第222話 ボロボロマントの3人組
今回は、いつもより少し短めの話になります。
時刻は昼間、舞台はエルードのとある大きな町。
その日も、町は住人と他所から来た人達といった大勢の人々がいて、それぞれ顔を合わせては様々な世間話などをして盛り上がってはいたが、
「おい、聞いたか?」
「ああ、聞いた聞いた。また『断罪官』の連中が村1つ滅ぼしたんだろ?」
「そうそう。で、殺された人達中には、女性だけでなく老人や赤ん坊もいたそうよ」
「まぁ、なんて可哀想に……」
「やめろよ! 何処で誰が聞いてるのかわかんねぇんだぞ!」
「そうよねぇ。下手したら自分達も『異端者』ってことになっちゃうんでしょ?」
「そうそう。でね、ここだけの話だけど、つい最近この近くで、『異端者』が現れたそうなのよ」
「え、それ本当!?」
「いや、あくまでも噂だけどね」
「なぁんだ、驚かすなよ」
と、彼・彼女達の口から出ていたのは、あまりにも穏やかなものじゃなかった。そしてそんな話をしていくうちに、人々の表情が自然と暗くなっていった。
そんな風に暗くなっていく人達の間を、3人の怪しい人影が通り過ぎていた。
何故、怪しいのか?
その理由は、その3人が全員ボロボロになっているフード付きのマントを羽織っていて、周りの人達に顔を見られないように、そのフードを深々とかぶっていたからだ。
そんな3人が、両手に食料や回復薬、更には必要な雑貨などを入れた紙製の袋を抱えたまま歩いていると……。
ーードン!
「あ!」
その中の1人が前方から来た男性にぶつかってしまい、思わず紙袋の中にあった果物が2つほど落ちてしまったが、
「っ!」
それに気付いたもう1人が、素早い動きで2つとも地面に落ちる前にキャッチし、元の紙袋の中に戻したので、
「お、おお! すごいなアンタ……!」
と、先程ぶつかった男性が目を大きく見開きながら驚いたが、果物をキャッチしたもう1人にギロリと睨まれてしまい、男性は思わず「うっ!」と呻いた後、
「す、すまねぇな、大丈夫だったか?」
と、目の前にいる3人のボロボロマントを羽織った人物達に向かって謝罪した。
それを聞いて、
「あ……は、はい、私は大丈夫です。こちらこそ、すみません」
と、先程男性にぶつかった人物もそう謝罪すると、
「い、いや、気にしないでくれ」
と、男性は少し大袈裟に手を振りながらそう返事した。
その後、3人のボロボロマントの人物達が男性にペコリと頭下げてそそくさとその場から立ち去ると、
「なんだか妙な連中だったなぁ」
と、男性は去っていった3人の背中を見つめながら、ボソリとそう呟いた。
それからボロボロマントの3人は、何処か急いでいるかのような感じで町を出て、そこからかなり離れた位置にある森の中に入り、更にその森の奥へと進むと、大きな木の根本で立ち止まった。
その後、3人が「ふぅ」とひと息入れると……。
ーーぐぅう。
と、その中の1人のお腹からそんな音がしたので、3人は思わず「あ……」と声をもらしながら、お互い顔を見合わせると、
「そ、それじゃあ、ここで休憩にしようか」
と、もう1人が残りの2人に向かってそう提案し、それを聞いた残りの2は「うん」と頷いた。
それから3人は、先程の町で買った食料を簡単に調理した後、木の傍に座り込んでで食事を開始した。勿論、フードはかぶったままである。
そんな状況の中、
「……ねぇ」
と、ボロボロマントの1人目がそう口を開いたので、
「ん? どうしたの?」
と、その声に2人目がそう反応すると、
「さっきの町で聞いた話のことだけど……私のことじゃないよね?」
と、1人目が不安そうな感じの口調でそう尋ねてきた。
その質問を聞いて、3人目が「あ……」と声をもらしたが、
「大丈夫。きっと別の『異端者』のことよ、あなたじゃないわ」
と、2人目が励ますようにそう言ったが、1人目はそれでも不安なのかシュンとなってしまったので、
「し、心配しないでよ! 僕がついてるから!」
と、3人目がバッと立ち上がりながら、勇ましい口調でそう言った。ただし、その体はブルブルと震えていたので、ちょっと残念な感じになってしまったが。
そんな3人目の姿を見て、1人目はクスクスと笑うと、
「ありがとう」
と、3人目に向かってそうお礼を言い、3人目は照れくさそうに頭を掻いたので、それを見た2人目は「ふふ」と小さく笑うと、
「大丈夫よ2人共。あなた達のことは、私が守るから」
と、1人目と3人目に向かって穏やかな口調でそう言った。
その後、食事を終えた3人は後片付けをすると、
「それじゃあ、そろそろ行くよ」
と、2人目がそう言ったので、それを聞いた1人目と3人目がコクリと頷くと、
「『中立都市フロントラル』……でいいんだよね? 僕達の目的地」
と、3人目が確認するかのようにそう尋ねてきた。
その質問に対して、2人目がコクリと頷くと、
「大丈夫かなぁ? もし、そこに『断罪官』が来てたら……」
と、1人目が再び不安そうな感じの口調でそう言ったので、
「大丈夫。まだそこまで私達の情報が出回ってはない筈よ」
と、2人目が再び励ますようにそう返事し、それを聞いた3人目も、1人目を見て「うんうん!」と頷いた。
そんな2人目と3人目を、1人目は交互に見た後、ゆっくりと深呼吸して、
「う、うん。そうだよね」
と、小さくそう呟くと、最後に2人目と3人目に向かって「ごめんなさい」と謝罪した。
それを聞いて、2人目と3人目はニコッと笑うと、
「よし、気を取り直して、出発しよう!」
と、2人目がそう言ってその場から歩き出したので、それについていくように、1人目と3人目も歩き始めた。
先程話に出てきたように、3人の目的地は「中立都市フロントラル」なのだが、そこで自分達の命運を左右する「運命の出会い」が待ち受けてるのを、この時の3人は知らなかった。




