」
と、ディックとフィオナは同時にそう答えた。
その答えを聞いて、春風は「そうですか」と呟くと、
「申し訳ありませんが、俺ではディック君の『師匠』にはなれません」
と、ディックに向かって深々と頭を下げたので、
「ええ!? どうしてですか!?」
と、ディックは「ガーン」とショックを受けながらそう尋ねてきた。
その質問に対して、
「いや、だって俺、つい最近ハンターになったばかりの新人ですから、階級はこの中で一番低いですし、魔物との戦闘経験だって全然ないですし、色々と世間知らずなとこだってありますから……」
と、春風が「いやいやいや……」と大袈裟に手を振りながらそう答えると、
(おまけに異世界人で、固有職保持者で、それどころか人間辞めてるし……)
と、心の中でそう呟き、
「それに俺、自分で言うのもなんですけど、そこまで凄い存在じゃないですし……」
と、最後にシュンと落ち込みながらそう付け加えた。
すると、
「そ、そんなことありませんよ! 一昨日のデッド・マンティスを真っ二つにした剣技凄かったですし、その翌日ヴァレリーさんに言った『死ぬのが怖くないなんて綺麗事だ』という言葉と、その言葉に込められた『想い』というか『信念』はとても感動しましたし、おまけに今日の戦いぶりや今の師匠の話を聞いて、『僕はこの人の弟子になりたい』って強く思ったんですから!」
と、ディックが真っ直ぐ春風を見て鼻を「フン!」と鳴らしながらそう言ってきたので、
「え、えぇ? ちょ、ちょっと待って……」
と、春風はその勢いに呑まれそうになりながら、
(ど、どうしよう。何か……何か言わないと……)
と、断る理由を必死になって考えていると、
「いいじゃない春風」
と、それまで黙って話を聞いていたレナがそう口を開いたので、
「え? れ、レナさん? 一体何を言ってるのですか?」
と、その言葉に反応した春風が恐る恐る尋ねるように返事すると、
「だって、彼こんなにも春風のこと尊敬してるみたいだし、だったら『弟子』にしてあげたらいいんじゃないかな?」
と、レナはチラッとディックを見ながらそう答えたので、
「いやいやいや、『弟子にしてあげたら』って、そんな他人事みたいに言わないでよ! 俺、彼に何を教えたらいいんだよ!?」
と、春風は大慌てでレナの肩を掴みながらそう尋ねた。
その質問に対して、レナは「え? うーん」と考え込むと、
「ちょっと失礼」
と言って春風の手を握ると、その手を引っ張りながら歩き出した。
そして、ディックとフィオナから少し離れた位置に着くと、春風の耳元に顔を近づけて、
「『元の世界』で、春風が身につけてきた『知識』や『技術』、あと『心構え』……とか?」
と、時折ディックとフィオナが近くにいないか注意しながら小声でそう言った。
その言葉を聞いて、
(ああ、それなら……)
と、春風は故郷『地球』で『師匠』と呼ぶ女性から教わってきたことを思い出しながら、「自分でも教えられるかも……」と考えたが、
「……いや待て待て待て! だから無理だよ俺には……!」
と、レナと同じように小声で反論したが、
「大丈夫だよ! 春風ならきっと出来るって!」
と、レナは春風の肩をバンバンと叩きながらそう言った。
更に、
「それに……あんな目をしてる彼を、そのままにしておけるの?」
と、レナはチラッと離れた位置にいるディックを見ながらそう言ったので、その言葉を聞いた春風も「え?」とチラッとディックを見ると、
「……」
ディックは今にも「お願いします!」と土下座しそうな様子だったので、
「うぐぅ……」
と、春風は気まずそうな表情を浮かべると、「はぁ」と溜め息を吐いて、ディックとフィオナのもとへと戻った。
そして、春風はディックの前に立つと、
「えっと……本当に俺に弟子入りしたいのですか?」
と、恐る恐るそう尋ねたので、それにディックが「はい!」と元気よくそう返事すると、
「俺、まだまだ未熟だし、教えられることだってそんなに多くないけど、いいですか?」
と、春風は再びそう尋ねたので、
「全然かまいません!」
と、ディックは真っ直ぐ春風を見つめながらそう答えたので、春風は「ふぅ」とひと息入れると、
「わかりました。俺に出来る範囲でよければ」
と、真剣な表情でそう言った。
その言葉を聞いて、
「あ、ありがとうございます……!」
と、ディックはパァッと表情を明るくしたが、
「ただし!」
と、それを遮るかのように春風がそう口を開いたので、それにディックだけでなくフィオナも「え?」と首を傾げると、
「『師匠』って呼ぶのやめてください。俺、そこまで偉くありませんから」
と、春風は弱々しい笑みを浮かべながらそう言ったので、その言葉にディックが「え……」と声をもらすと、
「だったら……『兄貴』って呼ばせてください! あと、敬語要りませんので! ああ、僕のことは、『ディック』と呼び捨てでお願いします!」
と、真っ直ぐ春風を見ながらそう言った。
その言葉を聞いて、
「あ、兄貴って……」
と、春風は目をパチクリとさせながら戸惑ったが、
「……はは、悪くないな」
と、小さく笑いながらそう呟き、
「ちょっと注文が多い気がするけど……わかった。それじゃあ俺のことは『兄貴』って呼んでくれ、ディック」
と、ディックに向かって敬語を入れずにそう言い、それを聞いたディックは再び表情を明るくすると、
「はい! よろしくお願いします、兄貴!」
と、春風に向かって深々と頭を下げた。




