第213話 「ご褒美」と、「拒否」
お待たせしました、1日遅れの投稿です。
そして、今回はいつもより長めの話になります。
「春風さん、あなたを『銀級』に、レナさんを『金級』に昇級とします」
と、目の前にいる春風とレナに向かってそう言ったフレデリック。
そんなフレデリックの言葉に対して、春風が「あの……」と口を開くと、
「それは一体何のご冗談ですか?」
「というか今、『報酬』って言いました? 私も春風も、あなたから依頼を受けてませんが?」
と、春風、レナの順に、フレデリックに向かってそう尋ね返した。それも、「怪しい」と言わんばかりの疑いに満ちた眼差しを向けながら、だ。
そんな2人の眼差しを受けて、フレデリックは「むむ……」と僅かにショックを受けたかのような表情になったが、すぐに首を左右に振って「コホン」と咳き込むと、
「ちょっと言い方がおかしかったですね。先程は『報酬』と言いましたが、正確に言いますと、お二人は『血塗れの両目』化したデッド・マンティスを倒しました。ご存知かと思いますが、あの魔物は昆虫系の魔物の中でもかなり強い存在でして、そのような奴をこのまま放置すれば、いずれはこのフロントラルの脅威となるでしょう。ですので、『報酬』というよりも、『強敵を倒したご褒美』と言った方がいいですね」
と、春風とレナに向かって真面目な表情でそう説明し、それを聞いた2人は、
「「なるほど、そうでしたか」」
と、納得の表情を浮かべた後、
「で、その『ご褒美』とやらが、私と春風の昇級という訳ですね?」
と、レナはフレデリックに向かってそう尋ねた。
その質問に対して、フレデリックは「その通りです」と返事した後、
「確か、レナさんは今『銀の1級』で、もうすぐ『金の3級』に上がるところでしたね? でしたら、レナさんにはこのまま『金の3級』に昇格させてもらいます」
と、レナに向かってそう言い、それを聞いたレナが「わかりました」とペコリと頭を下げてからそう返事した。
その後すぐに、フレデリックは視線をレナから春風に移すと、
「で、春風さんはまだ『ハンター』になったばかりですから、1ランク上の階級、即ち『銀の3級』に昇格させてもらいます」
と、真面目な表情でそう言ったので、
「おお、よかったじゃないか春風! 『新人』からいきなり『銀級』になるとは!」
と、それを聞いたヴァレリーが拍手しながらそう言った。
それを見て、レナも「春風おめでとう!」と拍手しながら笑顔でそう言った。
だが、
「……」
「は……春風?」
レナとは対照的に、何故か春風の表情は暗く、しかし、その瞳には何か「強い意志」のようなものが秘められているような気がして、
「ど、どうしたの?」
と、レナは恐る恐る春風に声をかけた。
すると、春風は真っ直ぐフレデリックを見て、
「フレデリック総本部長さん。申し訳ありませんが、それは受け取れません」
と、ハッキリとした「拒否」を示した。
その言葉が出た次の瞬間、総本部長室内がシーンと静まり返り、数秒後、
「……は! ちょっと春風、何言ってるの!?」
と、我に返ったレナが、春風の肩を掴みながらそう尋ねた。
その質問が聞こえたのか、
「……おい、どういうつもりだ春風?」
「そうですね、理由を聞いてもよろしいでしょうか?」
と、ヴァレリーとフレデリックは春風に鋭い視線を向けながらそう尋ねた。
その質問に対して、
「自分は別に『ご褒美』が欲しくてデッド・マンティスと戦った訳じゃありませんし、昇格についてもそこまで関心はありません。というよりも、デッド・マンティスにトドメをさしたのはレナですから、『ご褒美』はレナだけにして、自分にはなしでお願いします」
と、春風がフレデリックを見つめながらそう答えると、
「ちょ、ちょっと待ってよ春風! 春風の方がすっごい活躍してたんだから、春風にだってもらう権利はあるよ!」
と、レナは春風の肩を掴んだまま、ゆっさゆっさと揺さぶりながらそう言ってきたが、
「大丈夫だよレナ。ご褒美なら、デッド・マンティスを倒した時点でとっくにもらったから」
と、春風は笑顔でそう返事したので、その言葉にレナが「え?」と首を傾げると、
「……あ、経験値」
と、「そういえばそうだった!」と言わんばかりの納得に満ちた表情を浮かべた。
それを見て、春風が「ふふ」と小さく笑うと、
「むぅ、それでしたら……」
と、フレデリックが考え込む仕草をしながらそう呟いて、
「確か春風さんは今、『白い風見鶏』に宿泊している状態なんですよね?」
と、春風に向かってそう尋ねたので、それに春風が「ええ」と頷きながら返事すると、
「それでしたら、あなた専用の『家』は如何でしょうか? 宿屋暮らしですとお金もかかるでしょうから」
と、フレデリックは笑顔でそう提案してきた。
それを聞いて、
「あ、それいいですね!」
「うん、それがいいだろうな!」
と、レナとヴァレリーはパァッと表情を明るくしながらそう言ったが、
「それも勘弁してください」
と、春風は困ったような笑みを浮かべながら再び拒否してきたので、それを聞いたレナとヴァレリーが、
「「ええぇ!?」」
と、驚愕の表情を浮かべて、
「……理由を聞いてもよろしいでしょうか?」
と、フレデリックが春風に鋭い視線を向けながらそう尋ねると、春風は「はぁ」と溜め息を吐いて、
「こう言うのもなんですが……俺はいずれ『故郷』に帰る身です。ですので、そのようなものをもらっても困りますから」
と、再び困ったような笑みを浮かべながらそう答えた。
その答えを聞いて、レナが「うぅ……」と何処か悲しそうな表情を浮かべていると、
「おいおい。じゃあ、お前は何ならもらってくれるんだ? 総本部長がここまで言ってるのに『何もいらない』なんてそりゃないだろ?」
と、ヴァレリーが呆れ顔でそう尋ねてきたので、
「そうですね、敢えて言うなら……」
と、春風が「ふぅ」とひと息入れながらそう呟き、それを聞いたレナがゴクリと唾を飲むと、
「自分も、今ここで暮らしてるハンター達と同じように接してくれればそれでいいです」
と、ニコッとしながらそう言った。
その「願い」を聞いて、
「ほう、それはまたどうして……?」
と、フレデリックが意外なものを見るかのような表情でそう尋ねると、
「ハンターになったばかり人間が、必要な手順(?)とかをふまずにいきなり高いランクに上がってしまうと、後で色々と面倒なこととか、かなり厄介なことに巻き込まれてしまいそうですので、今のランクで出来る仕事をしっかりとこなして、ちゃんとした手順をふんだ上で上のランクに行きたいです」
と、春風は真っ直ぐフレデリックを見つめながらそう答えたので、その答えにフレデリックは
「む、むぅ、そうでしたか」
と、渋々納得したかのような表情でそう言った。
だがその後、
「ですが、それだけというのも、私のプライドが許しません。やはり、ギルド総本部長として、あなたには何か受け取ってもらいます」
と、フレデリックも真っ直ぐ春風を見つめながら言うと、再び考え込む仕草をして「うーん」と呟き、
「あ、それでしたら!」
と、何か閃いたかのような表情でそう言うと、
「それでしたら、あなたとレナさんで倒したデッド・マンティスの体の一部と、倒した働きに見合った賞金でどうでしょうか?」
と、春風を見つめながらそう提案し、その提案を受けて、
「そうですね。では、それでお願いします」
と、笑いながらそれを受けることにした。
謝罪)
大変申し訳ありませんでした。この話の展開を考えていたら、その日のうちに終わらせることが出来ず、結果として1日遅れの投稿となってしまいました。
本当にすみません。




