第218話 「鍛治師」夫婦、バージルとミラ
エリックに「来てほしい」と言われて、生産区内にある一軒の「家」に来た春風とレナ。
その後、「家」の主らしき男性に誘われるように、エリック、イアン、ステラ、ルーシーと共に2人が中へと入ると、そのまま少し広めの部屋に通された。
部屋の中央にはには大きめのテーブルとそれを囲むように椅子が8つ置かれていて、その椅子に春風達が座ると、
「じゃ、妻とお茶を用意するから、ちょっと待っててくれ」
と、男性はそう言って、春風達を残して部屋を出ていった、
それから暫くして、
「な……なんだか、凄く緊張するんですけど」
と、春風が表情を強張らせながら、小声でそう呟いていると、春風の隣に座っているレナが、
「だ、大丈夫だよ春風。私も緊張しているから」
と、春風を見てニコッとしながらそう返事してきたので、それを聞いた春風が「そ、そうなんだ」と小さく呟いていると、
「おう、待たせたな」
という声と共に、その「家」の主らしき男性が、1人の穏やかな雰囲気をした女性と共に入ってきた。その手に8つのマグカップが置かれたお盆を持っていて、その全てから湯気が立っているのが見えた。
ただ、男性の方は脇に何かを挟んでいるのが見えたが、春風は緊張しながらも今はスルーすることにした。
そして、そのマグカップが春風達の前に並べられて、男性と女性が春風とレナの向かい側の椅子に座ると、
「さてと、まずは自己紹介だな」
と、男性が春風とレナに向かってそう言って、
「はじめまして、俺はバージル。『鍛治師』としてここで武器を造ってる。そして、妻のミラだ」
と、チラッと隣の女性を見ながらそう自己紹介し、
「ミラよ。同じく『鍛治師』として防具を造ってるわ。よろしくね」
と、女性も穏やかな笑みを浮かべながらそう自己紹介したので、
「はじめまして、ハンターの春風と申します」
「レナ・ヒューズです」
と、春風とレナも、目の前の男性と女性……以下、バージルとミラに向かってペコリと頭を下げながらそう自己紹介した。
それを聞いて、「おう、2人ともよろしくな」とバージルがそう口を開くと、
「まぁ、『はじめまして』と言ったが、実を言うと俺とミラは、お前さんのことは知ってるんでな」
と、チラッと春風に視線を向けてきたので、
「え? 俺、お二人にお会いしましたでしょうか?」
と、その視線を受けた春風がそう尋ねると、
「おうよ。お前さん、小闘技場でアーデと戦っていただろ? あれ、俺とミラも見てたぜ」
「ええ、とってもいい戦いぶりだったわ」
と、バージルとミラは笑顔でそう答えたので、
(うわぁ、見られてたのかよ)
と、春風は恥ずかしそうに顔を赤くした。
すると、
「おっと、まずは本題からだな」
と、バージルがハッとなってそう言うと、静かに椅子から立ち上がって、後ろの壁に立てかけたあるものを手に取った。それは、先程までバージルが脇に抱えていたもので、よく見ると大きな円型の形をしていたが、白い布で包まれていたので、それがなんなのか春風もレナもわからなかった。
そんな2人の前で、バージルはその白い布を剥がす。
その下から現れたのは、
「あ、俺がエリックさんに渡した盾」
そう。それは、春風が初仕事をしていた時にエリックに渡した円型の盾だったのだ。
そんな春風の言葉に、
「そうだ。エリック達から聞いたぜ。お前さん、『魔術』を使える癖に接近戦も出来るんだってな」
と、その盾をみせながら、春風に向かってそう言ったバージル。
そんなバージルを前に、
「あー、それはぁ、その……」
と、春風も答えにくそうにしていると、
「更にこの盾なんだけど……」
と、今度はミラがそう口を開いたので、それに春風だけでなくレナまでもが「え?」と反応すると、
「これ、ただの『盾』じゃないわ」
と、ミラはバージルから盾を受け取ると、盾の裏側をガチャガチャといじりはじめだしたので、
「ちょ、ちょっと! 何してるの!?」
と、レナがギョッと大きく目を見開いた次の瞬間、「ガシャン」という音と共に、盾の下部から短剣の刃が出てきたので、
「……え、何それ!?」
と、レナが更に大きく目を見開きながら、驚きの声をあげた。
すると、
「驚くのはこれだけじゃないわ」
と、ミラがそう言うと、盾から伸びた短剣の刃をしまって、
「これ、小さいけど……良く見たら『魔石』よね?」
と、盾の表面に付いている、4つの小さな宝石のようなものを指差しながらそう尋ねてきたので、
「あー、うん。そうみたいですねぇ」
と、春風は「あはは」と苦笑いしながらそう答えると、
「もしかしてだけど……これ『魔導具』でしょ?」
と、ミラが目を細めながら再びそう尋ねてきたので、その質問を聞いたエリック、イアン、ステラ、ルーシーの4人が「え、マジで!?」と言わんばかりに一斉に春風に視線を向けた。
4人の視線を受けて、
「何故、そう思ったんですか?」
と、今度は春風が目の前のバージルとミラに向かってそう尋ねると、
「これよ、これ」
と、盾の縁の部分を指差した。
よく見ると、そこには奇妙な紋様が幾つも記されていたので、それを見たエリックが、
「あの、何ですかそれ?」
と、首を傾げながらミラに向かってそう尋ねると、
「これは『魔術』の術式。魔導具の特徴の1つよ」
と、ミラはエリックに向かってそう答えた。
さて、2人のやり取りを聞いて、
(えー? 参ったなぁ、これ)
と、春風が気まずそうな表情を浮かべていると、
「で、お前さん。これ、何処で手に入れたんだ?」
と、今度はバージルが目を細くしながらそう尋ねてきたので、その質問を聞いた春風は「うぅ、何処ってそれは……」と汗を流しながら呻くと、やがて意を決したかのような表情になって、
「俺の故郷で作られたものです。それ以上は詮索しないでくれるとありがたいです」
と、真っ直ぐバージルとミラを見つめながらそう答えた。
その答えを聞いて、レナやエリック達が「え、えぇ?」と首を傾げていると、
「はぁ、そうかい。なら、質問を変えるか」
と、バージルがそう言ってきたので、その言葉に春風やレナだけでなくエリック達までもがゴクリと唾を飲むと、
「お前さんにとって、『剣』とは何なんだ?」
と、バージルはかなり真剣な表情でそう尋ねた。




