第204話 vs赤刃の死神(血濡れの両目)・決着
(この一撃に、今の俺の『全て』を込める!)
と、春風は心の中でそう呟きながら、「師匠」に教わった「山の型」の構えをとった。
その構えに込められたもの、それは、「絶対に勝って、生き残る」という強い「想い」だ。
そして、その「想い」を生み出す為に春風が用いたもの。
それは、「信じる想い」だ。
春風は信じる。
自分自身は勿論、自身の武器である刀・翼丸の切れ味を。
そして、その「信じる想い」を「絶対に生き残る」という想いに変えると、その想いを込めて、
(斬る!)
春風は、翼丸を抜いた。
その時、もう1つの武器である夜羽から「トクン」という音が聞こえた気がしたが、春風は気にしないことにした。
まぁそれはさておき、翼丸を勢いよく引き抜いたその瞬間、真っ赤に染まった斬撃が、デッド・マンティスに向かって放たれた。
それは、デッド・マンティスの攻撃よりも速く、結果、デッド・マンティスを上半身と下半身に両断した。
上半身がドサッと地面に落ち、下半身がバタンと倒れたのを見ると、
(……手ごたえ、あった)
と、春風は心の中でそう呟きながら、翼丸を鞘へと納めた。
これで、戦いは終わったかに見えた……のだが、
「ギ……ギギ……」
何と、上半身のみとなったデッド・マンティスが、自身の鎌を支えにしてゆっくりと起き上がったのだ。
その後、デッド・マンティスは「ギ……」と呻き声をあげながら、ゆっくりと何処かへ向かおうとしたが、
「……ギ? ギギギ?」
途中、何かに気付いたのか、キョロキョロと自分の周辺を見回し始めた。
辺りには自分と、自分を真っ二つにした春風。そして、森の木々以外何もないのを確認すると、
(な、何故だ? 何故、何もないんだ!?)
と、デッド・マンティスがそう言わんばかりの困惑した表情を浮かべた。
その時だ。
「悪いわね」
と、少女のものと思わしき声が聞こえたので、デッド・マンティスはハッとなってその声がした方へと振り向くと、そこにはドヤ顔で腕を組んで仁王立ちをしているレナの姿があった。
レナは「ふふん」と鼻を鳴らすと、
「残念だけど、あんたの回復手段は、全部回収させてもらったから」
と、自身の腰のベルトに取り付けた革製のポーチをポンポンと叩きながらそう言った。
そう。それは、春風がデッド・マンティスを真っ二つにする前、
「レナ、頼みがあるんだけど」
と、真剣な表情でレナに向かってそう言った春風に、レナが「何?」と返事すると、
「俺があいつを引きつけてる間に、あいつの周りにあるポイズン・マンティスの死骸を回収してほしいんだ。レナの方が、俺よりも素早く動けると思うから。そして、俺があいつに一撃を入れる」
と、春風は真剣な表情を崩さずに、レナに向かってそう頼んだ。
それから少し口論になったが、レナはその頼みを引き受けることにし、
「おい! そこのキモ蟷螂!」
と、春風がそう罵って、デッド・マンティスを引きつけてる間に、素早くレナはポイズン・マンティス達死骸に近づくと、それら全てを自分の「無限倉庫」に放り込んだ。
そして現在、デッド・マンティスは春風によって真っ二つにされ、今まさにポイズン・マンティス達の死骸を食べて回復しようとしていたのだが、肝心のポイズン・マンティス達の死骸がないことに気が付いて、それがレナによって奪われたということを知った瞬間、
「ギィエエエエエ!」
と、デッド・マンティスはショックでヒステリックになったかのような叫びをあげた。
その叫びを聞いて、
「ほんと、うるさいなぁ」
と、レナは呆れたようにそう呟くと、自身の武器である棒を構えて、それに魔力を込め始めた。
そんなレナに向かって、上半身のみとなったデッド・マンティスが怒りに任せた一撃をお見舞いしようとしたが、レナは上空にジャンプしてそれを回避した。
そして、レナは両手でグッと魔力を込めた棒を握り締めると、その魔力を巨大な斧刃に変えて、
「いい加減、くたばれぇ!」
と、叫びながら、それをデッド・マンティスの脳天目掛けて振り下ろした。
哀れデッド・マンティスは悲鳴をあげる間もなく、レナの一撃によって見事に真っ二つにされると、そのまま絶命した。
そんな中、レナはスタッと地面に着地すると、
「あ、春風!」
と、今にも倒れそうなくらいフラついてる春風が目に入ったので、大慌てで春風に駆け寄り、ソッと抱きとめた。
「春風、大丈夫!?」
と、レナが春風に向かってそう尋ねると、
「あ、うん、俺は大丈夫。ちょっと緊張がほぐれただけだから」
と、春風は「あはは」と苦笑いしながらそう答えた。
それを聞いて、
「もう! 無茶するんだから……!」
と、レナが呆れ顔になったまさにその時、周囲の木々がガサガサと音を鳴らしたので、春風とレナが「ん?」と周囲を見回すと、前方の木々の間から、新たなポイズン・マンティスが現れたのだ。それも、かなりの数で、パッと見ただけでも10を軽く超えていた。
そんな数多くのポイズン・マンティス達を見て、
「うわぁ、同族の敵討ちのつもりかよ」
と、春風が少し冗談っぽく言い、
「こ、これ……私達でも勝てるかなぁ」
と、レナが不安そうな表情を浮かべた、まさにその時、
「2人とも、よく頑張ったな」
と、背後で聞き覚えのある声がしたので、それに春風とレナが「え?」と反応すると、その横を通って、
「あ、ヴァレリーさん」
レギオン「紅蓮の猛牛」のリーダー、ヴァレリーが姿を現した。
しかもよく見ると、ヴァレリーに続くように装備に身を包んだ屈強そうな男性や女性達がゾロゾロと現れたので、
「「え、何この状況?」」
と、春風とレナがポカンとしていると、ヴァレリーは「ふふ」と笑って、
「後は私らに任せて、ゆっくり休んでな」
と、2人に向かってそう言った。
その言葉を聞いて、春風とレナは「は、はぁ」と返事すると、ヴァレリーは背中の大剣を抜き、その切先を目の前のポイズン・マンティス達に向けると、
「お前らぁ! 気合い入れていけよ! 可愛いこちゃん2人に、『紅蓮の猛牛』の底力を見せてやりな!」
と、自身の周囲にいる屈強そうな男女達に向かってそう言い、それを聞いて、
『おう!』
と、男女達もそれぞれ自分達の武器を構えながら、ヴァレリーに向かってそう返事した。




