第1話 日常の終わり
本日2本目の投稿です。
彼の名は、雪村春風。現在17歳の高校2年生だ。
幼い時にとある出来事で父親と母親を亡くし、その後は父親の友人である涼司に引き取られ、以降は彼と2人で暮らしている。詳しい話は後に別の形で語るので、今は伏せておくとしよう。
まぁとにかく、そんな春風はプライベートの方はちょっと問題があるが、それ以外は至って普通の高校生である。
「じゃあオヤジ、行ってきます!」
と、その日もいつものように元気よく涼司に向かってそう言うと、家を出て学校に向かった。勿論その際に、
「おう、行ってらっしゃい!」
と、涼司からの返事を聞くのを忘れずに、だ。
愛用の自転車に乗って、いつもの通学路を走る春風。その道中で出会う近所の知り合いに、
「おはようございます!」
と、挨拶しながら暫く走っていると、春風が通っている高校が見えた。
私立常陽学園高等部。それが、春風が通う高校の名前だ。
他の生徒達と共に校門を通ると、春風は高校の敷地内にある駐輪場に向かい、そこで自転車を停めた後、小走りで校舎の中へと入った。
下駄箱で靴を上履きに履き替えると、春風は廊下を歩き、階段を登って2階にある自身の教室へと向かった。
2年B組。それが、春風のクラスだ。
教室に入ると、そこには既に数人のクラスメイト達がいたので、それを確認した春風が自分の席に向かうと、
「あ、おはよう雪村君」
と、近くにいた濃い茶髪の少年が、春風に向かってそう挨拶してきたので、
「おはよう、桜庭君」
と、春風はその少年の苗字を呼びながら、そう挨拶を返した。
その後、窓際にある自分の席に着くと、
「お、おはよう、雪村君」
「おはよう、雪村君」
と、隣の席にいる短めの黒髪を持つ大人しそうな少女と、その後ろの席にいる長い茶髪をポニーテールにした眼鏡をかけた少女が、先程の「桜庭君」と呼ばれていた少年と同じように春風に向かってそう挨拶してきたので、
「おはよう、海神さんに天上さん」
と、春風は「海神さん」と呼んだ黒髪の少女と、「天上さん」と呼んだ眼鏡をかけた少女に向かってそう挨拶を返した。
それから暫くすると、教室内に他のクラスメイト達が次々と入ってきて、そこから更に少し時間が経つと、校内にチャイムが響き渡り、教室にスーツ姿の女性が入ってきて、教壇に立った。
すると、クラスメイトの1人である少女が、
「起立!」
と、声高々にそう言うと、それに続くように春風を含む他のクラスメイト達全員が立ち上がり、
「礼!」
と、再び少女が声高々にそう言うと、
『おはようございます!』
と、少女と春風を含むクラスメイト全員が、女性に向かってそう挨拶したので、
「ああ、みんなおはよう」
と、女性も笑顔で春風達に向かってそう挨拶を返し、朝のホームルームが始まった。
その後はいつものように授業が始まり、それが全て終わると春風は家に帰って、涼司と共に経営している喫茶店(因みに念の為言っておくが、家と店は一緒になっている)を手伝う。それが、春風の「日常」だった。
しかしその日、その「日常」は、突然の終わりを迎えた。
それは、いつものように授業が終わって昼休みを迎えようとしていた時だった。
その時の授業は、朝のホームルームの時と同じ女性の授業で、その授業が終了すると、数人のクラスメイト達が教室から出て行き、春風もそれに合わせて教室から出ようと席を立った、まさにその時、
「ーーーーー」
(……ん?)
突然、何処から「声」が聞こえたので、春風は思わずその場に止まって周囲を見回した。
よく見ると、他のクラスメイト達や女性も周囲を見回していたので、「声」を聞いたのは春風だけでない事がわかって、
(よかった、聞き間違いじゃないみたいだ)
と、ほっと胸を撫で下ろしていると、
「ーーーーー」
と、再び何処からか「声」が聞こえたので、
(何だ? また声が……)
と、春風が反応していると、突然、ピシャンと言う音を立てて教室の扉がしまったので、
「っ!?」
と、驚いた春風がすぐに扉に駆け寄って、その扉を開けようとしたが、
「あれ!? 開かない!?」
幾ら動かしても扉が開くことはなく、それならばと思いっきり扉に体当たりしたが、それでも扉が動くことはなかった。
そして、それはもう1つの扉も同じようで、こちらも女性教師と数人の男子が必死になって扉を開けようとしたが、全く動くことはなく、それが、教室内にいるクラスメイト達を不安にさせていた。
すると、
「ーーーーー!」
と、三度何処からかまた「声」が聞こえると、教室の床が眩い光を放ち、
「うわぁ!」
「きゃあ!」
「ひぃい!」
なんと、女性教師とクラスメイト達が、1人、また1人とその光に沈み始めたのだ。
当然、
「う、うわぁあ!」
それは、桜庭少年も含まれていて、
「っ! |水音《みなと》ぉ!」
と、驚いた春風は、光に沈み始めた桜庭少年を、思わず名前(?)で呼んでしまい、急いで彼を助け出そうとしたが、あと1歩のところで間に合わず、
「そ、そんな……!」
と、助けられなかったことにショックを受けたが、
「「きゃあああああ!」」
「っ!」
離れた位置にいる2人の少女、海神と天上も光に沈み始めたので、春風は大急ぎで彼女達のもとへと向かったが、残念なことにこちらも間に合わず、天上が先に沈み、残った海神も、
「助けて、フーちゃん……!」
と、春風をニックネーム(?)らしき呼び名でそう叫びながら、彼に向かって手を伸ばし、
「ユメちゃあん!」
と、それを見た春風も、海神をニックネーム(?)らしき呼び名でそう叫びながら彼女に向かって手を伸ばしたが、その手が触れ合うことはなく、彼女も光に沈んでしまった。
それを見た春風は、
「そ、そんな……」
と、その表情を絶望に染めたが、
「うわ!?」
とうとう春風の体も光に沈み始めたので、
(こ、今度は俺かよ!?)
と、危険を感じた春風は咄嗟に近くにあったカーテンを掴んで、沈まないように抵抗した。
だが、
「あ……」
改めて周囲を見回すと、教室にいた者達全員が消えていて、残ったのは春風ただ1人となっていたので、
(ああ……みんな……みんなが)
と、春風はその表情を更に絶望に染めた。
そして、気がつくと春風も下半身が光に沈んでいたので、恐怖のあまり、
「た、助けてくれぇ!」
と、悲鳴をあげた次の瞬間、
「この手に掴まって!」
という女性のものと思われる声と共に、春風の前に1本の腕が現れた。
床の光とは違う眩い光が伸びた、女性の腕と思われる細い腕を見て、春風は最初「え?」となったが、沈みゆく自身の体を見て、すぐに春風はその手を掴もうと右手をカーテンから離し、その手を掴んだ。
そして、しっかり握ったのを確認すると、春風はもう片方の手もカーテンから離し、右手と同じようにその手を掴んだ。
次の瞬間、グイッともの凄い勢いで光から引き上げられたので、
「ぐあああああああ!」
と、激しい痛みに襲われたのか、春風はそう悲鳴をあげた。
(オ……オヤ、ジ……)
丁度その頃、春風の実家兼喫茶店では、涼司が食器を洗っていたが、
「……春風?」
と、春風に呼ばれたような気がして、一旦その手を止めた。
さてここまで長くなったが、こうして、春風の「日常」は終わった。
どうも、ハヤテです。
活動報告に書いたように、こちらの都合で急遽連載終了となってしまった「ユニーク賢者物語」ですが、今日から修正版の投稿開始となります。
ここまで何度も修正してきた本作ですが、今度こそ最後まで書いていきたいですので、皆様、どうぞよろしくお願いします。