第199話 まさかの事態、発生!
その後、春風とレナは倒したアーマー・ボアの処理を始めた。
アーマー・ボアはかなり大きな体をしていたので、その処理は2人がかりでもかなり苦労した。
そして、無事に処理が終わったのだが、
「「はー、はー」」
と、春風とレナはかなり疲れ切った表情で苦しそうに息を切らしていたので、
「れ、レナ。ちょっと休憩しよう」
と、春風がレナに向かってそう提案し、
「そ、そうだね。そうしよう」
と、レナもコクリと頷きながら、春風の提案にのった。
それから2人は休憩出来そうな場所を見つけると、そこで食事にすることにした。今回は商店通りにある店で買ったサンドイッチと果物、そして初仕事の時にエリック達に振る舞ったお茶で、2人はそれらを飲み食いしながら、
「えっと、確認したいんだけど、レナがあと倒すのは『ポイズン・マンティス』でいいんだよね?」
「うんそう。そいつを5匹倒せばいいの」
と、今後について話し合った。
「5匹かぁ。確かそいつって『毒』を持ってるんだよね?」
「そうよ。両腕の鎌に毒を纏わせて、それで攻撃してくるの。掠っただけでも危険な状態になるから、倒す時は注意が必要なんだ」
と、ポイズン・マンティスについてそう説明したレナに、春風が「うげぇ」と嫌そうな表情を浮かべると、
「レナ、俺も一緒に戦うよ。そんな危ない魔物、1人じゃ危険すぎる」
と、すぐに真剣な表情に変えて、レナに向かってそう提案した。
その提案を聞いて、
「ふふ、ありがとう春風」
と、レナがニコッとしながらそうお礼を言ったが、
「でも大丈夫、1匹ずつなら私1人でも十分にいけるから」
と、そう言って、春風の提案を断った。
それを聞いて、春風は「で、でも……」と心配そうな表情を浮かべてきたので、それを見たレナは「うーん」と考え込んだ後、
「それじゃあ、もしもの時は手伝って。その時が来たら、遠慮なく頼らせてもらうから」
と、春風に向かってそう言ってきたので、
「うん。わかった」
と、春風はホッと胸を撫で下ろしながらそう返事した。
それから暫くの間、春風とレナは食事しながら他愛のない話をした。
そして、食事を終えた2人が後片付けをして、残りのレナの仕事をしようとその場から歩き始めた、まさにその時、遠くの方から何かが走っている音が聞こえたので、
(ん? 何の音だろう?)
と、気になった春風が、その音がした方向へと振り向くと、
「ん? レナ……」
と、春風はその方向を見つめたまま、レナに向かってそう話しかけたので、
「どうしたの?」
と、レナが首を傾げながらそう返事すると、春風はゆっくりと視線の先を指差しながら、
「なんか、誰かが凄い勢いでこっちに向かってきてるんだけど」
と、レナの向かってそう答えた。
その答えを聞いて、レナも「ん?」と春風が指差した方向を見つめると、
「あ、本当だ。しかも1人じゃないよ」
と、レナも大きく目を見開きながらそう言った。
そう、春風とレナが見たのは、遠くの方からかなり必死な形相をしている複数の若い男女が、こちらに向かって走ってくる様子だった。よく見ると、全員鎧姿だったりローブ姿をしていたので、
(もしかして、同業者かな?)
と、春風が首を傾げながらそう思っていると、その人間達がとうとう春風達の傍まで来ていたので、
「こんにちは、何かあったんですか?」
と、春風は男女に向かってそう挨拶したのだが、
「どいてくれ!」
「すみません!」
と、その中の1人である若い男性と、同じくその中の1人である若い女性が、春風に向かって必死な形相でそう怒鳴ると、「ちょ、ちょっと……!」とムッとなったレナを無視して、彼らは2人を通り過ぎた。
走り去っていく男女の背中を見つめながら、
「何だったんだ、今の?」
と、春風がレナに向かってそう尋ね、
「さぁ?」
と、その質問に対してレナが首を傾げながら返事した、まさにその時、先程男女達が走ってきた方向からガサガサと何かが近づいてくる音がしたので、
(こ、今度は何だよ……?)
と、春風は心の中でそう呟きながら、レナと共のその方向へと視線を向けると、
「「……は?」」
2人の目の前に、自分達よりも大きな蟷螂が複数も現れたのだ。
よく見ると、その両腕の鎌は禍々しい紫色をしていたので、
「……ねぇ、レナ。まさかとは思うけど、こいつって……?」
と、隣に立っているレナに向かってそう尋ねると、
「うん、間違いない。こいつがポイズン・マンティスだよ」
と、レナは紫色をした鎌を持つ、大きな蟷螂を見てコクリと頷きながらそう答えた。
その答えを聞いて、春風が「ああ、やっぱり」と小さくそう呟くと、
「……って、ん? ちょっと待ってよ」
と、何かに気付いたかのようにハッとなったので、
「れ、レナ。もしかしてだけど、さっき俺達を通り過ぎた連中って……?」
と、春風はすぐにレナに向かって恐る恐るそう尋ねようとすると、
「うん、間違いない。あいつらは私達と同じハンター。そして、春風が予想してるのは多分……」
と、レナは目の前のポイズン・マンティス達に向かってそう答え、
「あいつら、私達に魔物のなすり付けをしてきた……でしょ?」
と、最後に尋ね返すようにそう付け加えた。
そして、その質問を聞いて、
「やっぱ、レナもそう思ってる?」
と、春風が苦笑いを浮かべながら再びそう尋ねると、レナは無言でコクリと頷いた。
それを見て、
(ああ、やっぱりか!)
と、春風は心の中でそう呟きながら、「怒り」に満ちた表情を浮かべた。
その時だ。上空から何かが近づいてきて、それが春風とレナの目の前にいるポイズン・マンティス達の後ろに降り立った。
それは、目の前ポイズン・マンティスよりも一回り大きな体をした蟷螂で、その体は不気味な赤いオーラに包まれていて、更に両腕の鎌、そして、その両目はまるで血のように真っ赤に染まっていたので、
「れ、レナ……こいつ、まさか……!?」
と、その姿を見た春風が大きく目を見開きながら、レナに向かってそう尋ねると、
「うん、『血濡れの両目』化している!」
と、レナはタラリと汗を流してコクリと頷きながらそう答えた。




