第205話 後処理、からの……
その後、ヴァレリー率いるレギオン「紅蓮の猛牛」による戦いが始まった。
いや、春風が見た限りでは、それは最早「戦い」などではなく、圧倒強者達による「蹂躙劇」だった。
大剣を片手にポイズン・マンティスを倒しまくるリーダーのヴァレリーも凄まじかったが、「紅蓮の猛牛」メンバー達も、ヴァレリーに負けず劣らずの戦いぶりを見せていた。
ある者は巨大なハンマーで相手の頭部を思いっきり叩き潰し、ある者は矢を何発も放って相手の腕や脚を吹っ飛ばし、またある者は春風が使ったもの以上の強力な魔術で、敵の体を焼いたり潰したり貫いたりしていた。
そんなヴァレリー達「紅蓮の猛牛」の「蹂躙劇」を見て、
(うわぁ……)
と、春風は心の中でそう呟きながら、若干ドン引きしていた。
何故なら、次々とポイズン・マンティスを屠っていくヴァレリー達の表情が、何処か楽しそうな感じに見えて、それはまるで「魔物と戦っている」というよりも、「幼い子供が楽しそうに蟻を踏み潰している」ように思えたからだ。
そんな心境の春風に、
「春風、あの人達凄いね」
と、レナがそう話しかけてきたので、
「……うん。そうだね」
と、春風はちょっと弱々しい笑みを浮かべながらそう返事した。その返事を聞いて、
(あれ? 春風、もしかして疲れちゃったのかな?)
と、レナは心配そうな表情を浮かべたが、春風本人はというと、
(ま、『強者の特権』ってやつなんだろうけど……俺はああいう風にはなりたくないな)
と、ヴァレリー達の戦いを見て、複雑そうな表情を浮かべながら、心の中でそう呟いていた。
因みに今更ではあるが、現在、春風とレナはというと、戦っているヴァレリー達から少し離れた位置にある木の根本に座り込みながら、ヴァレリー達の戦いを見つめていた。2人の傍には、他の「紅蓮の猛牛」のメンバーが2、3人いて、春風とレナに害が及ばないようにそれぞれ武器を手にしている。
さて、それから暫くすると、
「よーし、これで最後のようだね」
と、ヴァレリーがそう言いながら最後のポイズン・マンティスを倒した。
その後、
「じゃあお前ら! キチンと処理したら、フロントラルに帰還するぞ!」
と、ヴァレリーがメンバー達に向かってそう命令すると、「さてと」と春風達の方へと振り向いて、
「どうだ春風にレナ? 『紅蓮の猛牛』の戦いぶりは」
と、歩み寄りながらそう尋ねた。
その質問に対して、
「もの凄く、凄まじかったです」
と、春風がニコッとしながらそう答えると、ヴァレリーはニヤッとしながら、
「そうだろそうだろ? どうだ? うちに入りたくなったか?」
と、再び尋ねてきたが、
「いえ、それは遠慮しておきます」
と、春風にキッパリとそう言われてしまったので、
「ガーン! な、何故だ!?」
と、ヴァレリーがショックを受けながら恐る恐るそう尋ねると、
「凄まじすぎて、ついて行く自信がないからです。おまけに『自分はまだまだ弱いな』って痛感しましたし」
と、春風は困ったような笑みを浮かべながらそう答えたので、その答えにムッとなったのか、
「何言ってんだ、デッド・マンティス真っ二つにしておいて!」
と、春風に向かってそう怒鳴った。
その言葉に対して春風が「それは……」と返事しようとしたその時、
「ちょっと待ってよ」
と、それまで黙ってたレナがそう口を開いたので、
「ん? どうしたレナ?」
と、ヴァレリーがそれに「ん?」と反応すると、
「あんた達、何処から見てたの? というか、何で今日この場に来てたの?」
と、レナはかなり真剣な表情でそう尋ねたので、それを聞いたヴァレリーが「あー、それは……」と何とも気まずそうな表情を浮かべた後、やがて観念したのか、「はぁ」と溜め息を吐いた後、
「実は、今日うちのメンバーがこの辺りで仕事をしていてな、そのメンバーから『ピンチを迎えている』と報せが入ってきて、急いで他のメンバーを集めて救援に向かっていたところに、お前と春風……というか、春風があのデッド・マンティスと睨み合ってる場面に遭遇したんだ。ああ、勿論助けようとは思ってたけど、情けないことに私を含めて全員、春風のあの『邪魔は許さん!』と言わんばかりの雰囲気に呑まれて、その場から1歩も動くことが出来なかったんだ」
と、レナの質問に対してそう説明した。
その説明を聞いて、
「はぁ、そうでしたか」
と、春風は納得の表情を浮かべ、
「全くもう!」
と、レナはプンスカと怒りをあらわにしたので、それを見たヴァレリーは、
「す、すまない」
と、2人に向かって深々と頭を下げながらそう謝罪した。
その後、
「お話はわかりました。ところでちょっと質問しますが、そのメンバーさん(?)には会えましたでしょうか?」
と、今度は春風がヴァレリーに向かってそう尋ねてきたので、
「いや、残念なことにまだそのメンバーには会ってない。だが……」
と、ヴァレリーは首を横に振りながらそう言うと、森の木々の方へと向いて、
「そこにいるのはわかってるんだ、出てこいよ」
と、一言そう言った。
その時のヴァレリーの顔は、明らかに『強い怒り』に満ちていて、そのヴァレリーの言葉に春風やレナだけでなく、その場にいるレギオンメンバー全員までもがブルリと全身を震わせた。
しかし、それから少し時が経っても、森の木々はシーンとしているままで、それにヴァレリーがまた「はぁ」と溜め息を吐くと、
「聞こえなかったのか?」
と、静かにそう口を開いて、
「とっとと出てこいと言ってるんだぁ!」
と、森の木々に向かってそう怒声をあげた。
そのあまりの怒鳴りっぷりに、春風をはじめとしたその場にいる者達全員がタラリと汗を流しながら、先程以上にブルリと全身を震わせると、
『ひ、ヒィ! すみません!』
と、木々の向こうから複数の人間達の悲鳴が聞こえたので、
(あれ? この声、何処かで……?)
と、春風が心の中でそう疑問に思いながら首を傾げていると、木々の向こうから数人の男女が現れて、ヴァレリーの前へトボトボと歩み寄ってきた。
その姿を見て、
「「あ! あいつら、さっきの!」」
と、春風とレナが何かを思い出したかのようにハッとなった。
そう、ヴァレリー達の前に現れたのは、春風とレナにデッド・マンティスとポイズン・マンティスを擦り付けた、あの男女達だったのだ。




