第214話 ヴァレリーからの「謝罪」と「お願い」
本日2本目の投稿です。
フレデリックとの話し合いの末、春風とレナへの「ご褒美」はデッド・マンティスの一部である鎌の部分と、相場に近い金額のお金ということに決まった。因みに、昇級に関しては、
「春風が遠慮するなら、私も遠慮します」
と、レナも春風と同じく遠慮するということとなり、それを聞いたフレデリックは「そうですか」と少し残念そうな表情になった。
話に決着がついたその時、
「ああ悪いが、私からも話がある」
と、ヴァレリーがスッと手を上げながらそう口を開いたので、それに春風とレナが「ん?」と反応すると、
「ハンス達のことについてだ。本当ならレナの家での予定だったが、今日はこの場を借りて言わせてほしい」
と、ヴァレリーが真剣な表情でそう言ったので、2人はすぐに話を聞く姿勢になった。当然、フレデリックもである。
そんな3人に向かって、
「春風、そしてレナ。改めて『紅蓮の猛牛』のメンバーがとんでもないことをして、申し訳なかった」
と、ヴァレリーが真剣な表情のままそう謝罪すると、最後に春風とレナに向かって深々と頭を下げた。それを見て、春風は何か言おうとしたが、レナに無言で止められてしまったので、ただ黙って見守ることにした。
その後、ヴァレリーはゆっくりと顔を上げると、
「あの後、レギオン内で話し合った末、春風、お前が提案したようにハンス達をうちらから追放せず、レギオン内で厳重に監視しつつ、二度と同じ過ちを犯させないように教育することが決まった。また、1つのパーティに集まると何が起きるかわからんから、あいつらには別々のパーティで活動させる。勿論、お前とレナに変なちょっかいをかけさせないようにもする」
と、ヴァレリーはハンス達への「罰」についてそう話し、
「だから、安心してほしい」
と、最後にそう付け加えながら、再び深々と頭を下げた。
そんなヴァレリーの姿勢と言葉に対して、
「わかりました。ヴァレリーさんの言葉を信じます」
「ま、今も多少ムカついてるけど、そっちがそう決めたなら、私も文句は言わないわ」
と、春風とレナがそう返事すると、
「ありがとう、2人共」
と、ヴァレリーは本気で申し訳なさそうな表情でそう言い、その言葉に対して、フレデリックは「ふふ」と穏やかな笑みを浮かべた。
そんな状況の中、
(もう、これで終わりかな?)
と、春風がそう考えていると、
「それと、重ね重ね申し訳ないのだが……」
と、ヴァレリーは言葉の通り申し訳なさそうな表情のままそう口を開いたので、
「え? どうかしたんですか?」
と、春風が「おや?」と首を傾げながら、ヴァレリーに向かってそう尋ねると、
「実はな、2人に頼みたいことがあるんだ」
と、ヴァレリーは「うーん」とますます申し訳なさそうな表情でそう答えた。
その答えを聞いて、
「え、何? レギオンへの参加なら、私も春風もお断りだけど」
と、レナが嫌そうに目を細めながらそう言うと、
「いや、それとは別のお願いだから、安心してほしい」
と、ヴァレリーが両手を振りながらそう返事したので、その言葉に春風とレナはお互い顔を見合わせると、
「もしかして……そこにいる人達に関することですか?」
と、春風は恐る恐るヴァレリーの隣りの壁を指差しながらそう尋ねた。
しかし、そこにはヴァレリー以外誰もいなくて、普通だったら、
「え? 何言ってんの?」
という言葉が春風に向けられるだろう。
しかし、ヴァレリーはおろか、フレデリックにレナでさえも、春風にその言葉を言うことはなく、寧ろ「ああ、やっぱり気付いてたか」と言わんばかりの表情になっていた。
まぁ、それはさておき、春風の質問に対して、
「ほう。いつから気付いてたんだ?」
と、ヴァレリーがそう尋ね返すと、
「最初からです。というか、俺とレナがここに入った時点で既にいましたよね?」
と、春風は更にそう尋ねたので、その質問に対してヴァレリーが「ふふ」と笑うと、総本部長室の床に片膝をついて、ソッと目の前の床に手を触れた。
次の瞬間、壁の一部がグニャリと歪み始め、それから少しするとその歪みがおさまって、それと同時にヴァレリー、春風、レナ、フレデリックの前に、2人の新たな人物が現れた。そしてそのすぐ後に、ヴァレリーは手に何か小さなものを持った状態でスッと立ち上がった。
春風達の前に新たに現れたのは、見たところ一般市民っぽいラフな服装に身を包んでいる、同じ顔付きをした2人の少年少女だった。
よく見ると、少年の方は青い短めの髪で、少女の方は長い赤髪を後ろで1つに束ねていた。
「「ど、どうも……」」
と、2人の少年少女が、春風達に向かって恥ずかしそうに顔を赤くしながらそう言うと、それを聞いた春風は、
(あれ? この子達って昨日の……)
と、目の前の2人を見て何かを思い出したかのように、僅かに目を見開いた。
すると、ヴァレリーは「コホン」と咳き込んで、
「改めて紹介させてほしい。この子達の名前は、ディック・ハワードとフィオナ・ハワード。共に『紅蓮の猛牛』のメンバーで、顔付きが似てるのは、双子の兄妹だからだ。因みに男の子が兄のディックで、女の子が妹のフィオナだ」
と、春風とレナに向かって少年少女をそう紹介し、その後、ヴァレリーは少年少女に、
「さ、2人に自己紹介だ」
と、優しく言うと、
「は、はじめまして、ディック・ハワードです!」
「い、妹の、フィオナ・ハワードです!」
と、少年少女ーー以下、ディックとフィオナは、春風とレナに向かって緊張した様子でそう自己紹介した。
そんな2人の自己紹介に対して、
「あ、これはご丁寧に。自分は春風と申します、こちらこそはじめまして」
「レナ・ヒューズよ。はじめまして」
と、春風は丁寧な口調で、レナは砕けた感じの口調で、ディックとフィオナにそう自己紹介すると、
「それで、私と春風に頼みたいことって、何?」
と、レナはすぐにヴァレリーに視線を向けると、警戒するような感じでそう尋ねた。
その質問に対して、ヴァレリーは「うむ」と頷くと、
「春風。レナ。この子達と、パーティを組んでほしいんだ」
と、ディックとフィオナの肩を叩きながら、春風とレナに向かってそう言い、それを聞いた2人は数秒ほどポカンとした後、
「「はいぃ!?」」
と、2人同時にそう驚きに満ちた叫びをあげた。




