第185話 そして、フロントラルへ・3
本日2本目の投稿です。
そして、今回はいつもより長めの話になります。
イヴリーヌと5人の勇者達を乗せて、立ち寄った村から飛び去った後。
エルードの空を優雅に飛ぶ魔導飛空船内。その中の一室で、
「歩夢様と美羽様はご存知ですが、こちらは、ストロザイア帝国皇妃のキャロライン様です」
と、イヴリーヌが歩夢ら勇者達に、ストロザイア帝国皇妃のキャロラインを紹介し、
「改めてはじめまして。私は、ストロザイア帝国皇帝ヴィンセントの妻、キャロライン・ハンナ・ストロザイア。以後、よろしくねぇ」
と、キャロラインも穏やかな笑みを浮かべながら、歩夢達に向かってそう自己紹介した。
その自己紹介を聞いて、歩夢達は緊張してるのか、皆、ゴクリと唾を飲むと、
「こ、こちらこそ、改めてはじめまして、勇者の海神歩夢です。『歩夢』が名前です」
「同じく勇者の、天上美羽です。『美羽』が名前です」
と、既にキャロラインを知っていた歩夢と美羽も、彼女に向かって改めてそう自己紹介し、それに続くように、
「あ、暁鉄雄です! 『鉄雄』が名前です!」
「野守恵樹です! 『恵樹』が名前です!」
「夕下詩織です。『詩織』が名前です」
と、鉄雄、恵樹、詩織もビシッと直立しながら、キャロラインに向かってそう自己紹介したので、それを聞いたキャロラインは「ふむふむ……」呟くと、
「よろしくね、歩夢ちゃんと美羽ちゃん。鉄雄ちゃんにケータちゃんに、詩織ちゃん」
と、ニコッとしながら歩夢達に向かってそう言った。
ただ、恵樹だけが何となくニックネームっぽい呼び名なのが気になったが。
それはまぁいいとして、キャロラインに「ちゃん付け」で呼ばれた歩夢達は一瞬ポカンとすると、
「あー、も、申し訳ありません。キャロライン様はいつもこのような感じなのです」
と、イヴリーヌが本当に申し訳なさそうにそう説明したので、それに歩夢達が、
(え? この人、相手を『ちゃん付け』で呼ぶの?)
と、皆、そう疑問に思っていると、
「もう、イヴりんちゃんったら。私だって時と場合を弁えてるわよう」
と、キャロラインが「失礼な!」と言わんばかりに頬を膨らませながらそう言ってきたので、
「き、キャロライン様! お願いですから、その『イヴりんちゃん』って呼び名はやめてください! わたくしはもう15歳ですよ! 恥ずかしいです!」
と、イヴリーヌは本気で恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら、キャロラインに向かってそう怒鳴ったが、
「……は! す、すみません! わたくしとしたことが!」
と、すぐにハッとなって歩夢達に向かってそう謝罪したので、それを聞いた歩夢達が「い、いえ……」と声をもらした後、
「あの、キャロライン皇妃……様」
と、落ち着いた表情になった恵樹が、キャロラインに向かって声をかけてきた。
それを聞いて、
「あらぁ、何かしらケータちゃん?」
と、キャロラインがそう返事すると、恵樹は「うぅ……」と表情を強張らせたが、すぐに首をブンブンと左右に振って、
「その……桜庭君達は……?」
と、キャロラインに向かってそう尋ねたので、その質問を聞いた歩夢達が「あ、そういえば!」と今になって気付いたかのような表情になると、
「ああ、水音ちゃん達ならみんな元気よぉ。で、今は『来るべき日』に向かって鍛えている最中なの」
と、キャロラインは「ふふふ」と笑いながらそう答えたので、
「それは……一体……?」
と、美羽が首を傾げながらそう尋ねると、
「ああ、それは向こうに着いてから教えるわ」
と、キャロラインは再び「ふふふ」と笑いながらそう答えた。
その答えを聞いて、美羽だけでなく歩夢達までもが「は、はぁ……」と声をもらすと、
「ところで、何故、キャロライン様自らこちらに来たのですか? それに、ルーセンティア王国の騎士達までも、何処か手際が良すぎたかのようにこの船に乗り込んできましたけど……」
と、イヴリーヌがそう尋ねてきたので、それにキャロラインが「ん?」と反応すると、
「んー。その質問に対する答えは幾つかあるんだけどぉ、まず1つ目は、今回五神教会の人達を置いていくことは、うちの夫とウィルフちゃんの間で既に決定されていたの。で、そのことは騎士の皆さんにも予め伝えておいたのよぉ」
と、イヴリーヌに向かって笑顔でそう答えたので、
(ああ、やっぱり騎士さん達知ってたんだ)
と、歩夢ら勇者達が納得の表情を浮かべる中、
「むぅ。わたくしには何も教えられてません」
と、イヴリーヌが不貞腐れたように頬を膨らませたので、
「あらぁ、そんな顔しないでイヴりんちゃん。教会の人達に本来の目的を知られるわけにはいかなかったのよう。だからね、夫とウィルフちゃんのこと、責めないであげて」
と、キャロラインはイヴリーヌを抱きしめて「よしよし」と彼女の頭を撫でながらそう言った。
因みに、その後すぐにイヴリーヌは恥ずかしそうにキャロラインから離れた。
それからすぐに、
「で、2つ目なんだけどぉ……イヴりんちゃん達は、うちのアーデちゃんから送られてきた『映像』を見たわよね?」
と、キャロラインがそう尋ねてきたので、その質問に答えるかのようにイヴリーヌと歩夢ら勇者達がコクリと頷くと、
「あの『映像』を見てね、私も『雪村春風』に会ってみたくなったの」
と、キャロラインは笑顔でそう言った。
その言葉を聞いて、歩夢が「それって……」と呟くと、
「『映像』に出てきた彼、とても強くて、優しくて……」
と、キャロラインが真面目な表情で続けてそう言ったので、それを聞いた歩夢達が何も言えないでいると、
「すっごく……可愛かったわぁ!」
と、キャロラインがパァッと表情を明るくしながらそう言ったので、
『……は?』
と、イヴリーヌと歩夢ら勇者達は一斉に首を傾げたが、そんな彼女達を無視して、
「もう何なのあの男の子は!? あんな可愛い顔した男の子がいるなんて! これはもう、直接会いに行かなくちゃ! で、実際に会って、本当の本当に可愛かったら、もうギューッて抱き締めたいわぁ! 雪村春風……いえ、春風ちゃん!」
と、キャロラインは顔を真っ赤にして自身を抱き締め、体をクネクネと動かしながらそう言ったので、それを聞いたイヴリーヌと鉄雄、恵樹、詩織が唖然としていると、
「「……そ」」
『ん?』
「「そんなの駄目ぇえええええ!」」
と、歩夢と美羽がキャロラインに向かってそう怒鳴ってきたので、それを聞いたイヴリーヌと鉄雄達がギョッと大きく目を見開くと、
「駄目ですキャロライン様! フーちゃんに酷いことしないで!」
「そうです! 絶対に駄目ですからね!」
と、歩夢と美羽は怒り顔で「NO!」と言ったが、
「えー? いいじゃなーい。別に家族を裏切って浮気しようって訳じゃないんだしぃ、アーデちゃんが春風ちゃんのことすごーく気に入ってるみたいだからぁ。これをキッカケに帝国にむかえいれちゃおうかなーって……」
と、キャロラインは「むう」と頬を膨らませながらそう返事したので、
「え!? ま、待ってください! 今のはどういう意味ですか!?」
と、イヴリーヌも歩夢と美羽と一緒になって怒鳴りながらそう尋ねてきた。
それを聞いて、キャロラインが「えー?」と呟き、歩夢と美羽が「駄目ったら駄目ですから!」と更に怒鳴ったりして、部屋の中が一気に修羅場と化したので、
「……なぁ、野守」
「何?」
「向こうで雪村にあったらよぅ」
「うん」
「全力で問い詰めるぞ」
「オッケー」
と、鉄雄と恵樹が何やら黒い笑みを浮かべながらそう言い、それを聞いた詩織も、
「……その時は、私も混ぜてね」
と、同じく黒い笑みを浮かべながらそう言った。
そんな状況の中でも、彼・彼女達を乗せた魔導飛空船は、フロントラルに向かって飛び続けていた。
そして、そのフロントラルではというと……少年・春風の物語も、大きく動き出していた。




